第7話 女神ミスティア、査定される
その面談は、俺抜きで行われるはずだった。
「本来は、神界の内部監査ですので」
そう言っていたリアが、
なぜか俺と一緒に、白すぎる空間に立っている。
「……なんで俺いるの」
「その……」
リアが目を逸らす。
「“参考人”だそうです」
嫌な予感しかしない。
そこは、神界会議室。
床も壁も天井も、すべてが白。
椅子は宙に浮き、机は存在しているようでしていない。
そして正面には――
七柱の神。
全員、姿形がバラバラだ。
光の塊、老人、少女、獣、概念っぽい何か。
共通しているのは、
全員が疲れた顔をしていることだった。
「では始めよう」
中央の神が、淡々と告げる。
「女神ミスティア。
あなたの“異世界召喚案件”についての、査定だ」
ミスティアが、びしっと背筋を伸ばす。
「はいっ!」
「結果から言おう」
空気が、少し重くなる。
「大失敗だ」
即死級だった。
「えええええっ!?」
ミスティアが叫ぶ。
「ま、待ってください!
世界は平和になりましたよ!?」
「魔王が消えただけだ」
「それが問題だ」
別の神が口を挟む。
「魔王とは、世界の“圧力弁”だ」
「恐怖、緊張、対立――
それらを一身に引き受ける役割」
「それを“立っていただけ”で消した結果」
神の一柱が、俺を見る。
「世界が、あなたに依存し始めている」
俺は肩をすくめた。
「頼られた覚えはない」
「頼られる前に解決している」
「それも問題だ」
ミスティアが慌てて言う。
「で、でも!
透真さんは自制してます!」
「だから厄介なのだ」
神々が、静かにうなずく。
「自制できる災害ほど、扱いに困るものはない」
リアが、ぐっと拳を握る。
「……失礼します」
勇気を振り絞るように、彼女が言った。
「桐生様は、世界を支配しようとしていません」
「支配する必要がないほど強い」
「……」
リアは、言葉に詰まった。
中央の神が、議題を戻す。
「女神ミスティア」
「は、はい……」
「あなたは、
“規格外”を召喚した」
「はい……」
「その後処理を、
本人に丸投げした」
「……はい……」
「よって」
神の宣告。
「降格」
ミスティアが、固まった。
「え」
「上級補佐女神から、
世界観測補助員へ降格」
「給料も減る」
「ボーナスもなし」
「神力使用制限付き」
ミスティアの目から、光が消えた。
「……終わった……」
俺が言った。
「自業自得では」
「言わないでください!」
リアが小声でフォローする。
「……でも、世界は回っています」
神々が、リアを見る。
「その“回っている”原因は?」
リアは、はっきり言った。
「桐生様です」
一瞬、沈黙。
神の一柱が、低く言う。
「つまり、問題の中心」
「……」
俺は、ため息をついた。
「で?」
全員が俺を見る。
「俺、どうなるの」
神々は、互いに視線を交わした。
「現時点では」
中央の神が答える。
「保留だ」
「一番嫌なやつ」
「だが」
神は続ける。
「あなたは、
“世界に必要”でもあり、
“世界にとって危険”でもある」
「だから」
「しばらくは、
世界の内側で観測する」
「監視付きで」
女神ミスティアが、顔を上げる。
「監視役って……」
神の視線が、彼女に向く。
「お前だ」
「えっ!?」
「降格した理由を考えろ」
ミスティアが、ゆっくり俺を見る。
「……透真さん」
「なに」
「これから、
四六時中一緒です……」
「地獄だな」
「私のセリフです!」
神々は、静かに結論を下した。
「女神ミスティアを、
桐生透真の専属監視役に任命する」
「失敗したら?」
「次は封印を検討する」
空気が、冷えた。
リアの顔が、青ざめる。
俺は、ただ頷いた。
「了解」
その反応に、神々が少しだけ驚いた。
「怖くないのか」
「面倒なだけ」
正直だった。
面談は、そこで終わった。
白い空間が崩れ、
再び王城の部屋に戻る。
ミスティアは、床に座り込んだ。
「……降格……」
「監視役、おめでとう」
「全然めでたくないです!」
リアが、そっと言った。
「……でも」
二人が見る。
「神々が、あなたを“すぐ消さない”と決めたのは、
信頼でもあります」
俺は、少し考えた。
「信頼というより」
「?」
「様子見」
リアは、苦笑した。
その夜。
俺は、窓の外を見ていた。
王都は、今日も平和だ。
(この平和)
(俺がいなくても、続くかな)
そんな考えが、頭をよぎる。
神々の言葉が、残っていた。
――必要で、危険。
たぶん次は。
俺が“いない場合”の話になる。
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