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パワハラ男

「いつも休日は何しているの?」

「…………………」

「ねぇ?」

「…………………別に何も」

「そんなことないっしょw あっ、もしかして他人に言えないこと~?www」

「うざ…」

「ええ~www 何かな~ナニかな??? おほっw 妄想がふ・く・ら・むwww あああああああっ‼ もしや一人エッ…www」

「チンコン馬鹿野郎! くだらねぇこと言ってねぇで運転に集中せんかい!」

「す、すいません…!」


 ダンボール六十個分の乾燥大麻、手錠と縛り縄で拘束された警察官二人、そして収穫したての西洋カボチャ少々。そんなヤバイ荷物を積んだトラックは荒れ果てた砂漠を進んでいた。

 トラックの窮屈な座席には、グリコ兄貴と俺、そしてその間にエルフちゃんが挟まれている。


「先に市場に行って、積荷をおろすぞ」

「はい」

「その後は組の事務所に行って、奴らをばらす」

「はい」

「で……」

「はい」

「この子は、どうするんや?」

「はい」

「ワイはどうするんや、って聞いているんやろうがい⁉」

「はい。結婚します」

「ええっ⁉」


 エルフちゃんが悲鳴のような声を上げた。


「運命だと思うんで」

「う、運命…⁉︎」

「うん。俺、貧乳好きだし」

「アナタは、とんでもない勘違いをしています‼︎」

「え?」

「私はアナタとは結婚出来ません!」

「ど、ど、どうして⁉︎」

「気持ち悪いからです! 私のこと何も知らないくせに、簡単に結婚なんて言わないでください!」


 彼女の予想外な言葉に、俺は動揺してしまう。

 気持ち悪いって……これって好きの裏返しか? 要は照れ隠しだろ! やっぱり彼女は俺に脈あり⁉


「それにパワハラ男とは結婚したくありません!」

「パワハラ…?」

「そうですよ!」


 またもや遡ること二時間前。


「よしっ! これで全部やな」

「はい!」


 俺とグリコ兄貴の二人掛かりで、ようやくダンボール六十個分の乾燥大麻をトラックに積み終えた。


「んぅ、じゃあ市場に殴り込むぞ」

「あ、待ってください! 兄貴!」

「なんや?」

「市場に行くんだったら、ついでに出荷したい野菜があるんですけど……」

「このアホたれぇ! テメェーまだ野菜(大麻)を隠し持ってたのか⁉」

「ち、違います! 健全な方の野菜です! カボチャっすよ、カボチャ!」

「カボチャだぁ……? へっ! だったらさっさと荷台に積めや!」

「それが……」

「あん?」

「まだ収穫をしていなくて……」

「じゃあ無理じゃねぇか」

「いや…その……だから……」

「なんや⁉ 男なら、はっきりと言わんかい‼」

「兄貴! 収穫を手伝ってください!」


 直後、グリコ兄貴のストレートパンチが飛んでくる。


「誰に口聞いとるんじゃ! ワレェェ⁉」

「す、すすすすううういまぇんん‼」


 瞬時に土下座! すると、折れた歯が口から地面にこぼれ落ちる! 


「次、なめたこと言うたら殺すぞぉ⁉」

「イエス・マイロード! 感謝! 兄貴の寛大な心‼」


 舐めたらあかん! これが極道の上下関係!


「というわけで、君に手伝ってもらうことにしたからね」


 荒れ果てた畑の上でエルフと俺の二人。


「何で私が⁉ 嫌です!」

「じゃあ、やろうか? ほらハサミ持って」

「ちょっと、人の話し聞いてます⁉」

「……………つぶれてるやん……」

「農作業なんて私やりませんからね!」

「潰れてるやんぅぅ⁉」

「わっ⁉」

「何これぇ⁉ えっ⁉︎ どうして⁉ ほとんどダメになってるじゃん⁉」

「あっ…」


 眼前には、収穫前のカボチャが、ほぼ全て壊滅状態という悲惨な光景が広がっていた。


「せっかく……せっかくの丹精込めて作ったカボチャが…………こんな………」

「うっ…」

「一体…誰がこんな酷いこと……」

「あ、あの……」


 その時、俺は今朝の出来事を思い出す。

 ガガガガガガガガガガガガガガゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!

