【第54話】恩賞
その後、鎖国派の与一将軍を支持するものや一族の者達が家の状況を見に帰っていった。
なかでも鈴多の父親は、重症だった。右手を無くし、更に右足にも大きな傷をおっていた。
すぐにフリードが治癒の魔法、そして、傷薬を塗った。
それでもおそらく歩くのは厳しいと思う。
鈴多と母親は、父親を抱えて家に戻った。これからあの家族はどうなるのかクルミは心配になった。
与一族も今は財政的にも厳しいと思う。シャイブ大臣からは、賠償金の支払いをするとの手紙もきているが、すぐに鈴多の家族が救われるのから分からない。
「ねぇローマン。鈴多をイサカリ商会で面倒みることはできないかな?」
「それはクルミ様。素晴らしい考えです。 しかし、もう少し様子を見ましょう。」
クルミは、ローマンが鈴多の家が苦しくなることに気づいてないんではないかと少しイラッとした。
今は、交渉に出掛けているフリードが帰ってきたらまたお願いしようと考えていた。
しかし、フリードもイサカリ商会の宣伝。販路の確保に忙しく、クルミ達も壊された住居の修理などの手伝いをしていた。
そして、翌日を向かえていたのだった。
屋敷には、大勢の人が集まっていた。新党首としての初めての集会だった。
正面にアリスが座っていて、その両隣を与太郎と与一将軍が立つ形になっていた。
与一将軍が、まず話しかける。
「みな苦労をかけてすまなかった。そして、これからは与太郎を党首としてやっていく。今回のことを忘れぬように!」
「はっ!」一同に返事をした。
「これから党首となる。与太郎だ。まずは、今回のことを説明させて欲しい。」
これまでの経緯を説明していく、喜介が、途中分かりやすく解説をして全員に今回のことを話した。
クルミが久遠に勝った話にもなり、驚きの視線がクルミには痛かった。
あらかた話を終えたところで、
「今回、話したとおりにクルミ達には大いに世話になった。恩賞としてイサカリ商会を一族の専門の商店にしようと思う。鎖国派とは言うが、トルゴラムとの貿易を反対していただけで、ラルセット公国、竜神王国とは貿易をしようと考えている。」
これは、反対意見もなく受け入れられたようだ。イサカリ商会の薬をフリードが無償提供して営業活動をした結果でもある。さすが抜かりがない。これには感謝するしかない。
これで鈴多の件も必ず何とかしてくれるはずだと思った。
与太郎の話はさらに続く。
「そして、今回他にも活躍した者がいる。鈴多!」
名前を呼ばれて、鈴多が立ち上がった。そして、そちらを全員が見る。
「鈴多をおれ直轄の兵士にする。よろしくな!」
まわりからまたしても驚きの声が上がる。
「お待ちください!」
鈴多の母親が、遮った。父親は来れなかったみたいだった。
「我が家を心配してくださる、気持ちは感謝いたします。しかし、わたくし達だけそのような特別扱いをしていただく理由がございません。」
母親は、意識も高く芯の通った人だったようだ。さすがは鈴多の母である。クルミは感心した。
「理由ならあるぜ。鈴多が久遠の存在を知らせてくれていなければ、おれは突撃してこの場にいなかっただろう。」
与太郎が答えた。さらに、与一将軍も続けた。
「それを言うなら、私も罠にはめられ、久遠に敗れて手傷をおい危ないところを鈴多に助けられた。親子で命を救われて、これに似合う恩賞だと思うがいかがか?」
鈴多の母は、少し考え込み。
「ありがとうございます。どうぞ鈴多をよろしくお願いいたします!」と涙ながらに語った。
会場からは拍手喝采だった。
鈴多も誇らしそうにしていた。
クルミはというと。
「ローマン、まさかこうなることを分かってたの?」
「何となくですけどね。今回の騒動で貢献度を考えるとクルミ様が一番ですが、その次は鈴多かと。これで何もしないような人だとそこまでの地位にいるはずがないですからね。一応ギルドの審査員もやってますからね ハッハッ」
「でも子供だよ。」
「子供でも公正に審査するのがギルドの審査員です。クルミ様も見た目はまだ子供ですからね。子供への偏見はありません。」
クルミは、ローマンにも感心してしまった。
「ごめんね、ローマン。ありがとう!」
満面の笑みで答えた。
「いえいえこれぐらい。」
ものすごく照れていた。
その横ではフリードがローマンを睨み付けていたのは、いつもと逆にな気がする。