大阪系ヘルニア人
ゴンゴン!
「?」
皆が一斉にドアの方へ注目する。
ゴンゴン! ゴンゴン!
「おいいいぃぃぃぃぃぃ⁉ とっとこ開けんかい!」
外からチンピラの怒鳴り声が聞こえたかと思うと、突如ドアを何度も蹴る音がしだした。
「ふざけんな三秒や! 三秒‼ 三秒だけ待ってやる! 良いな⁉ 三……」
と、直後! ドアが勢い良く蹴り破られる。
「アホかぁ、お前ぇ! ワイが三秒なんか律儀に待つわけないやろがいぃ!」
クソ……なんて時に来るんだ……。
タイミングが悪すぎる!
「……………なんやこれは⁉」
いきなり現れたこの男。
彼は大阪系ヘルニア人。名をナニワ・グリコと言う。
「どうぅなっょるんじゃああ⁉ こりゃあ⁉」
異常な状況を目の当たりにして、グリコ兄貴の顔が驚愕で歪んだ。
彼は俺達を素通りすると、大麻エリアの方へ一直線に向かう。
「水が全然足りんやろぉ! これぇ⁉ 枯れる寸前になってしもうてるやぁんかぁ!」
大麻の葉を手に取り、憤りの表情を見せるグリコ兄貴。
「あ、あの…」
「それに光ぃぃ! 光りも全然足りんぅ! 光合成出来んぞぉこりゃ⁉」
「あの…すみません…」
「うぉぉぉん⁉ 何や、お前ぇ⁉」
「警察です…」
「警察ぅぅ⁉」
「ええ…あなたは…?」
「おいぃぃぃぃぃ! チンコン、てめぇ馬鹿野郎! はめやがったな⁉」
「ち、違いますぅ! 兄貴!」
「お前が死体処理で困っとるぅゆぅうたから助けに来たちゃうんか⁉ ワイが⁉ あああああぅぅぅん⁉」
「死体処理…?」
啞然としていたアンディーの表情が険しく変化する。
「チンコン・D…。どういうことだ…?」
「エッ⁉ いや……ああ、あ、あの………………」
「まあ、ポリ公さん。これで一つ堪忍してくれへんか?」
そう言ってグリコ兄貴がアンディーに百万円のワイロを手渡す。
「いいだろう…」
ええええぇ⁉ いいの⁉
「いいわけないだろう! アンディー‼」
すると、今までずっと放置されていたデブが再び喚きだした。
「アンディー⁉ もっと額を吊り上げられるだろうに! たった百万で承諾してどうするんだ! 五百万はいけるぞ‼」
「死刑囚の人は黙ってくださいぃぃ~! アンディーさん! コイツうるさいんでぇ~もう~さっさと連行してくださいよ~」
「あと四百万くれたならばな…」
コイツ⁉ 調子に乗りやがった⁉
「死体処理…まあ殺人の件は百万で見逃してやる…。だが大麻の方も見逃してほしいなら、もう四百万よこせ…」
「なめとんのかぁぁぁ! ワレェェ⁉」
次の瞬間、グリコ兄貴がアンディーにストレートパンチをお見舞いする。
「なんで殺人より、大麻の方が四倍も高いんじゃぁぁぁ⁉ おかしいぃやろう⁉」
「兄貴⁉ ヤバイっすよ! サツを殴るなんて⁉」
「アホたれぇ馬鹿野郎! 人を一人殺している、お前の方がヤバイやろがいぃぃ!」
「うるさい‼」
と、その怒鳴り声により、皆の視線がエルフの方へと集まる。
「あと……五分………」
それから、ぐぅぐぅ…と、いびきの音。
「い…い、生きとったんか⁉︎ ワレェぇぇぇ⁉︎」
グリコ兄貴がエルフの元へ駆け寄り、彼女の腕を取った。
「脈拍数、一分間に四十回。生存を確認しました。おおぅ馬鹿野郎ぅ! チンコン、てめぇ! 生きとんぞぉぉ、この女!」
「ほんとととぉぉぉおおおおですか⁉ 兄貴!」
「おうよ! ほれぇ、自分で脈を確認してみぃ!」
「はい!」
そうして俺もエルフの腕を掴もうとした瞬間、
「触らないで‼」
だがしかし彼女に手を振り払われてしまう。
「……………え……」
「ビフィズス菌が…うつる……」
それから、いびきの音が続く。
…………どうやら寝言を言っているようだ。だとしたらさっきのも、寝返りみたいなもんか……。
きっとそうだ。
うん。絶対、そうだ。
「ヌハハハハハハハッ! チンコン! どうやら彼女は、お前に脈なしのようやな!」
グリコ兄貴の一言に一同が大笑いした。
「それな‼」
再び、エルフの寝言。
「全ての童貞が……死すべき運命……」
「なんやとぉワレェェ‼」
