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34.会心のざまぁ

 マイナト王国軍ウオーヌ=マサン前線駐留部隊が、謎の疫病騒ぎにより戦争継続が危ぶまれるほどの大混乱に陥っているころ、勝利側の魔王国軍小隊の陣には喜びと共に緩い空気が流れていた。


 それはもちろん勝利したからというのが大きいのだが、それ以外にも大きな理由がある。なんと言っても辺境へ派遣された小さな部隊に、王族が激励に来ているのだから無理もない。


 本当は激励でもなんでもなく、勝手に押しかけて勝手に参加して暗躍したと言うのが正しい。しかし末端の兵には何の説明もしていないのだから勘違いもしよう。


「それでは姫様、せっかくの機会ですので勝ち名乗りと激励のお言葉をお願いできますでしょうか。できれば士気の上がるようなヤツで一つ……」


「てゆうか部外者のアタシがヤっちゃっていぃワケ? ここはたいちょのサノっちがヤったほぅがぃくなぃ? まあぶっちゃけそれでもアタシはいちお姫だし? みんなが喜ぶならいぃケド?」


 次期魔王は決定的との噂に名高い天才の姫君が。自分たちの部隊長と話しているところを初めて見聞きした兵の中には、脱力したり失笑したりするものがちらほら見受けられる。


 だが、得てして魔人の中の天才肌と言うのはこういうものだとの認識があるため、姫様の奇行を気にするものばかりではない。それに一般人もサーノウ同様、頭脳より魔力に全振りで産まれた方がいいと考えるのが主流だった。


 それでも能力の割り振りが極端そうな姫を目の当たりにすれば、こらえきれず笑いも出ようと言うものだ。しかしヴーケは全く気にする様子なくマイペースでことを進める。


「てゆうかみんな頑張ったネ。ゆわれたコトちゃんとできてえらぃえらぃ。ぶっちゃけここまで計画通りに行くとわ思ってなかったモン。これはもぅみんなの功績ってゆっていいと思うょ? それじゃいっくよー! ハーイみんなの勝利! イエーイ! やったネ☆ミ」



「―――――― …………」



「姫様? あのう…… 今のは私たちどうすれば良かったんでしょうか?」


「アハッてゆうかこれってスベったってヤツ? こやって指を二本にしてサ。みんなで一緒にキメっ! ってやろうと思ったンだケド? ダメ?」


「ダメというより誰もそのような格好を想像してませんでしたからな…… で、では皆でまいりましょうぞ! 準備は良いかー! 姫様に続けー! 一斉に―― キメっ!」


 最後はサーノウに命じられるがままヴーケの真似をして、老いも若いも下っ端も上長も全員で謎のキメポーズで勝利を祝った。ほとんどの兵たちは慣れないはしゃぎ方に戸惑いを隠せず恥ずかしがるものばかりである。


 しかしその中に異常なまでにハイテンションな者が一名混ざっていた。魔導兵ばかりのためここにいる者はみな同じフードローブに身を包んでいるはずなのだが、一人だけ場にそぐわないメイドの格好をしていた。


「姫さま、小隊長さま、もうなんとお礼を申し上げてよいやら、このような喜びに見合うお礼の言葉を知りません。ありきたりで恥ずかしいですがありがとうございます、そう紡ぐのが精一杯でございます」


「それほどありがたがる必要はない。あくまで偶然のようなものだ。たまたまお主があの場にいて利用し易かったまでのことよ。ですよね、姫様?」


「てゆうか感謝の気持ちって大切ょネ。てゆうか? ぶっちゃけそんな感謝されるほどのことはしてなぃし? てゆうかこっちが利用したンじゃね?」


「それ、今私が申し上げたばかりですが…… コホン、ともかく過剰な感謝は不要ということだ。とにかく普通にしていなさい、無理をせず普通が一番だと思うぞ? だから姫様の側仕えとして着いていくなどという希望を通すわけにはいかん。それに姫様は現在潜入任務で王都を拠点としているのだからな」


「てゆうか王都に連れてったらぶっちゃけマズいンじゃん? 顔見知りいっぱいだろうし? てゆうかハルトウがいるからムリムリだょ。てかぶっちゃけアタシは別のいい案思いついてるンだょネ」


「良い案ですか? それは―― あっ、えっ!? はい、わたしは恩返しになるなら何でも致します。ですからよろしくお願いいたします!」


「てゆうか恩返しとかいらなぃと思ぅょ? だってちゃんと手伝ってくれたジャン? あの人たち床に転がって頭が変になっちゃってメチャおかしかったネ。ぶっちゃけ一緒に見に行って良かったっしょ?」


「はい! ザマアミローって大きな声が出そうでしたし、そりゃもう生まれ変わったようにスッキリしました! あの人のあんなみじめな光景見られるなんてありえないと思ってましたが、姫さまと小隊長さまのおかげで大興奮です! でもちょっと汚らしすぎましたけど……」


「いやはや、聞いているだけで私は行かなくて良かったとホッとしていますよ。まあ天に神がいるのであればそれこそ天罰でしょう。こんな恵まれない娘にひどいことをしてきたのですからな」


「てゆうかあの人たちってば本当にシノっちを調理して食べさせられたと思っちゃったンだろね。もう汚いのなんのってスゴかったンょ? げろげろぱーでそりゃもう部屋中ひどかっ――」


「姫様…… 解説はご遠慮願います。私はそういうの苦手なんですから留守番していたのに意味がなくなってしまうではございませんか……」


「てゆうか顔に似合わず小心者? ホントは優しいから無理もないカモだけどサ」


「また顔の話ですか…… まあどうにでも言ってください。どうせ取り換えられるわけでも無し。長い付き合いですから自分の顔にも慣れてますしね」


「ぶっちゃけ顔はオマケみたいなもンしょ。大切なのは中身だモン。てゆうか賢いとか優しいとかいいとこいっぱいあるンだし? ぶっちゃけサノっちてばいちいち気にし過ぎぃ。ネ? シノっちもそう思うっしょ?」


「はい、もちろんそう思います。小隊長さまはとても素敵なお方です!」


「はいはい、世辞をどうも。でも口利きとかはしませんからね? 残念ですが私はあまり顔が広くないのです。手近な人間の街か村へ連れて行くくらいで精一杯なのだからね。希望があれば早めに言うんですよ?」


 サーノウにきっぱりと断られたシノロはさすがに落ち込んでいる、などと言う様子はまったくなく意に介していないようだ。彼女はニコニコしながら幸せそうな笑みを浮かべたままである。


 不思議に思いながら嫌な予感もしているサーノウは、まさかと思いながらヴーケへと視線を移すと、案の定、なにかを含んだようにニヤニヤと笑っていた。


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