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第二話:祭事──scene8『報告書を書く』

──────





 定例外事象経過報告書

 作成者 マルドク公国龍撃師団八層隊所属アガルタ・テラー

 


 未明日、二日月の夜に確認された『堕心主』について、現場情報を基に対応と経緯の詳細を報告します。


 未明時間、各層隊防護陣形完了後に大通り区域の鐘塔が崩壊。

 これを受け、特別上層部関係者より対象への接触任務を請け負ったアガルタ(以下、Ag)が中央広場から現場入りをする。



「──目標は逃走。鐘塔区域から住宅区への侵入を

「怪我人を運べ! 衛生班の入退路の確保を優先だ、それは後でい

「周辺の建物の二次崩壊を警戒しろ! 追跡班以外は救急マニュアルに沿って行動し



「……酷いな」



「こっちだ! 二人が瓦礫に埋まってる! 手を貸

「大丈夫、骨は折れていない。少し血が多く出てるだけで、止血すればなんとも

「目標を避難ルートに接近させるな。予定ポイントへの誘導に尽力……出来ませんじゃない、やるんだよ!」



 被害現場にて防護陣営と合流。同刻、龍撃師団六層隊尉より対龍装衣を受け取り、後次追跡班十六人小隊に組み込み編入。十七人態勢で予定ポイント、公国属龍信領界への進行を開始。



「──アガルタ君、だっけ? 我々は上から君の討伐補佐を命じられている。如何に目標が異質であろうと、その努力は惜しまない……が、ソレで討てるのか?」


「……私は、誰よりも対象を理解しています。アイツとの勝負に、無暗矢鱈に振り回す刃など出る幕ではないのです。なまくらの剣など、いくら折れても構いません」



大通り区域から商業区画へ。多層域展覧公園を通過途中、先行追跡班の負傷者を発見。目標に関する情報交換を試みるが、天層区画より堕心主の出現──これに伴い建物の部分的崩壊が発生したため断念。

 後次追跡班は四人一班計四班に分かれ包囲陣形を展開。内一班は負傷者を可能な限り戦闘領域から離れた位置へ運び出させ、残る三班のみで目標との第一次接触、及び遠方系戦闘へと作戦を移す。


 堕心主の外的特徴は、『強い光が当たっても尚黒い』。

 加え、辛うじて人としての原型は認められるものの、それを『人間』だと断定するのは難しい。それほどに歪で、堕心龍が纏う黒い瘴気が、新たな体を形作ったと推測させられる。



「──ブレイド!! 聞こえるか!?」


「二班、火器陽動掃射開始! 三班、散開しつつ適宜援護! 狙いを定めさせるなッ、常に動きながら的を射よ!」


「……ブレイドォ!!」


「──一班各員、対象が照準内にいるなら躊躇わず引き金を引け。俺達は主砲だ。外すなよ……っ1」


「ブレィ……くそ──!」



 堕心主は言葉による呼びかけに反応を見せない。

 代わりに明確な敵意に対しては、俊敏で的確な対応をする。

 参考までに、第一次接触に於ける被害状況を挙げる。


 現場となった多層域展覧公園は一から作り直した方が早いと思える程に損壊が激しく、又大規模な為、長期的な封鎖が必要。

 先行追跡班全十二人の内、八人が行方不明。三人が重傷。一人の死亡を確認。

 後次追跡班全十六人、救命活動をしていた四班を除き一から三班計十二人の内、二人が軽傷。六人が重傷を負う。戦死者については別名簿当日付欄を参照。


 上記の被害を受け、追跡班は現場解体。

 直後、Agと堕心主が一時的な対峙を果たす。



「──……お前……何を、してるんだよ……?」



「……イカナ キャ」



「ぁあ……? ブレイド、私がわかるか?」



「り じる と あ エ」



「来るならアポをとれって言ったのにさ、……お前、おまえの班員はどうした?」



「… …  んs──」

 


 堕心主の身体にブレイド・ウラア本人と見られる人物の頭部が埋まっているのを確認。会話は成立せず。意味不明で断片的な言葉を発した後に形状が変化。龍に酷似した姿となり、隣接区域へ飛翔。


 ここまででの堕心主の攻撃手段は、一区画を薙ぎ払える程に巨大な瘴気を纏う大剣による超長距離干渉と、龍頭を模して襲い掛かる近接反応の二つ。

 火器を用いた際の対象へのダメージは不明。しかしながら、一定の被弾反応は垣間見える為、無傷ではないと推察出来る。


 堕心主の離脱後、Agの強い希望により追跡班を再編成。Agを含めた三人態勢で追跡を強行する。



「──テラー八層尉! 何か……あの目標を打破出来得る作戦があると言うのですか!?」


「……──我々龍撃師団の戦力は、ほぼ対龍戦に指針を向けているので、あのタイプをどうにかするのは至難だと思います。……打破となれば、貴族の出番を待つしかないでしょう」


「それなら、当初の予定通り予定ポイントへの誘導を他部隊に任せましょうよ!」


「それだと!! ……それだと、ブレイドが……貴族に始末されてお終いになる。……私は、まだアイツと話せていない。堕心なんかした理由も、上が私に堕心主との接触を許可した理由も、何も分からず……生かせずに終わる!」


「ぁ……テラー八層ぃ」


「更に言うなら、私は報告書を書く義務を全うする為に情報を手に入れなければなりません。──どうか、ご理解を! そして、人が堕心するなどと言う世の中と向き合う為に何卒、ご協力をお願いします……!」



 堕心主は龍信教会から二ブロック離れた位置に着地。予定ポイント外許容範囲内の龍信領界住宅地が第二次接触、又は最終接触の敢行場所となる。


 Ag追跡班の現場入り前に、予定ポイント外周にて陣形を敷いていた二層隊から成る扇動組織が、目標に新たな挙動が見られない事を機に作戦変更と共に囲繞地を形成。討伐者の到着を待つ。


 この間にAg追跡班が目標を発見。二層隊の臨時護衛班を率い、対話を試みる。




 ────




 見るだけ。


 兄様が言ったことは、やっぱり嘘だった。


 だから今、病室のベッドに沈む彼の証言を聞きながら、あたし……ティヴ・テラーが報告書の代筆を行っている。



 開きっぱなしの窓から緩やかな風が入る。登り切った陽が、兄様の腕に暖かそうな光を落としていた。

 街の遥か遠くから復旧工事の音が響く。それはとても小さな音で、何も起こらなかったいつもの日々の中で聴くモノと変わらないように思えてしまう。


 ……でも。あの夜は確かに在って。



「それで? どんな話をしたの? ……兄様?」


 声が止まり、どうしたのかと見れば……兄様は疲れて眠ってしまったようだ。

 とても綺麗な寝顔。まるで逝ったような静かな安らぎに、あたしはどんな顔を向けているのだろう。



 とりあえず、あたしたちは泣き疲れた。

 報告書に書いた出来事があった夜から二日後の今日。もう……静かになった今日。


 あたしは用紙とペンを机に置き、兄様の眠るベッドの端に重い頭を沈めた。



 眠ろう。



 アガルタ、続きは……また後で書こうね。




──────

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