「ちょ⁉ 兄貴、急にどうしたんすか⁉」
「じゃあ、お前が救済するんか⁉︎ お前が救済するんか⁉︎ エエッ⁉ 全ての童貞をお前が救済するんか⁉︎」
「兄貴、何意味わかんないこと言ってんすか! ちょっと彼女の首を絞めるのをやめてください!」
エルフの顔が、みるみる青白くなっていく。
「兄貴! マジで死んじゃいますって!」
「馬鹿野郎! エルフは死なん!」
「そうなんすか⁉︎」
「エルフは不死身だ!」
「マジっすか⁉︎」
「ドアホw んなわけないやろwww 常識で考えてみ!」
ちぃ……しばくぞ……コイツ。
「悪かった…」
グリコ兄貴が笑いながら女を絞め殺そうとする、そんな愉快なドタバタ騒動の最中、アンディーが腫れた頬を押さえながら突然の謝罪をする。
「アンタの言う通り…殺人より大麻の方が高いのは理に叶わない…」
「今そんなことどうでもいいだろがぁ! それより警官なら目の前の殺人を止めろ!」
「チンコンあほたれぇ! 人が真面目に謝っているというのに茶々を入れるんやない!」
「で、でも兄貴ぃ⁉」
「ポリ公さん。見ての通り、この女は生きておる。つまりチンコンのドアホが犯したのは殺人じゃなくて殺人未遂や。つまり罪のレベルがワンランク落ちる。まあだからワイロの適正額は百万やなくて五十万といったところやろ。なっ? ええやろ、ほれ五十万返してくれや」
うわぁ……ケチくさ過ぎるだろう…。流石、大阪系ヘルニア人。ワイロを値切るなんて聞いたことねぇぞ。しかも一回渡したやつを返してくれなんて、恥を知らねぇのかコイツは。
「わかった…」
呟くように返事をして、アンディーは札束をグリコ兄貴に手渡した。
「ん? 百万全部じゃなくて、五十万だけでエエんやぞ?」
「受け取れない…」
「あん?」
「ぐはぁっ⁉ はぁ…はぁ…! はぁ……はぁ……」
ようやく首絞めから解放されたエルフ。
彼女は恐怖に怯えた目付きをして周囲を見渡す。
「おはよう!」
「ひぃ…⁉」
そんな彼女に俺は笑顔で挨拶!
「よく眠れた?(ニチャア…)」
「ひぃぃぃぃ!」
それにしても軽く五分くらいは首を絞められっぱなしだったというのに、彼女さほどダメージを受けていない様子だ。
もしやエルフが不死身だというのは本当なのか?
「…………どういうことや? ワイのワイロが受け取れんのか?」
「私は警官だ。警察とはイコール正義。だからワイロは受け取れない」
「アンディー! よく言ったぞ! 警察とはイコール正義。そうだ、そうだとも! いよっ、警察官の鏡!」
デブが相棒を褒めちぎる。
「いやいやいやいやいやいやいやいや! えっ、急にどうしたん? えっ⁉ あなた、さっきグリコ兄貴から普通にワイロを受け取りましたよね? デブの方も、もっと額を吊り上げろって煽りましたよね? それなのに唐突に正義がどうのこうのって……。いや、遅いですよ? あなた達がクズの汚職警官だって事実は今更覆りませんよ?」
俺はドヤ顔で説教をかます。
「そもそも~警察イコール正義っていう~定義というか洗脳というかフェイク? あはっ、めちゃくそ可笑しくて~w そもそもこの国に正義なんてものは…………」
「気に入った‼」
「ええっ⁉」
「兄ちゃん! 偉い度胸あるやんか! ヌハハハハハッっ! チンコンの馬鹿野郎とは大違いやわ!」
「あ、兄貴ぃ~!!!(嫉妬)」
「兄ちゃん、ウチの組に来いや!」
「はぁ⁉」
「いや…先ほど言った通り私は警官だから…」
「エエから黙ってついて来い言うとるやろがぁ! ゴラァァ!」
グリコ兄貴が、またもやストレートパンチをアンディーに浴びさせる。
「だから兄貴! サツを殴るのはヤバイっすよ‼」
「大丈夫や、コイツはもうポリ公やない」
「マジでウチの組に入れるつもりですか⁉ 嫌っすよ、俺は!」
「アホたれ馬鹿野郎‼ 誰が組に入れるか!」
「え?」
「コイツはワイのワイロを拒んだクソ野郎や! だったら一度わからせてやらんといかんやろうがぁ! おおおぉん⁉ ほれぇ、お前も手伝え! コイツを組に連れていって、身体をばらすぞぉ‼」
「ええぇ……」