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目撃

俺とサーシュは馬車でモルビコ王国へと向かった。


他にも何人か冒険者が乗り合わせていた。


サーシュはあまり馬車が得意ではないらしく青い顔をして窓から景色を眺めていた。


俺も得意な方ではないものの、そこまで顔色が悪くなるほどではない。


乗り合わせた冒険者達と雑談をしていたらモルビコ王国へと到着した。彼らは既に宿を取っているそうなのでそちらに向かうらしい。


モルビコ王国の入り口で彼らと別れた。


「ここがモルビコ王国か」


なるほど。サンバーグは貿易国だからか、とにかく華やかな雰囲気だった。


しかしここ、モルビコ王国は軍事国ゆえかどことなく厳かな雰囲気が漂っている。


警備に当たっている王国軍の数もサンバーグとは段違いに多い。


「サーシュはモルビコ王国に来たことがあるんだっけ?」


「ええ。昔ね。あまりあの頃と変わっていないみたいね」


「それならギルドの場所とかもわかるかな?」


「ええ。なんとなく覚えているから付いてきて。さすがに宿の候補はついていないからそっちはギルドで聞きましょう」


「わかった」


俺たちはギルドへと向かった。

ギルドの雰囲気もサンバーグの活気があったそれとは異なるものだった。

物々しい。

それに冒険者の体に刻まれた傷からも冷戦の猛者って感じが伝わる。


馬車で3日かかったここモルビコ王国は魔物が発生するダンジョンが付近にいくつか存在する。


ダンジョン探索は冒険者の華、と言われるのはダンジョン内には高位の魔物が発生することがあり、そのドロップ品が高額で取引されているためだ。


ダンジョン探索、きっとサーシュはやりたがるんだろうな。

俺も全く興味がないわけではない。ダンジョンと聞けば男子諸君は少なからず胸が高鳴るものだろう。俺とて例外ではない。

危険度の低いダンジョンであれば挑戦してみるのもありだろう。


サンバーグのギルドのおっさんが言っていた、気楽に生きてみろ、というのも俺の胸には刺さる言葉だった。

せっかく異世界というワクワク世界に生まれ変わることが出来たのだ。安全は蔑ろにすべきではないとはいえ、胸の高鳴りに任せて生きてみる、というのも決して悪いことではないように思う。


