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1-2

 町は魔獣や魔物の侵入を防ぐために古びた城壁にぐるりと囲まれていて、重厚な門の脇には小さな尖塔が二つ並んでいる。


「ああ、やっとラバメに着いた」

 ナイジェルが安堵したように呟く。


 二人は門をくぐり抜けると、わき目もふらずに尖塔内にある「転移陣」と書かれた表札を掲げる部屋に向かった。


 セキュリティー上の理由から、転移陣を使用するには国に魔力を登録して許可証を発行してもらう必要がある。どこかに転移したい場合は、まず最寄りの転移陣へ赴いて許可証を提示し、目的地までの転移陣の利用許可を申請する。


 しかし、許可を得たからといって魔法が使える者なら誰しも転移魔法を使えるとは限らない。人や物を別の場所へ瞬時に移動させるのは膨大な魔力を消費するからだ。国内トップクラスの魔力量を誇るジェイドは転移魔法も難なく使えるので、当然使用許可証を持っていた。


 転移陣があるのは、そう広くはない部屋だった。所々剥がれた白い塗装の壁と、年季の入った飴色の床板が敷かれ、部屋の中央の床には白い円の中に複雑な模様が描かれた転移陣があった。入口の脇に簡素な木製の机が置かれていて、そのすぐ側の椅子に簡易的な鎧を身に纏った男が俯きながら腰かけていた。


 ジェイドがコツリと音を立てながら部屋に足を踏み入れると、門番(ゲートキーパー)と呼ばれる警備員が慌てて立ち上がった。小太りの中年男で、居眠りでもしていたのか、髭が生えた口元の涎をさっと手の甲で拭う。

 転移陣の番人なのに何故「門番」と呼ぶのかというと、まだ転移陣が開発されていなかった時代に転移門を使用していた名残なのだとか。


「ようこそラバメの転移陣へ。転移魔法の許可証を拝見できますかな?」


 ジェイドが腰に下げた鞄から許可証を出すと、門番はジェイドの顔と許可証の写真を交互に確認し、大きく頷いた。


「ようこそ、ジェイデン・ジドニール様。お連れ様も、身分証明書を拝見します」

「あいよっ」


 ナイジェルは意気揚々と懐から傭兵ギルドの登録証を取り出し、門番に見せる。


「ようこそ、ナイジェル・パーカー様。これはこれは! 傭兵ギルドの方でしたか。もしや、今回ジャイアントボアの討伐に来てくださったのはお二人だったのですか?」


「おうよ。一昨日の夕方に到着して、昨日の朝から森に入っていたんだ。やっとさっき討伐を終えたところだ」


「それは、お疲れ様でした。ラバメの住民のひとりとしてお礼を申し上げます。いやあ、あいつらにはほとほと困っておったのですよ」


 門番はナイジェルの登録証を両手で持って丁寧に返却しつつ、ぺこりと頭を下げた。


「いいってことよ。また困ったことがあったら、ギルドに依頼出してくれ」

「そうさせていただきます。それで、お二人の最終目的地は何処ですかな?」

「首都メロリの傭兵ギルドまで」

「メロリですって!?」


 さらりと言ったジェイドに、門番はギョッとしたように目を剥いた。


「ここからだと三か所くらい転移陣を経由しないと辿り着けないでしょうに! 途中どこかで宿泊して魔力を回復されるおつもりですか?」


 ジェイドは首を横に振る。


「いや、今日中に帰りたいんでな」


 門番は「はああ」と感嘆とも呆れともつかない声を漏らした。


「ジドニール様は相当な魔力をお持ちなのですなぁ。承知しました」


 彼は机の上に置いてあった魔石板(タブレット)にジェイドの許可証をかざす。ピロリンと音がして、魔石板の表面が光った。


「え~っと、メ、メ、メ。あれ、どこいった……? ああ! あった、あった。メ、ロ、リ、傭兵、ギルド、っと」


 門番は声に出しながら二人の目的地を魔石板に入力した。人差し指を彷徨わせながら一文字一文字入力する様子から察するに、あまり業務に慣れていないようだ。


「それでは、ジドニール様。許可証はお返しします。お二人とも、よい旅を!」

「おう、ありがとうよ!」


 ナイジェルがヒラヒラと手を振る中、ジェイドは門番に目礼を返し、転移陣へ移動する。ナイジェルも円の中に入ったことを確認すると、転移陣に魔力を流した。足下の転移陣が青白く光を放ち、二人の姿を包み込んだ。

 

 一瞬の後に、二人は中継地点の転移陣へ移動していた。

誤字脱字は見つけ次第修正していきます。

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