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4.意識の高い姫君

 好奇心旺盛なヴーゲンクリャナにしてみれば、すぐ目の前にいる『人間』からなにか聞いてみたいと考えて当然である。しかも初めて見たその人種は物語の中で描かれているような異形の姿ではなく、魔人となんら変わりの無い姿だったのだ。


 見た目が同じと言うことで恐れる気持ちは全く起きず、込み上げる好奇心を押さえるので精いっぱいだ。そうは言ってもすでにそのことを察している警備隊顧問のデュンドンが、人間たちへ声が届かぬよう空間遮断の魔法で檻を囲っている。


「ぶっちゃけデュンちゃんてばアタシのこと疑いすぎくなぃ? 話しかけちゃダメってゆわれてンだから魔法なんかで邪魔しなくても守るのにサ。そりゃどこからどうやって来たのかとか聞いてみたぃし普段なに食べてンのとか人間界の流行とか気にはなるジャン? てゆうかそれを聞いたからってアタシになにかできるわけじゃないしサ。てゆうかちょっとだけ喋っちゃダメ?」


「もちろんダメです。これから騎士団で取り調べを行うはずなので、すぐに情報は得られるでしょう。それほど気になるのであれば、尋問への同席を魔王様にお願いしてみたらいかがでしょうかな?」


「てゆうかそんなのパパが許すわけないってわかっててゆってるでしょ? デュンちゃんってばイジワル過ぎぃ。ぶっちゃけ騎士団で聞くよぅなことアタシに関係なさげだし? あんま興味ないってかつまんなそうだよね」


「身なりや持ち物、それにあの健康状態から察するに、地方の貧しい村からやってきたと思われますしな。姫様が興味を持たれるような人間は、恐らく中央都市にしかいないと思われます。まあ他に地方にいる人間と言えば我々と領土争いをしている兵卒や勇者たちくらいなものでしょう」


「勇者!? なにそれカッコよさげじゃなぃ? デュンちゃんてば勇者と戦ったことあンの? 強かった? カッコいい? 男? 女? 大人? 子供? てゆうかおじいちゃんだったりして?」


「そんな矢継ぎ早におっしゃられても答える暇がございませぬ。拙者が出会った勇者は青年でしたな。歳のころは三十代くらいでしょうか。拙者唯一の敗戦ですから今でも夢に見る始末ですよ」


「てゆうかデュンちゃん引退前最後の戦争のことジャン。あれって勇者ってのがいたのネ。ぶっちゃけデュンちゃんが年取ったから負けちゃって引退したンだと思ってたょ。勇者って強いから勇者ってゆぅんだよね? したら仕方ないってことかぁ」


「聞く話によると、勇者と言うのは天啓を受けて神から力を授かるとのこと。我々で言うところの継承と仕組みは似たようなものでしょう。ただ、人間界では勇者が国を治めるわけではなく、あくまで戦闘要員であることが大きな違いでしょうな」


「てゆうか勇者ってもしかしてバカなの? 国を治めるだけの知力が無いってことじゃん。それってアタシと同じカモ? アタシも魔王になるのはムリぽいもんね。キャハッ☆ミ」


「魔人にはその準備を整えるだけの寿命がございますし、姫様も二百歳になれば王の洞穴で百年ほど眠りにつくではありませんか。さすれば睡眠学習によって(まつりごと)に関わることはすべて身につくのでご心配無用かと」


「それホントなの? だからパパは勉強しなくていぃってゆぅけどサ? てゆうか国を治めるのを覚えるだけが勉強じゃなくなぃ? もっと人民の生活とか経済とか風習とか色々あるジャン」


「おお、随分とご立派なお考えを持つようになられましたな。姫様の志が高くなったこと、このデュンドン感慨深いです。ですがそれはあくまで我々の魔人界で学ぶことですからな? 念のため。きっかけは存じておりますが、くれぐれも娯楽の範囲に納めておいてくださいませ」


「あらバレてた? てゆうかホントは人間も大差ない生活してるならぶっちゃけ面白みないカモね。もっと全然別の生き物だと思ってたンだけどな。てゆうか違いって無いわけ?」


「左様でございますなあ。寿命はかなり短く、およそ六十年程度で長くても百年行くかどうか。しかし好戦的で繁殖力が高く欲深いので注意が必要なのですよ。人口増加が止まらない様子ですから領土拡大が急務のようですし、我々魔人だけでなく、獣人や森人(もりびと=エルフ)の領地まで侵略して回っておりますからな。それだけでなく人間の国同士でも戦争を繰り返しているのです」


「あひゃひゃぁ。そりゃスゴイね。てゆうか戦争が趣味? 殺し合いバッカしてンのに人口が減らないのもビックリだよね。ママなんて三人目のアタシ産んだ時に死んじゃうかもしれなかったって話ジャン?」


「あの時は大変でございましたなあ。魔王様が自ら医者を探して走り回り、公務は完全に機能不全に陥りましたから。先ほど申し上げたように人間界では政治と戦闘などを分業しておりますが、魔王国では魔王様が全てを取り仕切っており頼りきりですからな」


「てゆうかパパの代わりに仕事できる人を置けばいぃンだけどね。上のにいにが魔王になればアタシは好き勝手に遊んでられるし戦争に行って暴れてればいンだから楽なんだけどなぁ」


「一つの方法論としては有りかもしれません。しかし魔王力(まおうちから)の継承が一人に限られていることを鑑みれば、魔力の高い姫様が継ぐことが最善でしょうな。その上で兄上様に助力を請えば良いのではございませぬか?」


「ぶっちゃけそれもアリだよねぇ。てゆうかアタシ一人でなんでもかんでもやるのなんてまっぴらゴメンちゃいだし遊ぶ暇も無くなって脱走しちゃうかもしれないジャン? したらみんな困っちゃうでしょ?」


「冗談でもそんなことはおっしゃらないように…… 想像出来てしまうだけに恐ろし過ぎます…… さて、立ち話が長くなってしまいましたな。そろそろ移送が始まりますから姫様はお戻りくださいませ。くれぐれも道中で捕虜を襲ったりしないようお願いしますよ?」


「あーその手があったか! デュンちゃん賢い―― ウソウソ冗談だょ。ンなことしないってば。マジでしなぃしなぃ。もぅお腹空いたから帰るし」


 最後までデュンドンに疑いの目で見られていたが、ヴーゲンクリャナは本当に馬車へと戻って行った。なんと言っても王妃を放っておいたままであるし、実際にもう暗くなり始めていて空腹を感じ始めていたのだ。



「ヴーケちゃん、ずいぶん遅かったじゃないの。ママ心配しちゃったわ。なにか騒ぎを起こしちゃったんじゃないかと思って、だけど」


「だーよね。てゆうか久々過ぎてデュンちゃんと話しこんじゃったのょ。てゆうか若返ったせいなのか普通に話してくれてチョイ嬉しかったな。指南役の時は怒ってばっかりだったカラ」


「それはヴーケちゃんが真面目に修行しないからじゃないの? いつもは気のいいオジサマって感じだったでしょ?」


「まあそれはそうかもだけどサ。あーお腹すいた。早く帰ってご飯にしょ?」


 そんなことを言いながら、ヴーゲンクリャナはお土産に買っておいたドーナツをかじりはじめるのだった。


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