1. 13歳の終焉
はじめまして。
数ある作品の中から目に留めていただき、ありがとうございます。
本作が初めての投稿になります。
未熟な点もあるかと思いますが、13歳の美少年アルの物語を最後まで見守っていただけると嬉しいです。
本作は「カクヨム」と「小説家になろう」の両サイトで連載を行っております。内容に差異はございませんが、使いやすい方のサイトでお楽しみいただければ幸いです。
よろしくお願いいたします。
13歳の終焉
降りしきる雨は、夜の街のネオンを滲ませていた。
13歳の麻美アルは、近所のコンビニからの帰り道を歩いていた。 ビニール袋の中でカサカサと鳴るポテトチップス。 そして、カバンの中でずっしりと主張する化学の参考書の重み。
「あ、これ……昨日習った塩化ナトリウムのイオン結晶構造に似てるな」
窓ガラスを伝う雨粒の軌跡を見て、そんな変なことを考える。 少しだけ化学オタクな、どこにでもいる?普通の中学生。
それが、彼の日常だった。
しかし――その日常は、路地裏から響いた鋭い怒鳴り声によって、唐突に引き裂かれた。
「逃げられると思ってんのか、コラぁ!」
声のした方へ目を向ける。 黒塗りの車の影。そこには、怯える女子高生と、彼女を囲む数人の男たちがいた。
男たちの背中には、夜の闇よりもどす黒い『暴力』の気配が張り付いている。
足が震えた。 逃げるべきだ、と本能が警鐘を鳴らす。
けれど。 助けを求める彼女と目が合った瞬間――アルの体は、思考を追い越して動いていた。
「……やめろ! 警察を呼んだぞ!」
ハッタリだった。 スマホを取り出す手はガタガタと震えていたが、男たちの注意を引くには十分だった。
「あ? ガキが、ナメた真似してんじゃねえぞ」
男の一人が、懐から銀色のナイフを抜き放つ。
「逃げて!」
アルが叫ぶと同時に、女子高生は隙を突いて逃げ出した。
だが、その代償はアルにとってあまりにも大きかった。突き出された刃が脇腹に深々と沈み込む。
「あ……」
熱い。 いや、あまりに熱すぎて、逆に氷を押し当てられたような錯覚が全身を支配した。
男たちが慌てて逃げ去る足音が、遠のいていく。
アルはその場に崩れ落ち、冷たいアスファルトの上に横たわった。
(あ、雨……冷たいな……)
視界が、急速に狭まっていく。
最初は、痛みですらなかった。 ただ、何かが自分の体の中に入り込んできたという、強烈な異物感。
脇腹に突き刺さったナイフの感触は、すでに痛覚を超え、焼けた鉄棒を押し当てられているような熱に変わっていた。
*
袋から放り出されたポテトチップスが、雨に打たれて虚しく音を立てている。
その隣には、彼が愛してやまなかった化学の参考書が、泥にまみれて転がっていた。
理不尽だった。 コンビニの帰り道、女子高生を助けようとした結果が、これだ。
(……俺、死ぬのか。ここで……)
脳裏に、理科実験室の匂いや、放課後の実験で見たビーカーの中で、美しく青白い炎の科学反応が蘇る。
アルは様々な『物質』が組み合わさり、新しい価値を生む『化学』の世界に魅了されていた。
この世界は、原子でできている。 結びつき方ひとつで、石ころが宝石になり、ただの空気が爆発的なエネルギーを生む。アルはいつもやっているゲームで魔法の原理=化学も同じだと考えていた。
もっと学びたかった。 世界のエネルギー問題を解決するような、新しい魔法を発見したかった。魔法で世界を明るく楽しく、豊かにしたかった。
(もっと……友達と、笑いたかったな……) (母さんの作った、不格好なオムライスも……まだ食べたかった……)(彼女もできていないし……)
やりたいことが、まだ、たくさんあった。
(俺の人生……このまま終わってたまるかよ……)(彼女もできていないし……)(彼女もできていないし……)(イヤダ……)
無念の思いと共に、麻美アルの意識は深い闇へと沈んでいく。
鼓動が、静かに停止した。
しかし。 意識が完全に消失する直前、アルが感じたのは、雨の匂いではなかった。
――世界のモデルが使うような香り。官能的なまでに芳醇な、未知の香りが鼻腔をくすぐった。
第1話をお読みいただき、ありがとうございました!
自分の大好きな「化学」と「美少年への憧れ」を詰め込んだ、初めての作品です。 コンビニ帰りに人生が終わってしまったアルですが、ここから彼の新しい人生が始まります。
次回、いよいよ女神様が登場し、アルへの「美少年LOVE」が幕を開けます!
もし「続きが気になる!」「アル、頑張れ!」と思ってくださったら、 下の【ブックマークに追加】や【広告の下にある評価の★】をポチッと押して応援していただけると、執筆の大きな励みになります!
よろしくお願いいたします。




