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43.星の神々からの啓示

 居酒屋の扉は当然のように閉まっていた。しかしどうやら裏口があるらしくヴーケは路地へと入っていく。


『コンコン』

「おチビさん、アタシ、ヴーケだけど開けてもらえる? 勇者さんたちも一緒なんだけど警戒しないで話を聞いてもらいたいってお爺さまへ伝えてくれる?」


「う、うん、今あけるね」


 孫と言ってももう十歳は過ぎているくらいに見える男児は、のぞき穴から表を見て思わぬ集団に驚き目をそむけはしたが、それでもヴーケを信じて扉を開けた。


「ありがとう、お父さんたちはちゃんと家にいるでしょうね? もう抗議活動なんてしちゃダメなんだから。もし捕まってしまったらカイだって嫌でしょ?」


「お父ちゃんは言われた通り家でパンをやいてるよ。お母ちゃんももう抗議活動にはいかないって約束してくれたからきっとだいじょうぶ。お姉ちゃんのおかげだよ。ありがとうございます」


「うんうん、家族がバラバラになったらいやだもんね。だから今日は手伝ってくれる人を連れて来たの。これでお爺さまも危ないことしなくて済むわね」


 玄関を入ってすぐのところで孫のカイとヴーケが話し始めると、声を聞きつけたのか奥から老人がやってきた。エプロンには小麦粉がたくさんついていて真っ白なので、きっとパンを作っている最中だということがわかる。


「これはこれはお嬢ちゃん、来てくれたのかい? 今少し聞こえたんじゃが、わしのかわりに誰かが行ってくれるというのかね? いくらなんでも何の得にもならないこと押し付けていいとは思えんのだがのう」


「大丈夫だから心配しないでください。ハルトウはとても心の優しい人だもの。きっと助けになってくれるわ。ねえ? そうでしょう?」


 ここまで来てしまったら断ることもできるはずがなく、ハルトウは戸惑いながらもうなずき返事をする。チカはその姿を見て、まんまとヴーケにやられたと感じているが、こちらもいまさら口出しできず大人しくするのみである。


「う、うん、もちろんだけど何をすればいいのかまだ詳しく聞いていないね。作戦というか計画ははあるのかい? 内務局へ入ることはたやすいとはいえ、ヴーケの身に危険が及ぶようなことは避けたいんだけど……」


「アタシなら大丈夫だから気にする必要はないわ。ただ…… みんなとはここでお別れになるかもしれないわね」


 これにはハルトウだけでなくチカとサキョウも驚きを隠せなかった。まさかそれも星の導きとやらの示す道だというのかと問い詰めるが、ヴーケははっきりと答えはしない。


 それもそのはず、ヴーケはすでに王都での生活に飽きてきていたのだ。そのため何か理由をつけて魔王国へ帰ろうと考えており、ちょうどいいタイミングで、パン屋の孫から農家の娘が行方不明になっていることを聞いたのだった。


「ずいぶんと急な話だし、キミはそれでいいと考えているのかい? その、自分の使命というか―― すべきことがあるんじゃなかったのか?」


「それも含めてなのですよ。きっと王都はこの先もっと混乱することになるでしょう。その時にこそ、勇者ハルトウ、そして皆さんの力が必要になってくるはずです。もちろん力を必要とするのはか弱い民たちですからね」


「ちょっとヴーケ? いくらなんでもわからないことだらけだわ。もっとウチたちへ詳しく聞かせてくれてもいいんじゃなくて? そりゃウチはアンタにやさしくなかったかもしれないけど、それでも一緒に行動しているときは仲間だと思ってたんだからさ」


「ありがとうチカ。でもアタシも細かいことは分からないのよ。分かっているのは内務局で捕えられることと、その後しばらくは拘束されることくらいかしら。間違ってもハルトウたちはアタシを助けようとしては駄目よ? 国家反逆の罪に問われてしまうからね」


「おいおいお嬢ちゃん、わしらの持ちかけた話でそんな大事になるならやめといたほうがいいんじゃないか? お嬢ちゃんの身になにかあったら死んでも死にきれん」


「お爺さま、それにカイも気にする必要はないのよ? アタシはこれをいいきっかけにすべきと考えたの。きっと捕えられた後には、王族かその直下の偉い人に会う機会が得られるわ。そこでもっと民を大切にしてもらえるよう進言するつもりなの。ただし、それをきっかけとして王都は混乱することになるはず」


「なんで混乱することになるんだ? もう占いとかどうでもいいからキミが星の神々とやらから授かった天啓か何かを教えてくれよ」


「わたくしも気になりますね。ここまで来たら異教だとか逆賊とか言っていられません。今後の展開がヴーケの言う通りに進むのかどうかも含めて知っておきたい。お願いだから聞かせてください」


「わかりました。ハルトウもサキョウも、それにチカやお爺さんたちにも聞いてもらいましょう。でもあくまでこれは可能性の一つだから、間違いなくこの通りに事が起こるとは限らないわよ?」


 そう前置きをしてからヴーケは語りだした。


『夢の中で星の神々はおっしゃいました。異教の民として捕えられるようにと。普段ならそのまま尋問や拷問・洗脳にあう可能性もあるけれど、今は政府内で混乱が起きているため拘留されるのみとなるでしょう。


 しばらくとどめられた後、王国政府に呼ばれ事情聴取されるのだけど、その場で星の神々によって直接の啓示が行われます。王族はそれに従い政府機関の再編を決めるのですが、それに反発する既得利権者たちによって反乱がおきるはず。


 ですが王国軍部は民衆を中心とした|反政府運動≪レジスタンス≫勢力側へつくため、即時の武力衝突にはなりません。しかし軍も一枚岩ではないため王国軍は分裂し、やがて王都と周辺都市間での衝突が起きるかもしれません。


 ここで王都と周辺都市町村間の物流に滞りができるため、王都では食糧難が起きる見込みです。食料不足自体は商人たちが解消に動くでしょうが、人々の心はすさみ、治安の悪化が考えられます』


「とまあこのような天啓がありました。信じるも信じないも皆様次第ですが、アタシにできるのは内務局へ捕らわれることだけなの。だからハルトウたちもお爺さまたちも止めないでくださいね」


「もし、もしだよ? その通りに進むとしても、僕たちに何ができるというんだい? まさかレジスタンスを助けて戦えと言うのかい? それとも逆側?」


「どちらも違いますよ。街の治安が悪くなった際、民衆を守ってほしいのです。つまり発生した暴漢をいさめ捕えるということです。強盗や窃盗が増えるのは間違いありませんからね」


「そのような騒動になるなんて考えたくもない。ヴーケには悪いけど、その天啓がただの夢、妄想で済むことを期待したいね。だが街が混乱した際には民衆のために力を尽くそう」


「ありがとう、でも自分たちの身を守ることを第一に考えてくださいね。いったいどうなるのかはアタシにもわかりません。まずは農家のお嬢さん、そのほかにもまだ解放されていない女性たちの保護から始めましょう」


 突如降ってわいたような終末論にハルトウたちは戸惑い、疑ってはいる。それでもパン屋の家族と談笑するヴーケを見ていると、その様子は本当に別れのあいさつに見えてくるのだった。

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