第4話: 敵将との密約と、王子への疑い──影の私に迫る謀略
「おかしい……どうしてあんな動きができる?」
敵軍本陣、テントの奥。
地図を睨むのは、帝国の名将と謳われる男──ガライア・フェンベルグ将軍。
「ユリウス王子は“お飾り”だと聞いていた。
だというのに、ここまで正確な指揮と即応性……。あれは、本当に本人なのか?」
その疑問は、クロエの正体が敵に嗅ぎつけられつつあることを示していた。
「──殿下! 敵将から密書が届きました!」
「……密書?」
私はその封書を受け取り、中を開く。
『ユリウス王子殿下へ──あなたの剣は、“王子のそれ”ではない。
貴殿が誰であるかはともかく、私の目は誤魔化せぬ。
貴殿のような者こそ、戦場にふさわしい。
……もしも名を明かすつもりがあるなら、次の戦、旗の下で対面願いたい』
「…………」
これは、挑戦状だ。
いや、それ以上に──正体を見破られたという“危険信号”。
「誰かに話すつもりはないようだけど……名将に顔を覚えられるなんて最悪ね」
私はそっと、手紙を炎にくべた。
影の存在であるはずの私が、敵将に“認識”されてしまった。
このままでは──王子をも巻き込む。
その夜、私は久々に王子へ報告に赴いた。
彼の表情は、少し険しかった。
「……敵将、ガライアは恐ろしい人物だ。
君の正体が明るみに出れば、間違いなく政敵たちは“偽王子”として攻撃してくる」
「なら、いっそ私を切り捨てる?」
「それは、できない」
その言葉に、私は驚いた。
けれどすぐに、静かに言った。
「なら、私も覚悟を決めるわ。
次の戦が、正念場よ。あの将軍と直接やり合う。
“王子”としてじゃなく──私自身の剣で」
王子は目を見開き、やがて頷いた。
「君が、クロエ・ディアノールとして戦う日が来るなら──
私はその姿を、誇りに思うよ」
この瞬間、私は決めた。
もう、誰かの“影”でいるだけでは終わらせない。
次の戦で、私は──
“クロエ”として、生き残る。