13.暇つぶしの策略
つつましく振舞いながら数日が経ったある日、ヴーケはふと気が付いた。
『てゆうかハルトウの仲間のパーティー? ずっと何してるわけ? どこにもいかないでゴロゴロしてるか街でお茶したりご飯食べたりするだけジャン? ぶっちゃけ遊んでるだけで全然人類を救って無くない?』
『確かにそうですが、今のところ戦争が起きてないのでは? 王国軍が劣勢であればすぐに飛んで行くんでしょうが、何もない時にはすることが無いんでしょうな』
『てゆうかそれってアタシと同じようなもンみたいな? ぶっちゃけアタシだって暇過ぎてつまんなくなってきてンのにみんな良く平気だねぇ。ぶっちゃけチカからかって遊ぶくらいしかすることないもン。てゆうかあの子もムキになり過ぎだょネ』
『きっと主さまにとられるのではないかと不安なのでしょうな。現に勇者は主さまの言うことはなんでも聞くではありませんか。かたやあの娘には冷たく当たり過ぎて見ているこちらが辛くなりますぞ』
『てゆうかかわいそうだし? アタシがなんとかしてあげてもいンだけどなんかハルトウに魅了効いてるくさくなぃ? ぶっちゃけおかしいくらいにアタシにべったりだょネ。てゆうかホレられた? やっぱかぁいぃカラ?』
『はいはいそうですね。まあ本当のところは、砦から助け出される時に言っていたことではありませんか? 突然力を授かって勇者になったことでいろいろと戸惑いもあるのでしょう。そこへ主さまが星から遣わされたなんて言ったから境遇を重ねてしまったのでしょうな』
『てゆうかそれゆったのランドじゃね? つかそれだけでって感じだょ。ぶっちゃけハルトウってば他人を信用しな過ぎなとこあるし? チカともそれでケンカばっかしてるジャンねぇ』
『ハルトウと言う一人の人間ではなく勇者としてもてはやされていることに葛藤があるのでしょう。どうやら家族もいないみたいですしね。例えば主さまがその強大なお力だけを求められるだけで、優しい言葉をかけてくれるご家族がいなかったらと考えればいかがです?』
『秒で理解した! てゆうかランドってアタシから産まれたくせに賢すぎん? てゆうかランドがアタシの脳みそもってっちゃった? みたぃな? つか返せ?』
『はあ、それをワアにどうしろと? こう見えても日々遊んでいたわけではないのですぞ? 兄上様方の行動や言動を参考に学んでいたのですからね』
『ぶっちゃけ意識高すぎジャンね。てゆうかランドがいてくれて良かったょ。アタシだけだったらどうなっちゃってるかわかンないこと大すぎぃ』
『抑止のためにも賢くならなければならぬとボロギーさまによく言われておりますからな。兄上様は本当に先を見通すことに優れておりますぞ? 見習うべきは勉学的な賢さではなく、あの判断力や思考力でしょうな』
『てゆうかそれならアタシも考えてることあるょ? てゆうかもうすぐみんな起きてくるジャン? したらアタシが朝ごはんの用意を手伝おうと思ってるワケ。とりま出来ることは運ぶくらいだけど? ぶっちゃけタダメシ喰らいは気が引けるワケょ』
『それと引き換えに何を望もうと言うんです?』
『てゆうかランドってば鋭すぎぃ。ぶっちゃけ大したことじゃないンだけどサ。とりま次の戦いに連れてってもらおうカナって思うワケ。てゆうか少しでいぃから魔力開放しないと激ヤバ? みたいな。てゆうか星の力に目覚めたとかゆって魔法使ってもわかンないっしょ』
『そうですねえ、かれこれもう一週間くらい経ちますか? あまりに溜め込みすぎると思わぬ衝撃で魔力漏れを起こしてしまうかもしれませんな。しかし次に彼らが戦へ出向くのがいつなのかまったくわかりませんぞ?』
『てゆうか問題はそこなのょねぇ。ぶっちゃけもひとつ問題があってネ? 妖精を見せまくるのがまずいカモってコトなのょ。ハルトウもめっちゃ驚いてたジャン? てゆうか本当は妖精なんていなぃンだもンね…… ぶっちゃけアタシってばガッカリだょ』