 暴走するトラクター。運転席には一人の女。


「まさか……」


 エルフちゃんの方を見る。


「君が?」

「…………はい」

「どうして、こんな⁉︎」

「ヤバイと思ったが暴走欲が抑えられなかったんです」

「暴走欲⁉︎」

「はい…むしゃくしゃして、ついやってしまいました。本当に……本当に、ごめんなさい‼」

「良いんだよ」

「え…」

「むしゃくしゃする時ってあるよね。わかる」


 俺は無茶苦茶になったカボチャに踵落としする。すると、ひび割れていたカボチャが更に粉々のミンチと化した。


「ははっ、人の頭部と同じ……。それじゃあ、無事なのだけ収穫しようか?」

「………怒らないんですか…?」

「怒る? どうして?」

「だって私、とんでもないこと……」

「I fell in love with you.」

「え?」

「I LOVE YOU」

「ごめんなさい。私、英語が苦手で……」

「月が綺麗ですね」

「なっ⁉」


 薔薇のように赤くなる乙女の顔。


「そ、そんなこと⁉ いきなり言われても困っちゃいます‼」


 彼女は、はにかんだ笑顔を隠すことが出来ないでいた。


「困ります~! 困ります~! そんないきなり~! だって私達、会って間もないんですよ~⁉ それなのに……私のことを愛してる⁉ きゃあ~!!! そりゃあ、まあ私だって~恋愛に全く興味がないって訳じゃないですよ? そろそろ結婚だってしたいし! でもだからと言って~そんな直ぐにそういう関係になるっていうのは、いくらなんでも~ふふっ、そんなに私は軽くありませんから! えへへ~」


 その後二十分ぐらい、彼女は赤くなった頬に両手を当て首をブンブンと左右に振りながら、訳の分からぬ独り言を呟いていた。


「そう言えば、アナタのお名前は?」

「……………………あ? あぁ、チンコン・ディック」

「ディックさん!」

「チンコンで良いよ」

「チンコンさん!」

「君は?」

「ヴァギナ・オッパイナイです!」

「オッパイナイ……。君にピッタリの素敵な名前だね」

「もう~私もファーストネーム呼びで良いですよ~!」

「ヴァギナ」

「はい! チンコンさん」


 それからメスの顔をするヴァギナ。


「ヴァギナ・ディック…ヴァギナ・ディック…ヴァギナ・ディック………もし結婚したら…私はヴァギナ・ディック………」

「………………じゃあ、いい加減に収穫作業を始めようか? ヴァギナ・ディックさん」

「ええぇ~w うふっ、は~い~! もう~仕方ないですね!」


 そして三十分後。


「あのさぁ! もう少し必死にやろうよ‼ ねえ‼ ガキじゃねぇんだからさ‼」

「…………………すみません…………」

「ほんとぉ、つかえねぇーなぁ! クソがっ! 何が、オッパイナイだよ。テメェーは、おっぱいも無きゃ力もねぇのかよ! カボチャ六個運んだぐらいでバテるって貧弱過ぎるだろうがよ! たくっ、貧相なのは胸だけにしてくれよなぁ!」

「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね……(小声)」

「ああぁ~、普通だったら、とっくに終わってんだろうに……まだこんなにあんのかよ。はぁ~もう良いよ、君。どっか適当な所で休んでてくれるかな。あとは俺一人でやるから」

「うぃす…。死ね、童貞」


 ヴァギナは元気なく返事をすると、トボトボと歩き去っていく。


「………ちょっと言い過ぎちゃったかな」


 でも俺は真剣に仕事をしたいんだ! だからやる気のない奴は目障りなんだよ!

 とは言っても、まだ若くて社会人経験もなさそうな彼女に、いきなり厳しくするのは酷なものかな……。

 ああ~やっぱり言い過ぎた。反省しなきゃ。次はもっと優しく接してあげよう。


「チンコンさん……」

「おっ、どうした⁉」

「トイレットペーパーあります?」

「え?」

「クソがしたいんですけど」

「クソ⁉」

「はい」

「………じゃあ、家のトイレ使いなよ」

「嫌です」

「は?」

「人んちの便器なんか汚くて使いたくありません。だから野糞します」

「そう。じゃあ、この畑でしな」

「はい。………ここで⁉」

「うん。貴重な肥料になるからさ…(ニチャア…)」

「っ⁉」


 優しく、優しく~。優しく接するように。


「エルフちゃんのウンチって栄養満点だから良い作物が育ちそう…(ニチャア…)」

「や、やっぱり家のトイレでします!」

「いやいや遠慮しなくて良いんだよ? あっ、見られるのが恥ずかしいんだったら木の陰でしなよ。後で俺がスコップで拾っておくからさ、エルフちゃんのウンチ……」

「変態‼」

「どうわっふ⁉」


 ヴァギナから容赦ない平手打ちをくらう。


「パワハラに加えてセクハラまでするなんて! 最低‼」


 それから彼女はプンプンと怒りながら家に戻ってしまった。


「……………後で便座舐めよう」


 ということが、あったのさ。

 かれこれ一時間は走っているのに、トラックの運転席から見える景色は相変わらず砂漠のままだ。


「俺がパワハラ男……」

「そうですよ! だからアナタと結婚なんて御免です! 死んでも嫌です‼」


『グッドモーニング! 国民のみんな!』


 突然、ラジオから陽気な声が流れてくる。

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