1.毒パパの言うことなんて!
「このバカ娘が! 何度言えばわかるのだ! くだらない人間の読み物など捨ててしまえ! まったくどこで手に入れてくるのやら。さあ、今日は軍勢召喚の修行を行うぞ。すでに指南役を待たせているのだ、すぐに訓練場へと向かえ!」
「なんでアタシばっかそんなことやらなきゃいけないわけ? 次期魔王はにいになんだからあっちを鍛えたらいいじゃん。魔法使うと爪の先が焦げてネイルがダメになっちゃうからヤなんだよね」
「つべこべ言わずに早く行くのだ! 我が娘であれば兄の才能はすでに見抜いておるだろうが。アヤツにはオマエのような才は無い。せいぜい軍隊長クラスだろう。だからこそオマエが後を継がねばならないのだ」
「てゆうかめんどいししんどいし遊びたいしぶっちゃけ魔王になれるくらい力があるなら修行なんて必要なくない? パパだって元気でまだしばらく魔王やっちゃうんでしょ? アタシったらそんな先の話考えたくなーい」
「やかましい! 物事には順序や様式美と言うものがあるのだ! 定められた修行を全てこなしてこそ、魔王の玉座に座る資格を得られることがわからぬか!」
「パパこそ乙女心がわかってなくない? てゆうか玉座とかカワイクないし。大広間のカーテンだってもっとレースを使ったヤツとかのが良くない? てゆうか魔王になったらそーゆーの自由にしてもいいワケ?」
「いいわけないだろう、このバカモンが! 魔に属する種族の長たちがやってくる場をなんだと思っているのだ、まったく。だが確かに修行だけでは退屈してしまうかもしれんな」
「そうだょ退屈だからやる気が出ないんだってば。ぶっちゃけ指南役のセンセが教えてくれることって一回見たら大体できちゃうんだもん。てゆうかアタシってばまさか天才?」
「天才でもなんでも構わん。ではその片鱗を見せてもらおうか。ほれ、訓練場へおもむくぞ。我が娘の優秀さをこの目に焼き付けようではないか」
こうして結局父親に押し切られ訓練場へと連れて行かれた少女こそ、次期魔王最有力候補であるヴーゲンクリャナだった。その魔力は生まれながらにして兄たちを軽々と超え、将来は魔王である父を超えることは間違いないともっぱらの噂である。
それだけに魔王がかける期待も大きく日々の修行を強要してしまう。もちろん愛娘として愛情を注いでいるつもりではあるのだが、相手が同じように考えているとは限らない。
「これはこれはヴーゲンクリャナ様、ご機嫌麗しゅう。本日の指南役は私ゴンゴルゾーにございます。すでに準備を整えお待ちしておりました」
「ハアーイゴルちゃんハロハロー。今日はヨッロー てゆうか軍勢召喚って本当に意味あンの? アタシが前線出るとしたら少数精鋭で良くなぃ? ぶっちゃけいくらザコを大勢召喚したって嫌がらせにしかならないと思うンだケド?」
「もちろん姫様お考えの通りでございましょう。しかし、軍勢が多ければ相手は畏怖するもの。戦わずして降伏を促すことも出来ましょう。無駄な戦闘が無ければ人間も死なずに済み幸福を得られるというもの。さすれば我ら魔王軍に敬意を払い大人しく従うことでしょう」
「ナルナル。ゴルちゃんって賢いねぇ。でもぶっちゃけ駄洒落のセンスはいまいちカナ。てゆうか戦わないなら戦闘訓練なんて必要なくない? アタシ汗くさいのって好きくなぃンだょネ」
「しかし相手が毎度毎度降伏してくるとは限りませぬ。やはり戦闘の技量は磨いておかねばならぬでしょう。とは言っても姫様の場合は加減を覚えることが重要かと存じます」
「ねえパパ今の聞いた? やっぱこないだ訓練場壊したからゴルちゃん大変だったクサぃょ? てゆうかまた壊しちゃうとマジヤバだから今日はお休みってことにした方がいぃってアタシ思うの」
「バカなことを言うではない。壊れた物はなおせば済むのだからいくら壊しても構わぬ。それこそ軍勢を召喚し修理人員として働かせればいいのだからな」
「てゆうかパパってあーゆえばこぉってしすぎぃ。たまにわアタシのゆぅこと聞いてくれてもいいじゃなぃの。いっつもいっつも厳しすぎるょ。ぶっちゃけ古い考えにはついていけなぃって感じ? ママはやさしいのにサ」
「ママ―― いや王妃はオマエに甘すぎるのだ。いくら末の娘だからと言ってなんのしつけもしないからこんなバカ娘になってしまったのだからな」
「あー自分の娘をバカってゆうとかひどくなぃ? アタシはだって馬と鹿の区別くらい出来ますょーだ。てゆうか出来ない人いるとは思えないンだケド? ぶっちゃけしつけだってママだけの責任じゃ無くない? にいにたちだって毎日グウタラしてるかきれいなお姉さんのいる店に行くかくらいしかしてないジャン。アタシだけ修行とかヤダヤダヤダ」
「わ、わかったわかった、これからは修行をきちんとやったなら週に一度は街へ遊びに行くことを許そう。ただし毎日遊び呆けるほどの小遣いはやらぬぞ? ああ見えても兄たちは仕事をして自分の稼ぎで遊んでいるのだからな?」
「えーそれってマジぽん? 上のにいにはまあ仕事できそだけど下のにいにはぶっちゃけ人と話できなくなぃ? いっつもボソボソゆってるだけでなんてゆってるか全然わかンないんだモン。てゆうか社会不適合者? キャハッ」
「こらっ! 兄をそんな扱いするんじゃない。アヤツはそれでも頭が切れる。なにやら穀物だとかの相場を見ながら差益を稼いでいるとの話だぞ? オマエにそれが出来るのか?」
「てゆうかできないと思われてるからこうやって力任せのことばっか教え込まれてるんじゃないの? アハハッおっかしー。アタシってば天才だけどバカってこと? めっちゃウけるー☆ミ」
こんな調子で修行など一向に始まる様子の無い訓練場では、指南役のゴンゴルゾーが気まずそうに立ちすくんでいる。
それでも辛抱強く待っているのは魔王の命令であるためだと言うこともあるが、過去に例を見ないほどの素養を持つヴーゲンクリャナへ魔法を教えることに喜びを感じているからなのだ。
それにいつも通りならそろそろ修行に取り組んでくれるはず。そう信じて今しばらく待つ老魔導士であった。