『主さまがいつも城で読んでいた読み物には、角と尾の生えた人間族が牙をむいてましたしねえ。どこまでが本当なのかまだわからないことが多くありそうですな』
そんなとき、向かい側の部屋からハルトウが出て来た音がした。ちなみに今の時間はまだ陽が登ったかどうかの早朝であるから、なかなか早起きだと言える。
ヴーケは彼らがゴロゴロしていると思っているが、実はやることのない毎日だからと言って昼まで寝てはいない。それぞれが訓練や研究をしながら目的をもって日々過ごしているのだ。
そんな失礼なことを考えているヴーケは、魔力を使用せず溜めこみ続けているせいで疲労感もなく睡眠の必要もない。そのため時間を潰すことが大変で、夜な夜なランドとおしゃべりをして朝を待つくらいしかできない。
こうして朝を迎え勇者たちが目覚めると、メイドたちも起きだして朝食の支度を始めるのが毎日の流れだ。そこへちょっかいを出しに、いや当人はいたって真面目に手伝おうと考えたのだった。
何もできないドンくさい村娘ではなく、多少なりとも役に立つところを見せれば戦争へ連れて行ってもらえると考えたわけである。しかしそんな都合のいい話があるはずもない。
「だめだだめだだめだだめだめ、絶対にダメ! キミを戦地へ連れて行くなどあり得ないよ。頼むからここで大人しくしていてくれ。暇を持て余しているなら街へ出ておいしいものでも食べようじゃないか。そうだ、たまにはテルンとアスマルも一緒に行かないか? いつも篭って鍛錬では息がつまるだろうに」
「誘ってくれるのはありがたいですが、オイラはまだルーキーだからもっと練習して精度を上げないとダメですよ。こないだも二、三発は外してしまったし、ちゃんとパーティーの役に立ちたいんです!」
「アスマルの言う通りだ。オレも遠慮しとくぜ。いつ呼び出しがあるかわからないんだからな。準備を怠っていられるほどオレは図太くないんでな。もちろん皆が遊びに行くことを否定してるんじゃあないぜ? 結局は身体を動かしてないと不安なだけなんだ、臆病なんだよ」
「そうか、残念だけど無理強いは出来ないから仕方ない。なにか旨そうなものでも買ってくるから雰囲気だけでも楽しんでくれよな。女性陣はどうする? ザゲラはあの煮込みを続けるのかい?」
ハルトウは庭の隅に設置された釜戸の方向を指差した。するとザゲラはもちろんだとうなずいて例によってニヤリと笑う。
「やはり庭へ設置して正解だったろう? 多少は匂ってくるかもしれんが、調理場を使うよりははるかにマシなはずじゃ。これならあと一日も煮詰めればいいものが出来るじゃろうて」
「その秘薬ってやつ本当に効いてるの? ウチは怖くてとても口にできないよ。二人とも良く平気だねえ」
「チカも試して見りゃわかるさ。力がみなぎってきてもうそりゃビンビンだからな。一粒飲めば一晩中だって平気になるシロモンだぜ?」
「もうちょっとマシな言い方ないわけ? ――でもそれって戦闘職用ってことよね? そりゃウチも武器使うことはあるけどあくまで中衛だからやっぱいらないかな」
「わたくしはその…… 朝までビンビンというところが気になるのですが…… ザゲラさん、その秘薬は女性にも効きますか?」
「おいテルン、オマエさんがおかしなことを言うから勘違いされとるじゃないか。サキョウいいかね? これはあくまで戦闘力を向上させるものであって、夜の営みに効くわけじゃないんじゃ。第一おヌシは神に仕える身ではないか」
「はい、その通りです。ですから一晩中祈りを捧げ続けられるかを聞きたかったのです。皆が寝ないで戦い続けることがあった場合、補助役のわたくしだけが眠ってしまうわけにはいきませんでしょう?」
「あっ、ああ、そういう…… ふむ、眠らなくて済む薬ではないのでちと無理があるじゃろうな。しかしおヌシの言い分と心がけはもっともじゃ。ちと研究してみることにしよう」
結局はこうして蚊帳の外に置かれてしまったヴーケであった。