9.旅立ち?
兄がヴーゲンクリャナの前から消え去ってしまったあと、彼女は無情にもため息をつき呆れていた。心配をする様子は全くない。
「てゆうかだからダメってゆったンだけどにゃあ。にいにったらそそっかしぃんだからまったく。てゆうか向かってきてンのって子供ぽくない? アタシと同じくらいかもっと下かもしンないねぇ。ぶっちゃけ熱くないのか心配になっちゃぅ」
『主さま? 兄上様はなぜ消えてしまったのです? 主さまを城へ転送させようとしたんですよね?』
「うンそだよー てゆうか今って炎避けの反射結界張ってるジャン? だから魔法も跳ね返っちゃぅからダメってゆったンだけど間に合わなかったみたぃ。ぶっちゃけこれで面白くなったから結果オーラィだけどサ。てゆうかこっちへ向かってる男の子ってなにもンだと思ぅ? 低体温症ってことはないと思うンだけどサ」
『見た目は剣士なのですよね? それなら魔法剣士では? 周囲を結界で囲うか、消火しながら向って来てるくらいしか考えられませんねえ』
「まぁそうね。それが一番普通っぽな考ぇ? でもアタシは別の可能性を思いついちゃってるンだぁ。だからランドはちょっとだけナイナイぽん」
次の瞬間、ガークランドゥは姿を消した、いや消されたと言った方が正しい。元々ヴーゲンクリャナからあふれ出る魔力によって自然発生的に産まれた使い魔、出るも消えるも主の思うがままである。
ガークランドゥを消したヴーケが次にとった行動は、戦争用の戦装束から普通のドレスに着替えることだった。鎧を消して下着姿になった後、街で良く見かけるようなごくごく普通で飾り気のないものを思い描いた。
「これでいっか。てゆうかちょっときれいすぎるかにゃ。てゆうか火の中にいるンだから火傷もしといたほぅがいくなぃ? とりまドレスも燃やして水の中に飛び込もうそうしよっと」
独り言を言いながら何やら画策し始めるヴーゲンクリャナだったが、中庭に都合よくあった水桶へ近づいてから結界を解いた。周囲は想定よりも相当に熱く、息をすると喉が焼けてしまいそうである。
「てゆうかホントに火傷するコトないよね。自分だけを薄く結界で囲んでと――」
再び魔法の言葉を唱えてから炎へ近づくとドレスの裾へと炎が燃え移った。念のため袖口や背中にも火をつけてから水桶の中へと飛び込むと、なんとも自然に炎から逃げ延びた少女が出来上がった。
そのまま水桶の中でプカプカと涼んでいると、先ほど遠目で見えた少年が砦の扉を破壊したらしく大きな音がした。あと数秒でここへ到達するだろう。そう考えたヴーゲンクリャナは意識朦朧としているふりをして少年を待つ。
案の定、中庭までやってきた少年は燃えさかる炎を気にする様子もなく、ゆっくりと辺りをうかがい始めた。そうなれば当然目に入るのは、水桶の中に横たわる民間人の少女であろう。
「なっ! なぜこんなところに女の子がいるんだ!? おい、しっかりしろ、意識はあるか? ううん、酷いと言うほどではないが火傷が目立つな。仕方ない連れて行き治療してみるか。話を聞くのはそれからでいいだろう」
「う、うぅ…… 熱ぃ…… 怖ぃ……」
「そうか? だが助けに来たからもう大丈夫だ。他に逃げ遅れているものがいるか見てくるからこの場でしばし待っていてくれ。それにしても魔王国軍と言うのはひどいことをするものだな、危うく焼け死ぬところだっただろうに」
少年はそう言うと祈りをするような仕草を取った。すると周囲がなにかに囲われた様子で熱が和らいだのがわかる。ヴーゲンクリャナは、少年がどうやってここまでやってきたのかが理解できたと同時に、その正体についても検討がついた。
