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強欲の代償 ― 腐った帳簿と、倍返しの包囲網

「……信じられん。ありえん! 貴様、どこでその情報を手に入れたッ!」


ロンドンの東インド会社、理事室。サー・ジャック・メイジャーの顔から、先ほどまでの冷徹な余裕が霧散していた。彼が握りしめているのは、ヨシュア・ゴールドシュミットが叩きつけた一枚の極秘報告書――いや、「死の宣告」だ。


「フッ、ジャック。お前は数字を愛していると言ったな。だが、お前が見ていたのは『机上の空論』という名の虚像に過ぎないッ!」


ヨシュアは一歩、また一歩とジャックのデスクへ詰め寄る。その瞳には、救済という名の冷たい炎が宿っていた。


「お前は清の国民にアヘンを売り込み、回収した銀で茶を買い占め、帝国の国庫を潤すと計算した。だが、お前が『経費』として計上し忘れたものが一つある。……それは、現地の役人たちが肥やした『私腹』だッ!」


「何だと……?」


「お前の部下たちは、輸送船の底に隠したアヘンの半分を横流しし、広東の汚職役人と結託して帳簿を偽造している。その損失額、年間にして50万ポンド。お前が『完璧な均衡』と呼んだ利益の半分は、最初から存在しない幻影なんだよッ!!」


ヨシュアの声が、重厚な壁を震わせる。それは正義感ゆえの怒りではない。不合理な悪、そして非効率な破滅に対する、超一流の「バンカー」としての咆哮だった。


「ジャック、お前は清を廃人にすることで、イギリスを救おうとした。だが、その結末は何だ? 清の国力が衰退すれば、いずれ銀の流出は止まり、巨大な市場は文字通り『死体』と化す。死人から茶を買うことはできんッ! お前の計画は、帝国の未来を前借りして食い潰しているだけだッ!!」


「黙れ……ッ! 私を、東インド会社を愚弄する気か!」


ジャックは拳を机に叩きつけたが、その拳は震えていた。ヨシュアが提示した「横流しの証拠」は、彼が必死に隠蔽してきた監査の不備を、鋭利な刃物のように抉り出していたからだ。


「愚弄しているのはお前の方だ、この世界の平和をッ! お前がアヘンという『死の泥』を広めれば、東洋と西洋の信頼は完全に失墜する。その先に待っているのは、終わりのない血の海だ。……そんな未来、この俺が、断固として拒絶するッ!!」


ヨシュアは懐から、さらに厚い一束の書類を取り出した。


「これは、シティの有力銀行12行による共同声明だ。本日を以て、東インド会社が発行する『アヘン債券』の引き受けを全面的に停止する。お前の野望は、今この瞬間、金融という名の檻に閉じ込められたのだッ!」


「……貴様ッ……! 銀行家としての立場を弁えろッ!!」


「立場だと? 笑わせるな。俺の立場は、常に『正しき利益』と共にある。……ジャック。お前が仕掛けたこの汚いゲーム、俺がすべて、正当なマネーゲームで上書きしてやる」


ヨシュアはジャックの鼻先に指を突きつけ、地を這うような低い声で宣告した。


「やられたらやり返す。……いや、お前にはその十倍の絶望を味わってもらおう。……十倍返しだッ!!」


崩れ落ちるように椅子に座り込むジャックを背に、ヨシュアは一顧だにせず部屋を後にした。廊下を歩く彼の脳内では、すでに次の戦略――清の林則徐へと繋がる、巨大な「銀の循環路」の再構築が始まっていた。

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