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Name  作者: 武村 華音
2/7

第2話






「かずさってどんな字書くの?」

「和洋中の和に更紗の紗です」


 何故か私は別のコーヒーショップで香月という男と向き合って座っていた。


「字を見れば女だって分かりそうなもんだけどねぇ」

「教えるのは親しい人だけじゃないですか。だから名前だけを平仮名や片仮名で入力する人が多いんですよ。で、彼氏に男の名前と間違われて誤解を解くために連れ回されるんです、香月さんも同じじゃないんですか?」

「んにゃ、俺の場合苗字のみ登録してて勘違いされるパターンが多い」


 香月という男は灰皿を右端に移動させて煙草に火を点けた。


 どちらにしても、それは登録する側の責任で私には何の過失もない。

 勿論目の前の男性にも同じ事が言える。


「まさか仲間がいるとは思わなかった」

「同感です」


 珈琲を口に運びながら私も頷く。


「まったく……紛らわしい名前付けやがって」


 おそらく親に向けた言葉なのだろうが、よく聞く言葉でもある。


「私は自分の名前嫌いじゃないですよ」

「まぁねぇ、俺だって嫌いじゃない。好きではないけど」

「いい名前だと思いますけどね」


 香月(かづき) (あおい)……。


「苗字も名前も女みたいだとそうも言ってらんねぇよ、もう何年嫌な思いしてきたと思うよ?」


 おそらく女みたいな名前だと幼い頃から言われていたに違いない。


 私も同じだ。

 男みたいな名前だと言われてきた。

 偶然、同じクラスに上総という名前の男がいたので余計だった。

 私の字が和紗だといっても、響きだけで笑われた。


「私でも10年ですからそれ以上でしょうね」


 目の前の男はおそらく大学生だろう。

 サラリーマンではないと思う。

 平日の夕方に私服でうろついているのだから。


「まぁねぇ」

「香月さんは大学生ですか?」

「んにゃ、取り敢えず社会人さんデスヨ」


 取り敢えずって……。


「システム関係の会社に行ってるし、こんな格好でも構わないのデス」

「そんなもんですか?」

「そんなもんデス」


 香月さんは幸せそうな顔をしながら煙草の煙を吐き出す。

 器用に輪っかが出来ているからびっくりだ。


「和紗ちゃんは高校生だね?」

「見たまんまです」

「ショートカットって事は部活はスポーツ系?」

「そうです」


 見たまんま、そのまんまである。


「その制服は西校か。頭いいんだね」

「普通ですよ」


 私は目の前のカップを口に運ぶ。


「友達相手の口調で話してくれてもいいのに」

「初対面の人相手にそれは難しい注文です」

「俺達仲間じゃん」

「何の仲間ですか」

「性別間違われる仲間」


 二カッと笑う香月さんは何となく子供っぽくて笑える。


「アレは親しい人とキレた時限定です」

「残念だなぁ」


 嘘か真か。

 全く残念そうに見えない顔で香月さんは笑った。


「仕事中じゃないんですか?」

「仕事中デスヨ?」

「こんなところで遊んでていいんですか?」

「皆やってる事デスカラネ」


 子供みたいな事を言う人だな……。


 表情も言い訳も何だか年上とは思えない。

 でも……上、なんだよなぁ?


 私は香月さんの顔を眺めながら口を付けた部分を軽く指先で拭う。

 指先が薄っすらとピンクに染まった。


「こんなとこで女子高生と何してるのかしら?」


 急に背後から声を掛けられて私はカップを置いて振り返った。

 女子高生というのが自分の事だと思ったからだ。


「あら、和紗?」

「お姉?」


 振り返った先にいたのは毎日顔を合わせている姉、上原(うえはら) 和奏(わかな)


「あんたこんなとこで何してんのよ?」

「お姉こそ」

「私はあんたの目の前にいるサボリ魔を捕獲に来たのよ」


 香月さんは私とお姉を見比べるように見ている。


「上原さんの妹君でしたか」

「何よ、文句ある? こんな可愛い子が私の妹じゃなくて何だというの?」


 気のせいかすっごく落胆している。


「ほら、さっさと立ちなさい。仕事は山と残ってるのよ。人の妹をナンパしてる時間があるなら仕事の3つや4つ片付けなさい」


 お姉は香月さんの背中に伝票を押し付けながらレジへと連行する。

 2人は仲が良さそうだ。


 香月さんは軽く手を上げ、私に別れの挨拶らしい仕草を残して会計を済ませ店から出て行った。


「で? なんであんたが香月とここにいたのよ?」

「いつもの事。男と間違われて呼び出された」

「あいつに?」

「いや、あの人も同じ店に呼び出されてた」

「は?」

「女と間違われたらしい」


 お姉は意味が分からないとでも言いたげな顔で私を見ている。


「だからって何で2人でお茶してんのよ?」

「これ珈琲」

「屁理屈はいいの」

「店を出たところで声を掛けられて仲間だねぇって感じでここに連れて来られた」


 それ以上も以下もない。


「初対面の男にあんたもよく付いて来たわね?」

「見た目以上に強引で」

「確かに。強引なのは分かる気がする」


 1人納得するお姉を眺めていてふと感じた。

 お姉と香月さんはただの先輩後輩ではないのではないか? と。


「香月さんってお姉の彼氏?」


 お姉はこれ以上ないくらい分かりやすく赤面という形で私の問いに答える。


 ビンゴか?

 彼氏が自分の妹とお茶する事さえ許せないほど狭量な姉だとは思わなかったが……。


「あの人いくつ? お姉より下?」


 ちなみに、お姉は24歳だ。


「下、って言っても1つだけよ」

「でもって同じ部署の後輩でもあるわけだ?」

「それが何よ?」

「別に? 母性本能なんてものがお姉にもあったのかと思ってさ」


 今までの彼氏とは毛並みが違う。

 何というか……今までのは強引で筋肉隆々のむさ苦しい男ばかりだった。


 香月さんはと言うと……華奢な爽やか王子?

 飼い犬みたいな人懐っこさで逞しいとも思えない。

 頼れるのかどうかも怪しい。


「失礼な子ねあんた」

「今更っしょ」


 私はカップの中身を飲み干して立ち上がった。


「お姉が疑うようなもんなんてなんもないよ、当然だけど」


 私は御馳走様とだけ告げて店を出た。


 お姉の彼氏か。

 世の中狭いな。


 私は店の前で身体を大きく伸ばして駅に向かって歩き出した。




 ごらん頂きありがとうございます。


 何とか書けました。

 次回からは0の日更新が出来そうです。


 という事で。


 次回は5/20(朝9~11時位)UP予定です。

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