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22.勇者たちの実力

 満を持して戦場へ飛び出してきた勇者たちはさすがだった。ハルトウは勇者の力を授かっているので当然といえるが、それ以外の全員も相当なつわものぞろいだ。


 ハルトウの指示を受けてテキパキと魔物たちを撃破していく姿に、味方兵士たちは安堵しつつも呆気にとられている。そしていよいよハルトウとサキョウの祈祷が終わりその効果が発揮された。


 砦の前に集まり襲い掛かってくる数百体の熊獣人の軍勢全員を、金色に輝く炎が包みこんだ。あっという間に火柱が戦地を包み込み、獣人たちは黒焦げの消し炭となって塵と消えて行く。


 これは太陽神の加護と言われる奇跡であり、先日ヴーケがハルトウと初遭遇した時の炎と同じ物である。どういう原理で発生しているのかは本人たちにもわからないが、サキョウの家系に伝わる炎を呼び出す魔法に似た奇跡を祈祷術と呼んでいる。


 そして偶然なのか必然なのか、勇者へ与えられた加護も同じ効果だったのだ。さらにハルトウは治癒師と呼ばれる者たちのみが使用できる治療の奇跡をも行使でき、それに加えてどのような武具でも見に付けた瞬間に一級の遣い手となれる能力まで備えていた。


 この反則級の能力こそが、勇者と呼ばれる奇跡を授かった者の特徴なのだ。過去何人もの勇者が産まれ死んで行ったが、その度に次の勇者が現れると言うのが定説であり、実際に世界のどこかには現れている。


 太陽神が人間へ授けてくれた最後の砦、救世主なのだと言われることもあるが、そもそも太陽神などという神自体、人間が産み出したおとぎ話でしかない。それでも人知を超える力と言うのは時折産まれ出てくるものなのだ。


 しかし勇者の助けがなかったなら、種としてそれほど強力な個体ではない人間族は当の昔に滅んでいたに違いない。寿命が五百年とも千年とも言われる人間以外の種族、例えば魔人もそうだし森人(もりびと)と呼ばれる種族もいる。


 特に魔人は魔法と言う強力で摩訶不思議な力を持っているのだから、その気になれば地上を全て掌握することも可能だったはず。だが過去の魔人たちがそうしてこなかったのは、自然と共に生きる人種や動植物を大切にし共存してきたからだ。


 どちらかと言えば、そう言った弱き者たちを都合よく従えようとしているのは人間族である。そして今回の熊獣人対人間も、その欲望がもたらした戦争だった。


 そんな欲とは無縁でも、国のために力を振るうことが正しいと考えているのが一般国民たちである。それこそ幼少期からの教育のたまものと言えるし、代々国を治めてきた王族の歴史と伝統が自然と民を動かしているとも言える。


 そしてその代表格とも言える勇者は今日も戦場にいた。傍目に圧倒的な力で戦局を押し戻したように見えたが、当人たちはそう考えていない様子だ。


「なんだ!? 死体が残らず塵となって行く、だと!? つまりこいつらは熊の形をしているが魔物と言うことなのか? なんだよ、だったら早めに教えてくれれば良かったのに。王国軍は相変わらず重要なことを教えてくれないなあ」


「でも動物虐待してると気分良くないし、そうとわかれば気兼ねしないで済むからウチは助かるけどね。それにしても一気に片付いたのはいいけど、この炎が消えるまで何もできそうにないよ?」


「どちらかが水の力だったら都合が良かったんですけどね。わたくしもハルトウも炎しか出せないので仕方ありません。ですがこれでしばらくは攻めて来られないでしょうし、うまく行けば今日はひとまず一区切りかもしれませんね」


「じゃあいったん下がって休憩しようぜ。オレの盾はもう限界だから交換しないとダメだしな。部隊長へ言って見張りをたてて貰えばいいだろ。アスマルも矢がそろそろ尽きるんじゃねえか?」


「そろそろじゃなくてもうなくなりました。今回は一度しか外さなかったので四十九体倒したはずです。自分で言うのも生意気ですけど、なかなか貢献できなんじゃないかなと」


「うむ、徐々に良くなっているのは場馴れじゃろうな。やはり精神的な余裕が生まれると持っている技術をしっかりと発揮できると言うことじゃ。ワシはもう焼夷弾が品切れなのでお役御免じゃな。残りの強化丸薬はテルンへ渡しておこう」


