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無能と追放された俺の「常識」、どうやらこの世界では神の叡智らしい ~定時で帰りたいのに辺境再建から始まる国家再生計画(プロジェクト)~  作者: ヲワ・おわり
第10章:常識という名の最終兵器

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繋がる点と線

司令室の空気は、嵐の前の静けさに、固く閉ざされていた。

窓の外では、まるで俺たちの心情を映し出すかのように、冷たい秋の雨が、激しく窓ガラスを叩いている。

壁に貼られた巨大な王国地図の上には、この数日間で俺たちが、文字通り不眠不休で集めた、おびただしい数のメモや羊皮紙が、ピンで留められていた。

それらは、一つ一つが、巨大な陰謀を構成する、断片的な証拠――「点」だった。


俺たち四人は、その地図を前に、最後の情報を突き合わせていた。

その表情には、疲労の色が濃く浮かんでいる。だが、それ以上に、真実を、そしてその先にある正義を、自らの手で掴み取らんとする、強い意志の光が宿っていた。


最初に口火を切ったのは、リリアだった。彼女が担当したのは、陰謀の生命線である「カネ」と「モノ」の流れだ。

「――まず、金の流れです」

彼女が広げた帳簿は、もはや芸術品の域に達していた。

「ロデリック辺境伯は、ここ半年で、正体不明のダミー会社に対し、多額の支払いを行っています。その金の流れを追ったところ、最終的に、帝国の武器商人の懐に渡っていることを突き止めました。これは、彼が横領した軍事予算で、帝国への裏金を工面していた、動かぬ証拠です」

「次に、物の流れ。数週間前、辺境伯領から帝国方面へ、大量の『塩漬け肉』が運ばれています。表向きは通常の交易ですが、その量は、辺境伯領の年間生産量を、遥かに超えている。王国各地から秘密裏に買い集めた食料を、帝国軍への兵糧として、横流ししたものでしょう」


続いてダリウスが、分厚い法律書を脇に置き、報告を始めた。彼が担当したのは、「法」と「行政」の抜け穴だ。

「法的な側面から報告する。妨害工作があった全ての工区の土地所有権を調べた。全て、ロデリック辺境伯の一族か、彼に大きな借りがある貴族の名義になっていた。偶然にしては、あまりにも出来すぎている」

「さらに、君の兄君、カイル殿の最近の動向だが、彼が魔導師団の権限を濫用し、王都と辺境伯領を結ぶ、緊急時用の転移陣を、無許可で複数回使用した記録を発見した。これが、彼が密会を重ねていた、これまた動かぬ証拠となる」


最後にエリアーナが、一枚のスケッチをテーブルの上に広げた。彼女が担当したのは、「現場」に残された、物理的な証拠だ。

「現場からの、最後の報告です」

その声は、苦渋に満ちていた。

「先日捕らえた妨害工作員の一人が、隠し持っていた短剣です。これに刻まれた、この微細な紋様は…兄上、カイル様が、個人的に率いている、魔導師団内の非公式な部隊、『影の百合』のものです」

「…兄は、自らの忠実な部下を、この国家への反逆に、利用していたのです…」


全ての報告が出揃った。

部屋は、雨音だけが響く、重い沈黙に包まれる。

俺は、仲間たちが命がけで集めてくれた、全ての「点(情報)」を、地図の上で、赤いインクを浸した羽根ペンで、ゆっくりと、そして確かに、「線」で結んでいった。


ダミー会社から、帝国の武器商人へ。

王国各地の食糧商人から、ロデリック辺境伯領へ。

カイルが使った転移陣から、妨害工作の現場へ。

そして、ロデリック辺境伯の屋敷から、帝国の国境線へ。


蜘蛛の巣のように張り巡らされた、赤い線。

それは、この国を蝕む、巨大な陰謀の、完璧な設計図だった。

俺は、その地図を前に、静かに、そして断定的に、語り始めた。


「――これで、全て繋がりました」

「彼らの目的は、単なる妨害工作ではない。帝国軍を、この王国内に『招き入れる』こと、そのものだ」


「ロデリック辺境伯は、帝国に内通し、戦後の高い地位を約束されている。その見返りとして、国の予算を横領し、帝国への軍資金と兵糧を提供している」

「我々の補給路建設は、彼らにとって邪魔でしかなかった。だから、プロジェクトを遅延させ、王国の防衛力を削ぐために、妨害した」

「そして俺の兄、カイルは。個人的な私怨と、歪んだ野心から、この国家反逆計画に加担した。彼こそが、王都と現場を繋ぐ、重要な『連絡役』だったのです」


俺が語り終えた時、仲間たちは、そのあまりに巨大で、そして邪悪な陰謀の全体像に、息を呑んだ。

ダリウスが、ゴクリと喉を鳴らして、呟いた。

「…恐るべき陰謀だ。だが、最高顧問殿。これだけの状況証拠があっても、彼らは『知らぬ存ぜぬ』で押し通すだろう。大貴族である辺境伯と、王室魔導師団の幹部である君の兄君を、法廷で確実に裁くには…。彼らが、絶対に言い逃れできない、『決定的な物証』が、必要不可欠だ」


その、誰もが思う懸念。

それに、俺は、これまで見せたことのない、不敵な笑みを浮かべて、答えた。


「ええ、分かっていますよ。ダリウスさん」

「だから、用意しました」


俺は、懐から一枚の一見すると何の変哲もない、ただの羊皮紙を取り出した。


「彼らが、自らの手で、その愚かな反逆罪の契約書に、喜んでサインせざるを得なくなるような」

「――とっておきの、『最終兵器』をね」


俺が仕掛ける、最後の、そして最大の「罠」。

その静かな、しかし確実な幕開けを、司令室にいる誰もが、予感していた。

窓の外では、まるで呼応するかのように、嵐が、ますますその勢いを増していた。

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