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無能と追放された俺の「常識」、どうやらこの世界では神の叡智らしい ~定時で帰りたいのに辺境再建から始まる国家再生計画(プロジェクト)~  作者: ヲワ・おわり
第3章:テュロスの市場と最初の牙

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残された謎と新たな旅立ち

戦いの興奮が冷め、夜が明け始めたテュロス村は、後片付けに追われていた。

代官の館の前では、エリアーナが、捕虜となった山賊の頭目を厳しく尋問していた。

だが、頭目は口が堅かった。「俺たちは、ただのしがない追い剥ぎだ。金儲けに目が眩んだだけよ」と、悪態をつきながら繰り返すばかりで、背後関係については一切白状しようとしない。


そこへ、俺が、彼のものだった大剣を手に、静かに近づいた。

俺は、その剣の柄に刻まれた、鷲を模した特徴的な紋章を、彼の目の前に突きつける。


「しがない追い剥ぎが、これほど見事な紋章の入った剣を持つとは思えませんね」

俺は、冷ややかに言い放った。

「これは、我らが領主オルバン伯爵と、隣接する領地の領主、ロデリック辺境伯の私兵が持つものと、非常によく似ている」


エリアーナが、騎士としての知識で、俺の言葉を補足する。

「間違いありません。ロデリック辺境伯は、王国内でも特に軍備の増強に力を入れていることで有名です。このような質の良い鋼の剣を、ただの山賊に与えるはずがない」


動かぬ物証を突きつけられ、頭目の顔に、初めて焦りの色が浮かんだ。彼は、バツが悪そうに視線をそらし、それきり固く口を閉ざしてしまった。



執務室に戻った俺たちは、地図を前に、改めて状況を整理していた。

「我々の市場の成功が、辺境伯の支配する商業ルートの利益を損なった…。その報復、あるいは市場そのものを奪い取るための襲撃と考えるのが、妥当な線でしょうね」

俺の推測に、リリアが帳簿を手に、さらに深い分析を加える。

「だとしたら、問題は根深いかもしれません。ロデリック辺境伯は、領都の旧商人ギルドとも、深い繋がりがあると聞いています。今回の件は、辺境伯個人の判断ではなく、我々の台頭を快く思わない、より大きな組織の意思が働いている可能性も…」


俺は、自分が起こした「改革」という名の小石が、自分が思っていた以上に巨大な波紋を広げ、領主間の政治闘争という、最も厄介な領域にまで達してしまったことを、はっきりと悟った。

(…スローライフが、どんどん遠ざかっていく…)

俺が、心の中で深いため息をついた、その時だった。


「ご報告します! 領主様からの、お使いです!」

村の若者が、息を切らして館に駆け込んできた。

館の外には、埃まみれの馬に乗った一人の使者が、領主であるオルバン伯爵の紋章旗を掲げて、待っていた。彼は、一夜にして要塞と化したテュロス村の変貌ぶりと、山賊を撃退した後の村人たちの活気に、ただただ目を見張っている。


使者は、俺の前に進み出ると、恭しく礼をし、封蝋で固く閉じられた一通の書状を差し出した。

「代官ケイ・ヴァイフ-ジノミヤ殿に、我が主君、オルバン伯爵様よりの、召喚状にございます」


俺が書状を開くと、そこには、力強い筆跡で、こう記されていた。


『――テュロスの奇跡、聞き及んでおる。山賊撃退の手腕も見事。

そなたの持つその『理』、ぜひとも我が目で確かめたい。

護衛を伴い、直ちに領都まで出頭せよ』


「領主様が、直々に…! ケイ様、これはあなたの功績が、ついに中央に認められた証です!」

エリアーナは、手柄を立てる絶好の機会だと捉え、目を輝かせている。

「領都へ…。そこへ行けば、今回の襲撃の黒幕について、もっと詳しく調べられるかもしれません」

リリアは、冷静にそう分析し、同行の意思を固めている。


俺は、その召喚状を手に、天を仰いだ。

(出頭命令か…。前世で言えば、県庁からの呼び出しみたいなものか。一番面倒くさいやつじゃないか…)


俺は、仲間たちに向き直る。

テュロス村の空は、戦いの後とは思えないほど、青く高く澄み渡っていた。

だが、これから向かう領都の空は、果たしてどんな色をしているのだろうか。


俺の意図とは裏腹に、物語の歯車が大きく、そして否応なく回り始めたのを感じながら。

俺は、覚悟を決めた(諦めた)声で言った。


「…仕方ない。準備をしましょうか。領都へ」

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