「おっ、コリャ助かるが飲みすぎには注意が必要だよな? あとで副作用がきついんだこれが…… 張り切りすぎると足腰がガクガクになっちまう」


「だから言い方…… もう、テルンってばホント下品なんだからさ」


「なんでだよ。下品だって言いだすチカは一体何を想像してるんだ? オレだって伊達にデケエもんぶら下げてるわけじゃねえんだ。使えばその分だけ疲れるのは当たり前だろ?」


 そう言いながらテルンは拳で自分の腰をトントンと叩いて見せた。その仕草を見たチカはフレイルを振りかざし今にも殴りかかりそうだが、これはもちろん脅しである。


 砦前の野原にはまだ炎が立ち上っており敵の姿は全くない。このことがパーティーの余裕へと繋がっているのは間違いない。テルンが言ったように、このあとは部隊長へと連絡し敵侵攻の見張りをしてもらいながら、皆で一旦休息を取るつもりのハルトウだった。


 しかし全部隊と共に砦内へと下がったの部隊長は一向に戻ってこない。すでに戦いは一段落したと言うのに逃げたままというのはおかしな話だ。いったい何をしているのだろうかとハルトウたちはいぶかしんだ。


 だがその理由はすぐに判明した。


「大変です! 部隊長たち含む全部隊が全滅しました! 敵がいつの間にか侵入し攻撃を受け、さらには作戦参謀と管理官殿以下複数名がさらわれた模様!です」


「な、なんだって!? キミたちの部隊は無事だったのか?」


「我々哨戒(しょうかい)部隊は陣へ戻ってきたところで遭遇したので被害は軽微です。というより、敵が引き上げを優先したらしく捨て置かれたおかげなのですが…… そのため現在戦闘可能な人員は勇者様たちしか残っておりません!」


 一部の兵を覗いたほぼすべてが、前線で戦闘が行われていたこの短時間で戦闘不能となったと言うのは考えづらい。まさか熊獣人側についている魔王国軍がそれほど強力な戦力を傾けてくるとも思えない。


 さらに気になるのは参謀本部に詰めていた連中も立派な軍人であり元々はかなりの武勲をたてた精鋭ぞろいのはず。いくらなんでもそんなあっさりと敵の手に落ちるのだろうか。それにヴーケは!?


 色々な考えが頭の中を駆け巡っているハルトウは、まだ火の手が残っている前線を放置してウオーヌ=マサン街中の陣へと戻ることにした。


「どうせこの大火の中進軍できるはずがない。僕たちは陣へ戻って現状を確認しよう。二手に分かれるのは悪手だろうから皆で一緒に戻るぞ!」


「そうだな、へたにわけると連携がおぼつかなくなる。ハルトウの言う通り、戻るならば全員で戻るべきだろう。しかし本当に前線を放置してしまっていいのか? クマ野郎どもがここぞとばかりに砦を奪うかもしれねえぞ?」


「うーん、テルンの言うことも確かに考えないといけないけど、ウチは街でなにが起きてるのか確認する方が優先度高いと思う。非戦闘員の住人も少しはいるし、気に食わないけどヴーケだって置いてきてるんだからね」


「そうなんだよ、彼女がなにが出来るのかは未知数だけど、少なくとも軍が壊滅的と聞いて無事と考える要素は何もないからね。一刻も早く戻るべきだ」


「ではこうしよう。砦を放棄して街へ戻るのは決定じゃ。だが前線も気にはなるじゃろう? なので砦を燃やしてしまおうじゃないか。下手に奪われてここを足掛かりにされるとてこずりそうじゃからな」


「そうか、それは悪くない考えだ。街を防衛すればいいこちらかすれば、それ以上責め上がることは無いんだから砦は不要とも言えるしね。では皆は先に行ってくれ。僕は砦に火を放ってから追いかけるとしよう」


 こうしてハルトウだけが砦に残り、他のものは街へと戻って行った。


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