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音無しの壁 ― 届かなかった音と、届いた想い ―

作者: 戸川涼一朗
掲載日:2026/04/03

この物語は、私の実体験をもとに書いたものです。

上手くいかないことばかりだった6年間でしたが、その中で見つけた「自分なりの答え」を、この作品に込めました。

中学三年生までで、私は吹奏楽を辞めるつもりだった。

定期演奏会も終わり、高校もどこに進学するか迷っていた時期だった。


そんなある日、顧問の先生から

「〇〇高校の先生が明後日来るから、親と一緒に18時に学校に来なさい」

と言われた。


突然のことだったので、私は

「何だろう?」

と思いながら当日を迎えた。


指定された時間に親と一緒に学校へ行き、校長室に来るよう言われた。

校長室のドアを開けると、そこには顧問の先生と、高校の先生が座っていた。


挨拶を済ませ、いよいよ本題に入った。


すると高校の先生から、

「高校でも吹奏楽を続けてみないか」

と誘われた。

いわゆる特待のような話だった。


私はその時、特にやりたいことも決まっていなかった。

だから、その誘いに乗ることにした。


けれど、心の中にはずっと引っかかるものがあった。

その高校のオープンキャンパスに行ったこともない。

それなのに、どうして私が誘われたのだろう。


後になって聞いた話では、同級生の子がその先生に私のことを紹介していたらしい。


正直、その時はものすごく迷惑に感じた。

自分の実力で選ばれたわけじゃない。

同級生の力で特待生になったように思えたからだ。


それから私は、卒業まで毎日部室に通い、ひたすら練習を続けた。


そして卒業後、初めて高校の吹奏楽部の部室を訪れた。


ドアを開けた瞬間、視線が一斉にこちらに向いた。

「誰?この子」

そんな目で見られているのが、はっきりと分かった。


中には知っている先輩もいたが、ほとんどが知らない人ばかりだった。

でも、それも無理はない。


他の同級生たちはオープンキャンパスに参加していて、

すでに先輩たちと何度か顔を合わせていたからだ。


その瞬間、ふと頭をよぎった。


――やっぱり、断ればよかったかな。


しばらくして、部長に呼ばれた。

「顧問のところに行って」


他の同級生と一緒に顧問の前に立つと、

「これからよろしく」

そう言われた。


もう後には引けない。

頑張るしかない、そう思った。


その後、私の担当楽器の先輩が呼びに来てくれた。


みんなで部室に戻り、それぞれの楽器の場所へ向かう。

新入生は空いている席に座る、そんな流れだった。


私は自分の席に座ろうとした。


でも――


そこには、椅子がなかった。


「あの…椅子が…」


勇気を出して先輩に声をかけると、

「あ、ごめん」

と軽く言われ、椅子を用意してくれた。


その様子から、私がどの楽器を担当するのか、

ちゃんと把握されていないことが伝わってきた。


胸の奥が、少しだけ痛んだ。


しばらくして顧問がやってきて、

先輩たちが歓迎の演奏をしてくれた。


音は本当にすごくて、

「すごい…」と心の中で思った。


でも、あの出来事が頭から離れず、

演奏に集中することができなかった。


次の日から、本格的に部活が始まった。


パート練習では、先輩が2人、同級生が1人、そして自分の4人で練習を行った。


先輩は音程に厳しく、少しでも違うと指摘してきた。

怖いと思ったが、ちゃんと褒めてもくれる人で、自分はその先輩が好きだった。


優しい先輩もいた。怒られたことは一度もない。

楽器はあまり上手くはなかったが、努力する姿を尊敬していた。


同級生はとても上手く、成長も早かった。


自分はリズムが苦手で、何度も指摘された。


それでも練習を重ね、コンクールの日が近づいていった。


メンバー発表の日。

名前は呼ばれなかった。


悔しさを押し殺し、応援する側に回った。


コンクール当日。

金賞を受賞した瞬間、心から嬉しかった。


その後、次の大会から出ることになり、特訓の日々が始まった。


努力を続けたある日、先輩に言われた。

「音が綺麗だから隣に座って」


その言葉が、何より嬉しかった。


中学から目標にしていた「綺麗な音」が認められた瞬間だった。


しかし2年生で楽器が変わり、状況は一変する。


慣れない楽器、できない演奏、繰り返される叱責。

逃げ出したくなる日々。


それでも耐え続けた。


3年生になり、期待されていない学年と言われた。


後輩が入らず、他の楽器から移動してきた2人。

自分はただ「一緒に頑張ろう」と声をかけた。


2人は努力し、自分を追い越していった。

それでも、それでいいと思えた。


最後のコンクール。

結果は全国手前。


惜しくも届かなかったが、確かに目標に近づいた。


そして引退。


お別れ会で、自分はこう話した。


「できることを一生懸命やる」

それだけを信じてきたこと。


後輩に何も言えなかった後悔。


そして感謝。


その言葉を最後に、6年間の吹奏楽人生に幕を閉じた。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。


自分は決して上手い演奏者ではありませんでした。

それでも、音だけは綺麗に出したい。

その想いだけで続けてきました。


結果として全国には届きませんでしたが、

この6年間で得たものは、結果以上に大きなものだったと思っています。


この作品が、誰かの背中を少しでも押せたなら嬉しいです。

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