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2-2

体調不良で寝込んでいたため、更新が遅れました 汗。

ジェイド視点です。

 その日、ジェイドは傭兵ギルドへ依頼の報告へ行った帰り、三番街の裏通りにある庶民的な大衆食堂へ向かった。決して洒落た店ではないが、値段の割に量が多く味も悪くないので、ギルドに用事があった時はよく立ち寄る食堂だ。


 建付けの悪いドアを押し開くと、年季の入ったカウンターの後ろで鶏肉に串を打っていた店主が顔を上げた。


「おう、ジェイドじゃねえか。久しぶりだな。今日は依頼がねえのかい?」

「ああ。オヤジ、いつもの頼む」

「はいよ」


 空いていた席にどっかりと腰かけると、店主の妻がポタタ芋の揚げ物を持ってやって来た。


「ジェイドちゃん、久しぶりだねえ。元気そうでよかった」

「おかみさんも元気そうで何よりだ」

「もう年だからねえ、あっちこち痛くってかなわないよ」


 くたびれた肉体労働者や頑固そうな職人など、男くさい客で賑わう店内が妙に心地い。

 ポタタ芋の揚げ物をつまんでいると、おかみさんがスパイスで味付けした鶏肉もも肉のシチューを持ってきてくれた。


「はい、おまたせ。最近寒いから、温かいものが美味しく感じるわよね。じゃあ、ごゆっくり!」

「ああ、ありがとう」


 のんびりと食事を楽しんでいると、近くに座っていた中年男性たちの会話が耳に飛び込んできた。


「そういやあ、最近、あちこちで行方不明者が出てるって話だぜ」

「行方不明者?」


「ああ、五番街の法律事務所に務めていた女性が、職場を出たきり姿を消して、家に帰って来なかったんだと」


「何だ? よくある家出とかじゃなくてか?」


「それが、四番街と三番街の境目付近に、彼女の鞄が落ちてたって話だ。似たような事件がメロリ郊外でもう一件あったらしい。そっちの行方不明者は女性じゃなくて若いお兄ちゃんって話だけどよ。両方とも魔力持ちらしいぜ」


「そりゃ、明らかに事件に巻き込まれたっぽいな。魔力目的の誘拐かね?」

「どうなんだろうなあ」


 ジェイドは思わず振り返った。彼らは肉体労働者のようで、四人とも着ている服が埃で汚れていて、頭には埃避けの布を巻いている。肉が多めのがっつりとした定食を美味そうに咀嚼している。


 魔力持ちというと、真っ先にフリージアの顔が思い浮かぶ。ジェイドやナイジェルと違って、彼女は戦う術を持っていない。


(三番街と四番街の境目って、このすぐ近くじゃないか)


 ジェイドは魔石板(タブレット)を取り出すと、傭兵ギルド所属員専用サイトにアクセスした。ここでは簡単な依頼内容や、警邏隊(けいらたい)がギルドメンバー向けに公開している指名手配犯などの情報を閲覧する事ができる。


 傭兵ギルドに登録された者は誰でも例外なく、まずEランクからスタートする。依頼をこなして実績を積むと徐々にランクが上がるのだが、行方不明者情報にアクセスできるのは犯罪歴がなく、素行にも問題のないギルドお墨付きのCランク以上のメンバーに限られる。ジェイドは最高位のSランク、ナイジェルはAランクで、二人ともギルドからお墨付きをもらっている。


 過去三十日間に行方不明になった者たちの情報を探していると、件の二人と思わしき人物たちのデータを見つけた。


・ジュリエッタ・ローズ 三十二歳。女性。魔力持ち。

 身体的特徴:栗色の髪、ヘーゼルの瞳、明るい肌色。身長173スニート。痩せ型。

 失踪時の服装:グレーのロングコート、黒いブーツ。

 氷の第一月五日午後九時頃に五番街の勤務先を出た後の目撃情報がない。四番街と三番街の境目、イルナ通り付近で所持品の鞄が発見された。


・エルマー・リリーズ 二十五歳。男性。魔力持ち。

 身体的特徴:ダークブロンド、水色の瞳、明るい肌色。身長:168スニート。中肉。右目の下に黒子あり。

 失踪時の服装:黒のファウンダー羽毛のジャケット、ベージュのズボン、黒い革靴。

 氷の第一月十九日午後二時頃、メロリ郊外バチェ地区の自宅を出た後の目撃情報がない。


 発見者は行方不明者の捜索依頼を受注・達成したとしてギルドに功績が登録されることと、報酬として十万エメを支払う、と書かれている。


 男たちが噂していた通り、二人とも魔力持ちのようだ。一人目が行方不明になってからそう日を置かずに二人目が失踪していることから、誘拐であれば犯人は犯行が露呈することに対して頓着していないような印象を受ける。よほど切羽詰まっているのだろうか。


(やはり、家に帰る前に修道院に寄ってフリージアに注意しておいた方がいいな……)


 フリージアは通信用の魔道具を持っていない。そのため、連絡をとるには修道院の受付に伝言を頼むか、直接会いに行くしか手段がない。ジェイドはナイジェルに連れられて既に何回もフリージアに会いに行っているので、修道院の受付で手続きさえすれば、事前に警邏隊に面会許可を申し込む必要もない。


 思案している間にも、男たちは会話を続けていく。


「どこも物騒だな。東部も魔物の動きが活発になってるって話だしなあ」


「東部っていうと、あれか? ベロアージュとか、メポタルとかあの辺かい? まあ、辺鄙な田舎だしなあ。元々魔獣や魔物が多いんだろうけど」


「あの辺は家畜を放牧しているだろう。それを狙って集まって来てるんじゃないか?」


「今のところ地元の傭兵ギルドと自警団だけで対処できてるって話だが、規模が大きくなれば本部の傭兵ギルドにも依頼が来るだろうな。何たって実力派揃いだから」


 ジェイドは眉を顰めた。

 この間ジェイドとナイジェルがジャイアントボアの討伐に行ったラバメは西部だったが、同じように魔獣が異常に繁殖して人里を襲っていた。それが今度は東部で起こっているらしい。


(ベロアージュか。……ん? 待てよ、ベロアージュ?)


 ジェイドはハッとした。


 先日五番街へ買い物へ行った際、フリージアはベロアージュの地名を聞いた時、明らかに様子がおかしかった。


(フリージアと何か関りがあるのか……?)


 ベロアージュ地方は、三百年以上前まではベロアージュ神聖国というひとつの国だった。それが突如として攻め込んできた帝国に滅ぼされ、紆余曲折を経て現在はフゼンメールの行政区画のひとつとなっている。


 ジェイドは以前、ベロアージュ地方の歴史について書かれた書物を読んだことがあったが、その中に刺青についての記載があったことを思い出した。元々別の国であっただけあり、あの地域にも独自の伝統文化がある。滅亡してから既に三百年以上も経っているが、今でも一部の風習は受け継がれていても不思議ではない。


(あの辺の資料はデータ化されていなかった。今度国立図書館に行って調べてみる必要があるな)


 ジェイドは食事を済ませると、魔動二輪でフリージアが暮らす修道院へ向かった。

誤字脱字は見つけ次第修正していきます。

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