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11.勇者の仲間たち

 ハルトウの半ば強引な説得によりヴーケを渋々受け入れた勇者の仲間たち。と言っても全員が反対していたわけではない。現在勇者小隊として活動しているのは当人含めて六名体勢である。


 その中で反対していたのは実は一人だけで、あと一人は追加の受け入れ自体に消極的でやや反対という立場、残りはハルトウに従う従順派となっていた。


 ただし反対していたのがハルトウと同じ村の出身で幼馴染でもあるチカと言う女性であったため話が大げさになったとも言える。チカはとにかくハルトウに他人が近づくのが気に食わないらしく、ことあるごとに苦言を唱えるのが日常なのだ。


 ほとんどは遠征先での過剰な接待に関しての意見だったので今まで問題にならなかったが、今回は魔人たちから救い出した少女をこのまま保護する件だったため話がこじれてしまった。


 結局は勇者であるハルトウの意向が最優先となるため従うしかなく、不満は残るが引き下がったチカである。


 もう一人の反対者はハルトウと共に前衛で身体を張っている大盾持ちタンクのテルンであった。彼の場合は身近に親しい人間を増やすのはリスクが高まるからというしごく当然の意見であり説得力はあった。それでも少女一人を守れなくて世界を救えるかと言われたら引き下がるしかない。



「何の問題もないから自分の家だと思ってくつろぐといい。部屋はたくさん空いているから僕の向かい側を使ってもらうことにしたよ。何かあってもすぐに助けを呼べるだろ?」


「ありがとうございます。勇者さまにはなにからなにまでお世話になってしまって感謝です。何のお返しもできませんがせめて――」


「いやいやいや、僕への礼など不要さ。何も気にすることは無い」


『てゆうかランド? 今の態度見た? すっごくウブな感じでカーワーイーイー てゆうか年上に見えないンですけど? 』


『主さま? あまり過剰にからかわない方がよろしいですぞ? もしも本気になられでもしたら困りますからな』


『てゆうかしたら魔王国まで連れて帰っちゃえばいくなぃ? 人間との戦争も収まってめでたしだょ? そうだそうしよう。あの子を魅了しちゃえば話が早かったネ』


『落ち着いて下さいませ。もしも勇者の力で魅了が効かず、それだけではなく正体が見破られでもしたら大事になりますぞ? くれぐれも軽はずみな行動は慎みませんとこの国に長居できなくなりますからな?』


『てゆうかそれは困るネ。来たばっかなンだしちょっとくらい遊びたいもン。ぶっちゃけ手土産なしってのも気まずいし? 今はガマンしょ』


 ひとまずは猫をかぶったまま大人しく生活することにしたヴーケだが、そうなると一日が長くて仕方がない。自宅であれば読み切れないほどの蔵書が蓄えられているため飽きることなどなかった。


 しかし勇者が保養所と呼んでいたこの場所には本当に何もない。飾り気のない建物の中には殺風景な部屋があり、簡素で最低限の家具があるだけである。まさか勝手に模様替えをするわけにもいかないだろうし、そもそも魔法を使っての模様替えをすること自体が素性を明らかにしてしまうことに繋がりかねない。


 さすがにそれは危険極まりないと、いくらヴーケでも冷静に考えじっとガマンするのが当然だ。さて明日から何をして過ごせばいいのやらと考えていると、どうやらそれなりに疲れていたらしく、夕飯も食べずにいつのまにか寝てしまっていた。



 翌朝になり目覚めたヴーケは『妖精』のランドと今後について相談をしながらベッドに寝転んで暇をつぶしていた。お腹が空いては来たものの、居候の分際でずうずうしく朝食の催促などできやしない。


 そんなとき――


『コンコン』「えっと、ヴーケ? そう呼んでも構わないかい? きっと暇を持て余しているだろうと思ってね。街へ散歩に行かないか? 甘いものが好きならおいしいものを食べさせてくれる店があるから案内するよ?」


 ヴーケはドアを少しだけ開けてハルトウを上目づかいで見上げてからすぐにうつむいて、モジモジと恥ずかしそうな仕草で力なく返事をする。もちろん、なんと素晴らしい演技力なのだろうかと自画自賛していることはおくびにも出さない。


