小さなお侍さん
第一章 小さなお侍さん
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「沙穂、いいかい。この屋敷に来たら、小さなお侍さんが守ってくれるから」
おばあちゃんは、幼いあたしにそう言って、微笑んだ。
あれは、もう、二十年前。
当時は、おばあちゃんも、元気だった。
そのおばあちゃんが、亡くなった。
あたし、秋月沙穂は、おばあちゃんが住んでいた、古い武家屋敷に移り住むことになった。
おばあちゃんは、秋月家の十七代目の当主だった。
あたしのお父さんは、婿養子だったので、あたしが秋月家の十八代目の当主となることになったのだ。
世が世なら、お姫様だと言われた。
しかし、世は今や、令和の時代。
お姫様も、働かねばならない。
あたしは、小学校の教師をして、生活をしていた。
でも、住んでいたマンションが、解体されることになり、住むところがなくなったのだ。
丁度、その時、病気だったおばあちゃんが、亡くなった。
おばあちゃんは、一匹の猫と暮らしていた。
名前を「はやて」と、言った。
あたしは、おばあちゃんの住んでいた古い武家屋敷に住むことになったが、はやても、一緒に引き取ることとなった。
そう言えば、おばあちゃんが、昔、ヘンなことを言ってたなあ……。
「小さなお侍さん」
何だろう……。
あたしは、気になったけれど、その武家屋敷に引っ越した。
あたしのいたマンションには、あたしの大敵がいた。
そう、みんなが怖い、「ゴ」が付くどこの家にも出る奴。
黒くて、すばしっこくて、ゴキジェットでも、なかなか死なない奴。
あたしは、あいつが死ぬほど、怖かった。
ああ、この古い武家屋敷なら、出ないかも……。
あたしは、淡い期待を抱いた。
引っ越しも終わり、一息ついて、お風呂に入ろうと思った。
この屋敷は、一部が改築されていた。
武家屋敷だけど、五右衛門風呂じゃあない。
現代的なシャワーもある。
あたしは、洗面所で服を脱いで、浴室に入った。
「ぎゃーーー!!!」
あいつが、出た!
それも二匹!
あたしは、あいつを退治出来ない。
いつも、逃げ回るだけだ。
そして、そこへ「彼」が現れた。
はやて、だ。
しかし、走るはやての上に、何かが乗っている。
んんっ?
あたしは、よく見た。
それは、長い髪を後ろで結んだ、小さなお侍さんだった!
そのお侍さんは、また、小さな弓を持っていた。
そして、その弓を引いて、逃げ回るゴキブリに向かって、矢を放った。
一匹のゴキブリに命中した。
そして、もう一匹にも、矢を放つ。
見事に当たった。
ゴキブリは、二匹とも、死んだ。
あたしは、その様子を裸のままで、茫然として、見ていた。
その小さなお侍さんが、はやてから、降りた。
そして、正座をして、深く頭を下げた。