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7.衝撃の初陣

 いくら綿密な計画を立てていても思い通りに事が進むとは限らない。それが敵味方が明確な国同士の戦争となればなおさらだ。相手の裏をかくような作戦を遂行することは、自軍を有利にするためには重要だからである。


 しかし今回は裏をかかれたわけでもかこうとしたわけでもなく、司令官であるボロギーの失態だった。結果から判断すると、今回の結果は敵と味方の戦力を完全に見誤っただめだと言える。


 本来は国境からやや下がったところに築いた砦へ篭り、進軍してきた王国軍を迎え撃つと言う籠城作戦を取る予定が、予定外の初動により完全に狂ってしまった。


 当初の計画では第一部隊が砦の内側最前列で待機し、迎撃可能な距離になったら攻撃を開始。第二部隊は砦上からその為の距離を測りつつ牽制を担当するという二段構えの作戦であり、相手の侵攻が早かろうが遅かろうが部隊を分けようがいくらでも対応できるはずと自信を持っていたのだ。



「何と言うことだ…… まさかこれほどの惨状となってしまうとは想像したこともなかったぞ……」


「てゆうかにいにさぁアタシのこと褒めるのが先くない? にいにがゆってた戦わずして勝つってこゆことっしょ? ぶっちゃけ自分でも出来過ぎカモ? って思ったけど天才だから当たり前なのカナ?」


「確かに効果がすさまじかったのは認めよう。だが味方にも卒倒してる者が出て来てしまってるではないか。もっとなんとかならなかったのか?」


「ぶっちゃけアタシも計算外だったのよネ。いつもは訓練場だったからこんな広いところで魔法使ったことなかったし? とりま全力でやったらいんじゃね? ってやってみただけなのよね」


「いやまあ、百歩譲って全力を出したことを咎めはしない。しかしその多すぎた軍勢をなぜあそこまで野放しにやらせ放題にするのか。終いには砦の中に入って来たではないか」


「ぶっちゃけ軍勢召喚の始末は教わってないンだから仕方なくない? てゆうかあの子たちアタシの命令なんも聞かなくてワロ。ねえにいに? どしたらいいと思う?」


「あの大量の虫たちを駆除するのにどれだけかかるか…… あんな小さくてすばやくて空まで飛ぶような相手を殲滅させるのは相当大変だろうが。それに我らが魔王国軍はそんな掃除のような真似をするために編成されているわけではない!」


「んじゃまあ燃やしちゃう? もしかしたらここらの森まで丸焼けになるカモけどあの子たちを野放しにするのとどっちがマシだろねぇ。てゆうか人が住んでるトコでもないしほっとけばいくなぃ?」


「確かにそれも一つの手だな。オレは別に平気だが、魔導兵の中にはあのテカテカした背中が苦手だとかカサカサ這っているのに突然羽ばたいて向かってくるから怖いなんてヤツラも多数いるのだ…… それにしても人間たちにあれほどの効果があるとは正直驚いたよ」


「マジあの逃げようったら凄かったね。てゆうか大の大人が大騒ぎしちゃってみっともないって感じ。普段家の中に出てきたらどうしてンだろねぇ」


「そりゃ一匹二匹ならなんてことないだろうさ。だがさすがにこの数ではなあ。見てるだけで背筋に寒気が走るぜ。だが放置するとなれば長居は無用だ。オレは引き上げの準備に取り掛かるからオマエはあの虫どもが砦の中に入ってこないよう見張っていてくれ」


「はーい。てゆうか結局褒めてくれないンじゃん。アタシってばカワイそくない?」


「わかったわかった、良くやったよ。たった一人で二千はいた王国軍を退けたのは確かだからな。だから最後まで気を抜かずに後片付けを頼むぞ? きっと父上から武功勲章が与えられるだろうな。それどころか部隊を任されるかもしれないぞ?」


「えーマジで? したら訓練とかでないといけないジャン。てゆうかアタシが訓練の面倒見るってこと? そんなのムリムリムリポンちゃんだょ。遊びにも行かれなくなっちゃうから困るよー」


「部隊の話は大げさに言ってみただけだ。それくらいの心構えが無ければ戦場へ出る資格はないからな。遊びではないのだからしかと心に留めておくのだぞ」


 そう言い残したボロギーは退却準備のためヴーゲンクリャナの元を離れた。口ではあまり褒めるような言葉を発しなかった彼は、嬉しさ半分悔しさ半分との気持ちだったこともあり、しばし妹の元を離れたかった。


『思ってたよりも評価されませんでしたね。主さまの功績にもっと大喝采があがると期待してたのに残念ですぞ。司令である兄上はともかく、一般兵までも静かに見ているだけとは拍子抜け、まさか嫉妬では?』


「てゆうかそんなのどうでもいいの。アタシは広いところで魔法ぶっぱしたのが楽しかったし、周りの人たちのことなんて見てなかったからおアイコちゃんょ。それにもし嫉妬だとしたらアタシがスゴイってことで喜んだらよくない?」


 使い魔のガークランドゥのほうが悔しそうに愚痴をこぼしたが、活躍した当人は何とも思っていない。そんなことよりも城の訓練場以外で魔法を使ったことも初めてだし、なんなら城と別宅と街以外の場所へやってきたのも始めてで浮かれているヴーゲンクリャナである。


 ほかに見るべきところ、興味魅かれるところはいくらでもあるので、城から一緒にやってきた部隊の兵士たちに興味が無くて当然だった。その彼らが円滑に退却するためにも、ヴーゲンクリャナが召喚した『虫たち』の茶色い群れが砦へ近づかぬよう目を光らせながら出来るだけ間引き始めた。


「てゆうかここから一気に焼いちゃえば秒で終わりそなンだけどなぁ。かるーく火を放てば森まで届かないンぢゃない? ランド(ガークランドゥ)に上から見てもらいながらちぃ試してみよっか」


『でも主さま? 草原は間違いなくハゲ坊主になるでしょな。それでも良ければ試すのも一興かと。どうせ叱られるのはワアじゃないですし』


「ひどっ! ンぢゃやめとくょ。このまま大人しく帰ればパパに褒めてもらえてお小遣い貰えると思うンだょね」


 砦の中から表を覗きつつ、こちらへ向かってきた虫だけを個別に迎撃していたヴーゲンクリャナは、面倒だと思いつつその方法を続けることにした。余計なことをして叱られるのはヴーゲンクリャナの得意技なのだが、今回は懸命な判断といえる。


 そんなまっとうな助言をよこしたガークランドゥだが、常日頃から使い魔のほうが常識があると言われている。このことは主であるヴーゲンクリャナにとって癪ではあるのだが、確かに彼女自身のみの判断よりもおおむね正しく、言うことを聞きさえ(・・・・)すれば大事へ発展することも少ない。


 そう、今回は本当に従ったのだが、なぜか目の前の草原は突然の大火に覆われ、瞬く間に火の海へと変貌していた。


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