「勇者さま、おはようございます。もちろんアタシのことはヴーケとお呼び下さって差し支えございません。それにお出かけのお誘いなんてとても光栄ですね。しかし私は着の身着のままで出てきたどころか、お給金も無かったので無一文なのです」


「そんなことは心配しなくて大丈夫さ。それくらい僕に任せておいてくれ。おっと、もちろんなにか見返りを要求したりはしないよ? 僕が食べに行きたいんだけど一人ではつまらないから付き合って欲しいだけなんだからね」


「なに言っちゃってんのかね、この田舎もんがさ。ウチだってサキョウだって一緒に行くんだし、ザゲラだって途中までは一緒じゃないのさ。まさか色ボケちゃってんじゃないでしょうね」


「ちょっとチカは黙っててくれ。彼女が気を使ってしまうだろうが。それにキミたちの分だって僕が出すんだから特別扱いするわけで無し。ヤキモチのような態度はみっともないぞ?」


「誰がヤキモチですって! バカにしないでよね。アンタのことなんてなんとも思っちゃいないんだから!」


「それなら自分の分は自分で出してくれよ。幼馴染だからと言っておごる理由にはならないんだぞ? ああサキョウは神官長様から言い遣っているから心配しないでいいんだ」


 普段は神官服を着ていないらしく、上下濃紺の長そで長ズボンの作業着のような姿で立っているサキョウが無言でうなずいた。その横にいるチカは、目がチカチカ(・・・・)しそうな柄物の長いスカートを履いて、上は生成りの半そでシャツと言う服装でまるで踊り子のようである。


 もう一人、昨日は顔を合わせていなかったザゲラと言う人物はどうやら最年長の男性で、あまり整っていない顔をゆがめながらニヤリと笑いながらヴーケへ挨拶をした。


 彼女がここに留まることへ反対しなかったと聞いているのできっと悪気はないのかもしれないが、初対面でその笑い方をされたら十人中九人は嫌われていると考えてしまいそうである。もちろんヴーケは十人中一人の側であり、にこりと笑みを振りまいてお礼を述べた。


「ええとザゲラさま? お初にお目にかかります。アタシはヴーケと言う粗末な村娘、こちらでお世話になることをお許し下さってありがとうございました。しばらくの間よろしくお願いしますね」


「あ、ああ、怖がらせていないなら良かったわい。ワシはどうも愛想良くするのが苦手なんだよ。このパーティーでは呪術による攻撃を担当しているんじゃ」


「呪術ですか? ごめんなさい、アタシはそう言うことにあまり明るくなくてパーティー? とかも良く知らないんです。舞踏会とか違うんですよね?」


「わっはっは、もちろん違うぞ。パーティーと言うのは幾人かで組になって助け合って戦う集まりのことじゃ。戦うだけでなく探索や諜報など目的は様々だがな。ワシらの場合はもっぱら戦争の援護と言うことになるじゃろうか」


「戦争は怖くて嫌ですね。誰もが争わないで済む世の中ならいいんでしょうけど。ああ、差し出がましいことを言ってしまいごめんなさい」


「いやいや結構、それは正論じゃからな。ワシもそんな世がやってくることを望んでおるのじゃが、どうにも先は遠そうに思えるわい」


 年の功なのか話してみると立派な考えを持っていそうな老人だ。とは言えまだ五十手前と言うことで、人間の寿命が短いと言ってもまだ老け込むような年齢ではない。


 それでもしわくちゃな顔をしているのは、呪術を探求していると自分に受ける呪いによって肉体の老化が早まってしまうのだと説明された。言葉を話すように魔法を使える魔人族と違って、人間はなかなか苦労が多いと感じるヴーケである。


「それじゃこのまま立ち話していても仕方ないから出掛けよう。留守はテルンとアスマルに任せてゆっくりと楽しもうじゃないか。そうそう、もう二人は帰って来てから夕飯の時にでもきちんと紹介するからね」


「はい勇者さま、重ね重ねありがとうございます。迷子にならないようしっかりとついてまいりますね」


「そうだな、それでは僕の袖でも掴んでおいてくれ。そうすれば離れてしまった時でもすぐわかるだろう?」


「お気遣いありがとうございます。勇者さまは本当にお優しいお方ですね」


 そう言うとヴーケは、ハルトウの腕へ自分の腕をからめて腕組みをし、並んで歩きはじめた。


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