『ランド? ぶっちゃけアタシたちってば連れてかれちゃぅからネ? ちゃんと大人しくしてるンだょ? てゆうか見た目で怪しまれないよぅにランドは妖精の姿に変えちゃお。アタシのことはヴーケって呼ぶンだから気おつけてょ?』
『主さまがなにを言ってるのか、何を企んでるのかさっぱりわかりませんぞ。それに連れて行かれるとはどこへなのです?』
『てゆうかアタシがわかるわけなくなぃ? わかってンのはあの子が人間だとしたら人間の街なンじゃなぃカナってことくらぃ? ぶっちゃけワクワクが止まらないって感じょねぇ』
『ワアは不安でいっぱいですぞ? こんなことして魔王様にどれだけ叱られるか考えただけで鱗が剥げ落ちそうな気分でございますよ……』
『てゆうか妖精になるから鱗は無くなっちゃうジャン? てゆうかランドって性別あンの? 女の子の姿でいぃよね? そのほぅがかぁいぃし』
『好きにしてくださいませ。話し方も命令として植えつけてもらえるとボロが出なくていいかと思いますぞ。まさかワアがカワイイ妖精の女の子になる日が来るとは戸惑いを隠せませぬ』
『てゆうか人生は意外性がある方が面白ぃジャン? ぶっちゃけこれまで生きてきて一番ワクワクだよぉ。つまンなかったら帰ればいぃだけだもン。とりま気楽に遊びに行くみたいな気分でいんだってば。てゆうかお小遣い持ってきてないジャン』
『そこはワアの知るところじゃないし魔王国の貨幣は使えないでしょう? お小遣いはヴーケ自身でなんとかするのね、って、なんですのコレは? ワアの意志とは無関係におかしな喋り方になっているじゃないの』
『ランドがそうしてくれってゆったンでしょ。でもかぁいぃょ? もっと固くして格式ある感じにしょっかな。アタシは記憶があんまない感じって設定ネ? それも送っとくカラうまくやるンだょ?』
『もう好きにして下さいませ。ワアがいくらあがいても無駄なのですから。くれぐれも危険なことに飛び込んでいかないように。お分かりになって?』
『うんうんおわかりおわかりょ? いい感じだからアタシもちょっとだけ自己魔法で変えとこうっカナ。ぶっちゃけバカっぽいのばれるとハズイし?』
『っぽい? おかしいですねえ。ワアの認識とずれがあるようですわ?』
『ぶっちゃけ嫌味っぽくていつもよりカチンとくるかもしンなぃ…… ――これでよしっと。てゆうかアタシがお嬢様っぽくすると変なことになりそうだから砦で下働きしてた記憶喪失の少女ってことにしとこ。勇者様、アタシ行くところが無いんです、一緒に連れて行ってくださいませ! どう? いい感じだと思わない?』
『むしろいつもそれでよろしいのでは? ぐっと知的に見えますわよ? ――って、今勇者とおっしゃって!? あの少年が? おやおや、彼が戻って参りましたわね』
『ふふふ、なんだかんだゆってランドも楽しそうじゃないの。本当に勇者かどうかまだわからないけど、さっき魔法以外の祈りみたいな呪文使ったじゃない? だからひょっとしたらって話よ? おっと、最後に書置きだけしておかなくちゃね』
ヴーゲンクリャナは少年に連れられて砦を離れる直前、魔法を使った不認識文字と呼ばれる手法を用いて空中へ書置きを残しておいた。
『てゆうか人間の勇者っぽな男の子を見つけたカラ様子を見に行ってくるょ。とりまカレちゃんてばアタシが囚われて砦で働かされてたって話信じちゃってカワイそな女の子扱いなのょ。ってことでぶっちゃけ危なくなぃカラ心配しないでいぃょ? てゆうかなンかあったら連絡するし?』
焼け野原に残された黒焦げの砦へようやく戻ってきたボロギーは、その書置きを読んだ怒りをどこへぶつければいいのかわからず、拳を力いっぱいに握りしめていた。
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