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無能と追放された俺の「常識」、どうやらこの世界では神の叡智らしい ~定時で帰りたいのに辺境再建から始まる国家再生計画(プロジェクト)~  作者: ヲワ・おわり
第2章:大地と数字の改革

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芽吹く未来

最強の現場監督(棟梁)を得て、テュロス村の改革は、まるで新しい心臓を移植されたかのように、力強く脈動し始めた。

これまでバラバラだった村人たちが、一つの大きなプロジェクトチームとして、有機的に機能し始めたのだ。


夏の強い日差しが降り注ぐ中、村の西側では、バルガスが村の若者たちに檄を飛ばしながら、用水路建設の指揮を執っていた。

「そこは図面通りに掘れ! 旦那の線は、1ミリたりとも狂わせるんじゃねえぞ!」

彼の怒号は厳しくも、その指導は的確だった。若者たちは、日に日にたくましくなる自分たちの腕と、少しずつ形になっていく巨大な水路に、汗を流しながらも充実した表情を浮かべている。


村の集会所は、今や「プロジェクト管理室」と化していた。

リリアが、涼しい顔で帳簿をつけながら、資材の在庫管理や人員配置の最適化を行っている。

「バルガスさんの組は、石材が予定より早くなくなりそうです。隣の地区の開墾組から、3名、応援を回してください」

彼女の指示は、もはや村の頭脳であり、その差配によって、村の労働力は一滴の無駄もなく、最も効率的な場所へと注がれていく。


そして、畑仕事が終わった夕暮れの広場では、エリアーナが、村人たちに基本的な槍の扱い方を教えていた。

「来るべき脅威に備えるのも、村を守る者の務めです! 構えを低く!」

彼女は、村の治安維持と防衛の責任者として、人々からの信頼を一身に集めていた。


農業の現場でも、農夫たちが俺が作成した三圃式農業のマニュアルに従って、丁寧な作業を続けている。

青々と茂るクローバー畑では村の子供たちが鬼ごっこをして遊び、豆畑では女性たちが談笑しながら楽しげに草むしりをしていた。

村全体が、一つの明確な目標に向かって、未来への希望を持って、力強く動き出している。


その日の夕暮れ。俺は、村全体を見渡せる丘の上に、エリアーナとリリアを伴って立っていた。

夕日に染まる村は、俺が最初に見た、あの死にかけの光景が嘘のように、生命力に満ち溢れていた。


エリアーナが、感極まった様子で、その光景を見つめている。

「これが…ケイ様が見ておられた、未来の景色なのですね…」

彼女の瞳には、かつて夢見た「国を導く理想の将軍」の姿と、俺の姿が完全に重なっているようだった。その視線に込められた、騎士としての忠誠以上の熱い想いに、俺は気づかないふりをした。


隣で、リリアが静かに呟く。

「この光景の全てが、数字で証明できます。労働生産性の向上、資産価値の増加…。そして、その根源にあるのは、ケイ様の頭脳…」

彼女が感じているのは、俺の思考プロセスそのものへの知的な共感と、そして自分こそが彼の最も有能な理解者でありたいという、静かだが強い独占欲だった。彼女が俺の隣に立つエリアーナを、意識的に視界の隅に追いやっているのにも、俺は気づかないふりをした。


そして、俺自身は。

俺もまた、眼下に広がるその光景に、満足げに頷いていた。

だが、俺の思考は、完全に「プロジェクトマネージャー」のものだった。


(うん、各部署への権限委譲は、うまくいっているな)

(バルガス棟梁への現場裁量権、リリア室長への予算執行権、エリアーナ隊長への労務管理権。これで、俺がいちいち細かい指示を出さなくても、現場は勝手に回る)

(作業がマニュアル化され、PDCAサイクルが回り始めた。素晴らしい。この調子なら、プロジェクトは工期を前倒しで完了できるぞ)


そして、俺の思考がたどり着く結論は、ただ一つ。


(よし! これで俺の業務量が大幅に削減される! 念願の定時退勤と週末の完全休日が、ついに確保できるぞ!)


仲間たちが抱く、救国の理想や、知的な共感といった壮大な想い。

そのすぐ隣で、俺は、あまりにも個人的で、切実な目標の達成に、一人、心からの喜びを噛みしめていた。


「素晴らしい光景ですね、ケイ様」と、エリアーナが言う。「これが、貴方様がこれから築かれる王国の、最初の礎となるのですね」

「ええ」と、リリアが頷く。「この村の成功モデルは、他のどの都市にも応用可能です。これは、この国の未来そのものですわ」


「え? ああ、そうですね」

俺は、曖昧に相槌を打つ。

(国の未来か…。それより、俺の週末の未来の方が、よっぽど大事なんだが…)

「皆さんが、頑張ってくれたおかげですよ」


俺は大きく伸びをしながら、努めて明るい声で言った。

「さあ、今日の業務はここまでです! 皆さん、お疲れ様でした!」


秋の収穫期には、この村が、その歴史を塗り替えるほどの、圧倒的な豊作を迎えることになる。

そして、その成功が、この小さな村を、望むと望まざるとにかかわらず、外部の大きな世界の荒波へと、否応なく引きずり出していくことになるのだ。


だが、今はまだ誰もそのことを知らない。

夕日を浴びながら、「さて、明日はどのポイントで釣りをしようかな」と、本気で考えている俺の暢気な横顔を、二人のヒロインが、それぞれの想いを込めて見つめている。

希望と、そして一抹の不安をないまぜにしながら。

俺たちの、短い夏が終わろうとしていた。

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