第6話 元魔王幹部、再就職希望
次に来た仕事は、リアが少し言いにくそうに持ってきた。
「……その、次の案件ですが」
「嫌な予感しかしない」
「魔王軍残党からの、正式な面談要請です」
俺は、しばらく黙った。
「……残党って」
「はい。
正確には“元”魔王軍幹部の方々です」
「生きてたんだ」
「魔王様だけ、名乗り途中で……」
リアはそれ以上言わなかった。
面談場所は、王城の地下会議室。
なぜ地下かというと――
「威圧感を抑えるためです」
とガルドが言っていたが、
正直「地上に出すのが怖いだけ」だと思う。
扉を開けると、そこにいた。
四人。
全員、人間ではない。
角がある。
肌の色が違う。
影が妙に濃い。
だが――
全員、姿勢がやけに良い。
「……失礼します」
最初に口を開いたのは、スーツを着た魔族だった。
いや、スーツっぽい何か、か。
「我々は、元・魔王軍四天王でございます」
「……四天王、多いな」
リアが小声で補足する。
「代替わりが激しかったようです」
(ブラック企業か)
四天王の一人、筋骨隆々の獣人が、深々と頭を下げた。
「勇者……いえ、調整役殿。
本日は、お願いがあり参りました」
「なに」
「……就職の斡旋を」
沈黙。
女神ミスティアが、思わず叫ぶ。
「就職!?」
「はい!」
全員が、やけにいい返事をした。
「魔王様が消滅されて以降、
我々の業務は、すべて停止しております」
「停止って」
「侵略計画、略奪業務、恐怖演出、すべてです」
「業務扱いなんだ」
「成果主義でしたので」
(やっぱりブラックだ)
別の四天王、細身で眼鏡をかけた魔族が、淡々と続ける。
「魔王軍は、実はかなり合理的な組織でした」
「疑ってない」
「しかし現在、我々は無職です」
リアが帳面を開く。
「……生活費は?」
「貯蓄はありますが、
“世界を滅ぼす予定”前提の資産運用でしたので」
「長期向きじゃない」
「はい」
全員、うなずいた。
俺は、四人を見た。
「……戦う気は」
「ありません」
即答。
「正直に申し上げますと」
獣人の四天王が、耳を伏せる。
「……魔王様が消えた瞬間、
“あ、無理だ”と」
「判断早いな」
「生存本能です」
俺は、リアを見る。
「世界的に、元魔王軍って扱いどうなってる」
「現時点では、
“危険だが行動していないため保留”です」
「保留は一番困る」
四天王たちが、そろってうなずいた。
「首を切るなら切ってほしい」
「それはそれで諦めがつく」
「宙ぶらりんが一番つらい」
女神ミスティアが、ひそひそ言う。
「……被害者ですね」
「同意」
俺は、資料をめくる。
魔王軍幹部のスキル一覧。
・統率
・恐怖演出
・資源管理
・拠点構築
・情報操作
「……優秀だな」
四天王が、誇らしげに胸を張った。
「はい!」
「……使い道、山ほどある」
その瞬間。
四天王全員の目が、きらっと光った。
「本当ですか!?」
「世界、いま人手不足だろ」
リアがうなずく。
「復興、治安、インフラ、交渉……」
「恐怖演出は?」
「それは要らない」
しょんぼりする四天王。
「代替案ある」
「何でしょう!」
「抑止力」
四天王たちが、顔を見合わせる。
「“怖いけど、ちゃんと働いてる存在”って、
治安に効く」
獣人が、ぽつりと言った。
「……それ、得意です」
「だろうな」
俺は決めた。
「よし。
旧魔王領の治安管理と、
危険地域の統治、任せる」
四天王が、一斉に立ち上がった。
「ありがとうございます!」
「感謝します!」
「裏切りません!」
「……もう裏切る先ないけど」
女神ミスティアが、目を潤ませる。
「なんて平和的な解決……」
リアが、帳面に書く。
「“元敵勢力、再配置成功”」
俺は、釘を刺した。
「一つだけ条件」
四天王が、姿勢を正す。
「俺の目の届く範囲でやれ」
「……逆らったら」
「消える」
四天王たちが、即座に深く頭を下げた。
「了解しました!」
判断が早い。
面談が終わり、四天王たちは退出した。
部屋に残ったのは、俺たち三人。
女神ミスティアが、ぽつりと言う。
「……世界、変わってきてません?」
「うん」
リアが言った。
「敵も味方も、
“役割”で再定義されています」
俺は、椅子にもたれた。
「壊すより、配置換えの方が楽」
女神が、少し真面目な顔になる。
「でも……」
「なに」
「あなたがやりすぎると、
世界はあなたなしじゃ回らなくなる」
リアが、黙ってうなずいた。
俺は、天井を見上げた。
(そのうち、来るな)
面倒なやつ。
たぶん、神々の本音が。
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