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1-1

「ジェイド! 群れのリーダーがそっちに行ったぞ、任せた!」


 鬱蒼と木々が茂った森の中、ジェイドは大木の枝の上で身を潜めていた。巨大な生き物が土を蹴る振動が段々とこちらへ近づいてくる。今回の標的である魔獣のものとみて間違いないだろう。

 ちらりと視線を巡らせると、視界の端に、猛烈な勢いで突進してくる巨大な猪に似た魔獣の姿が映った。


 ――今だ。


 ジェイドは右手に魔力を纏わせ、枝から飛び降りた。ちょうど真下へ走ってきた魔獣の頭へ雷撃を落とし、勢いのあまりもんどり打って倒れたところを腰に佩いていた剣で斬りつける。

 魔獣は断末魔の叫びを上げる間もなく絶命した。


 ジェイドは無感情に魔獣の遺骸の傍らにしゃがみ込むと、己の肉体に身体強化をかけて魔獣をひっくり返して魔核のある部分を上にした。魔力を持つ全ての生き物には魔力の核になる器官があり、それは魔核と呼ばれている。

 魔核は加工すると魔力を蓄えておける魔石になるので、ギルドに売ればいい小遣い稼ぎになるのだ。


「さっすがジェイド! 手際がいいぜ!」


 腰に下げたナイフを抜き、魔獣の体から魔核を切り離していると、赤毛にエメラルドのような緑色の目の相棒、ナイジェルがへらへらと笑いながらこちらへ走ってきた。


「いやあ、やっぱり群れのリーダーだけあって、でけえ上に手こずったわ」


 ジェイドはナイジェルを一瞥すると、魔獣の骸に向かって顎をしゃくった。


「素材の切り分けを手伝ってくれないか。さっさと終わらせて戻りたい」


「了~解っ! うっひょお! 今夜は肉祭りだな! ジャイアントボアの肉は美味いんだよなあ!」


 ナイジェルは涎を啜りながらいそいそとナイフを取り出した。

 小一時間ほど二人でジャイアントボアを解体し、腐りやすい内臓は地面に穴を掘って投げ込み、魔法で熾した火を投げ入れて燃やす。この付近には商人や旅人が行き交う道があるので、そのまま埋めてしまうと、血の匂いで他の魔獣や獣が集まってくるので危険なのだ。


「ふう! これでギルドに依頼されていたジャイアントボアの討伐は済んだし、家に帰れるな。日が暮れる前で良かったぜ」


 ジェイドとナイジェルは大陸内部に位置するフゼンメール共和国の首都メロリで、傭兵ギルドから指名手配犯の捕縛や魔獣の討伐、護衛などの任務を請け負って生計を立てている。今回も国の西端にある辺境の森で大量発生して周囲の村や集落を襲っていたジャイアントボアの群れの討伐に来ていた。


 ナイジェルは手の甲で額を拭いながら満足気に息を吐いた。汚れたままの手で拭ったため、額にジャイアントボアの血がついてしまっている。


「これで拭け」


 ジェイドは彼に向かって額を指差しながら手巾を放ってやった。


「おっ、ありがとな」

「ん」


 ジェイドは立ち上がって腰を捻った。ずっとしゃがんでいたので腰と肩が痛む。ぐるぐると肩を回し、首を左右に倒してストレッチをすると、少し楽になった。


 二人は持ち帰る素材をその場で分け、それぞれの魔法鞄の中へ収納した。腰から下げておけるくらいの大きさの鞄だが、中は魔法で拡張してあり、見た目以上の収納力があるので重宝している。


「メロリに帰ったら、まずはギルドの受付嬢リリアちゃんを食事に誘ってみよっかな。それとも蝶々亭のエイミーちゃんに会いに酒場に行こうか……。ムフフフ」


「相変わらずだな。さっさと支度をしろ。置いて帰るぞ」


 デレデレと鼻の下を伸ばすナイジェルを尻目に、ジェイドは踵を返した。


 ナイジェルは魔銃の腕前に関しては右に出るものはいないが、如何せん軽薄な性格をしていて、常に女の尻を追いかけまわしているのが玉に瑕だった。

 ジェイドとしては一刻も早く帰宅して風呂に入りたいのに、この森を抜けるだけでも軽く一時間を要するのだ。どの娘とイチャつこうと好きにすればいいが、そんなことはメロリに帰るまでの道すがら考えてほしい。


「待ってくれよ~! 本当、『宵闇の魔導剣士』サマはお堅いこった」

「誰が『宵闇の魔導剣士』だ。早くしろ。日が暮れちまう」


 世界には魔力を持った人間が一定数存在している。そして、魔力持ちの中でも更に少数の者が魔法を使うことができるのだ。国によって彼らの扱いは異なるが、ジェイドたちが暮らすこの国では魔法を使える者はもちろん、魔法は使えないが魔力を持っている者も魔石に魔力を供給できるので重宝されていた。


 ジェイドは攻撃魔法を駆使する魔導士であり、同時に剣技にも長けた剣士でもある「魔導剣士」として生計を立てている。褐色の肌に緩い曲線を描く黒い髪、金色の目という風貌から、都の若い娘たちから「宵闇の魔導剣士」と呼ばれているらしいのだが、面と向かってその二つ名で呼ばれたことがなく、ナイジェルやギルドマスターから揶揄い半分に教えてもらっただけで、真意のほどは分からない。


 ちなみにナイジェルは魔法は使えないが魔力を持っており、自身の魔力を籠めた魔石を魔銃に装着して使っている。


 足場の悪い森の獣道を淡々と進んでいくと、やがて拓けた街道に出る。そこから更に歩くこと一時間。ようやく森の近くにある小さな町に辿り着いた。

1エピソードに詰め込み過ぎて文字数が凄いことになる癖があるので、ここで一旦区切ります。次回に続きます。

誤字脱字は見つけ次第修正していきます。

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