表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/12

エピローグ:“仮面の姫騎士”と呼ばれた私の、静かな日々

王都から少し離れた、丘の上の小さな屋敷。


風が吹けば、野花が揺れ、鳥がさえずる。

戦火も陰謀も、ここには届かない。


 


私は今、そこで暮らしている。


「クロエ様、こちら、今朝の紅茶です。ローズマリーの香りが──」


「ありがとう、エリス。でも“様”はいらないわ。もう、騎士団も階級も関係ないんだから」


 


そう。

私はもう、王子の“影武者”ではない。

“仮面の姫騎士”という異名だけが、今も民の間で語られている。


でもそれはただの伝説。


私は今、“ただのクロエ”として、穏やかな日々を過ごしている。


 


時折、王都から来客がある。


ある日は、かつての部下。

ある日は、王宮の侍女たち。

そして何より、よく来るのは──


「また、庭に変な石像増えてない?」


「失礼な。これは“かつてクロエが斬り捨てた敵将”の記念だ」


「そんな趣味の悪い像いらないってば!」


 


──ユリウス。


“王”となった彼は、時折こっそりこの屋敷を訪れては、昔のように冗談を言う。


「でもさ、本当は君の隣に住みたい。王宮なんて、息苦しくて仕方ない」


「じゃあ、いっそ“影武者”を雇って玉座に立っておけば? 私が教えてあげるわよ」


 


笑い合う声が、風に乗って花畑を越えていく。


 


「ねえ、ユリウス。戦場で出会って、命を懸けて、ようやく今の時間がある。

だから──これからは、何もなくても幸せでいられると思うの」


「……ああ、僕もそう思ってる」


 


彼が手を取る。

今はもう、剣も仮面もいらない。

ただこの手があれば、十分だ。


 


陽だまりの中。

二人の影が重なって、やがて一つの道を作っていく。


かつて“影”だった私の物語は、こうして“穏やかな光”の中で、そっと幕を閉じた。

最後までお読みいただき本当にありがとうございます。


『悪役令嬢ですが、王子の影武者として戦場に出ることになりました』は、

「悪役令嬢もの」の枠を活かしながら、“強さ”と“儚さ”、

そして“自分自身を生きるという選択”をテーマに描いた作品です。


 

もともとは「悪役令嬢=お飾りのお姫様ではない」姿を描きたくて、

じゃあ戦場に出たらどうなるの?

その上で、「彼女が影武者だったら?」という逆転の発想から生まれた物語です。


 

戦場で英雄と称えられても、自分の名前を呼ばれないまま。

仮面の下で泣く夜もある。

それでも彼女が選んだのは、「名誉」ではなく「信頼」──

そして最終的に、“影”ではなく“隣”に立つという未来。


 

これは、戦うことで何かを守った少女の物語であり、

何より、“自分らしくあっていい”と信じた人たちの物語でもありました。


楽しんでいただけたなら幸いです。


それでは、また別の物語でお会いしましょう。

ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