宿のことを聞いてくるわ、と言ってサーシュはギルドの受付窓口へと歩いていったので俺はクエストボードを眺めることにした。


やはり討伐系が多い。

ダンジョン探索はクエストとして請け負うわけではないためクエストボードに記載はない。


しかしその隣に設置してある掲示板に付近のダンジョンに関する情報が掲載されていた。


なるほど。高難度のダンジョンから低難度のダンジョンまで幅広くあるらしい。


基本的にダンジョン内で生まれた魔物はダンジョンから出てくることはない。


そのため、ダンジョンが複数近くにあるからと言ってイコール危険というわけではない、のだが、ダンジョンが発する魔力に魔物が引き寄せられてしまう。


引き寄せられる魔物はゴブリンなどの低位の魔物が多いが、中には中位以上の魔物が引き寄せられることもある。

それらの魔物を討伐するためのクエストをギルドが発注している、といった仕組みのようだ。


「いい宿を紹介してもらったわ」


程なくして戻ってきたサーシュと受付で教えてもらった宿へと向かう。


クエストを請け負うのは明日以降にした。


馬車に乗り疲れたサーシュはとにかく早くベッドで横になりたい、と言った。


彼女は宿についてすぐにシャワーを浴びベッドに横になるとその勢いまま眠りについてしまった。


俺はそこまでの疲労は溜まっていない。


まだ時刻は18時過ぎ。


サーシュは晩飯も食わずに眠ってしまったが俺は腹が空いてきた頃合いだ。


俺は晩飯を食べるため、鍵をかけて宿を出た。


ぶらぶらと歩いていると、人だかりが目についた。


鎧を身にまとった男たちが数人。

傷だらけの大男が鎖で両手を縛られて鎧の男たちに連れて行かれているところだった。鎧を身に着けているのはモルビコ王国の騎士団だ。


「あれが噂の盗賊団の頭だってよ」


遠巻きに眺めていた人々からの声が漏れ聞こえてくる。


「へぇ。宝を盗むためなら人を殺すっていう凶悪な」


「ああ。でも今連れて行かれている男、さっき取り押さえられている時に『人違いだ!俺はやってない!』って言ってたよ」


「悪いやつってのは捕まったときにはたいていそういうことを口にするもんだよ」


ふむ。


盗賊団の頭か。


確かに連れて行かれている男の身のこなしは只者ではない、ような気がする。


すきがない。


しかし顔はそう極悪人といったものではないが。

人は見かけによらないとも言うしな。


だがもしも彼が本当に何も悪いことをやっていない、善良な人間で人違いにより連れて行かれているとしたら、どうだろう。

先程の噂話では人を殺してまで宝を奪う、という話をしていた。

罪は重いだろう。となれば死刑となることも想定される。


冤罪で死刑、か。


連れて行かれる男を眺めていると彼と目が合った。


男は助けを求めるように手を俺へと差し出した。


それを見た騎士の一人が男の腰を蹴りつけた。


男は頭を垂れ連行されていった。


あれは、俺に助けを求めていたのだろうか。そうだろう。彼の目は、手は、助けを求めていた。


「すみません。聞きたいことがあるんですけど」


俺は噂話をしていた女性に話しかける。冒険者ではなさそうなので、丁寧語で話しかける。


「ん?なんですか?」


首を傾げながら女性は俺の方を向く。


「さっきの、あの男はどこに連れて行かれるんでしょうか」


「ああ、王城の地下に連れて行かれるんですよ。地下に牢獄があるんです。罪が重ければ一生牢獄の中、場合によっては斬首刑になるんですよ。さっきの男は人を殺している、っていう話だからたぶん斬首刑になるんでしょうね」


俺は礼を言ってその場をあとにした。


斬首刑、か。


この世界の斬首刑はギロチンで執行するのだろうか。

人の首は切断するのが困難だ。

剣で切り落とそうとして、半端なところで刃が止まってしまい、罪人が苦しむのを防ぐため、前世の世界ではギロチンを使っていたそうだ。


この世界には魔法がある。もしかしたら魔法で首を切り落とすのかもしれない。

あまり想像したくない光景だ。知らない人間とはいえ、楽しい光景ではない。


それに、あの男は助けを求めていた。


俺はあの男のことを何も知らない。知らないけれど、知らない人であろうと、無罪なのに罪に問われ死刑になる、というのは放ってはおけない助けを求める人には手を差し伸べること。


母さんが旅立つ俺に言った言葉だ。


放ってはおけない。

なぜだか俺はあの男を見てそう思った。


それから俺は近くに売っていた串焼きやらを買って宿に戻った。


サーシュはまだ眠っていた。


俺は買ってきた料理を口にしながら考えた。


まずは先程連れて行かれた男が本当に盗賊の頭なのかを確認する必要がある。


自分が何をすべきか、何できるか考えているとサーシュが目を覚ました。


目覚めたサーシュに買ってきた料理を手渡しながら俺は先程見たこと、自分が感じたことを伝えた。


「盗賊団、か。有名なものでいえば赤きケルベロス、とかかな」


「その赤きケルベロスの頭は強いのか?」


「聞いた話ではSランクの冒険者でも倒しきれなかったって話だよ。だからもし、ユーリが見かけた男が赤きケルベロスの頭目だったとして、騎士団に遅れを取るとはちょっと思えないね。まぁ、別の盗賊の頭目って可能性ももちろんあるんだけどね。」


Sランク冒険者は国家戦力級とも言われ一人で戦争の勝敗を左右するほどの力を有すると言われている。この世界でSランク冒険者と呼ばれる存在は6人しかいない。


当然俺はまだ会ったことはないし、これから先も会えるかどうかわからない。


そんなSランク冒険者をして赤きケルベロスの頭は倒しきれないというのだから、相当な手練というか異次元の強さを持つと考えて間違いないだろう。


「それで、ユーリは連れて行かれた男を助けたいのよね?」


「ああ。もしも彼が無実の罪で捕まったのであれば、俺は助けたい」


人助け。


前世の俺は自分が生きるのに精一杯で人助けをする余裕なんて全く無かった。結果、自分の体すら守れずに過労死で死んでしまった。


今の俺は、自分の身を護る術はある。そして、サーシュを助けられたように、誰かを助けられるだけの余裕もある、と思っている。


「助ける、って言っても牢獄に連れて行かれているわけでしょ。もしも死刑に処されるのならその前に助け出さないといけないわ」


「モルビコ王国の騎士団って強いのかな?」


「え、戦うつもり?騎士一人ひとりの練度はサンバーグとは比にならないと思ったほうがいいわ。っていうか、今までのユーリならもっと慎重に行動するはずよね」


「死刑執行までどれほどの時間的余裕があるかわからないからな」


「そうね。まぁ、連れて行かれた次の日に執行、ってことはないと思うわ。取り調べて聞き出すこともあるでしょうから。でもそれほど時間はないと見たほうがいいわね」


「正面から行くのが危険だってことはわかった。で、あれば裏をかくしかないか」


「裏をかくって、具体的に何か策でもあるの?」


「侵入して牢獄に行き、話を聞き、そして可能であれば脱獄させる」


「侵入するのも一苦労なのよ。モルビコ王国の入り口の警備の厳重さは見たでしょ?王城はあんなのとは比にならないくらいの厳重さよ。それに、仮に忍び込めたとして、そして牢獄にたどり着けたとして、どうやって彼が盗賊の頭目ではないって確かめるの?」


サーシュは真っ当な質問をしてくる。


確かに、俺には嘘かどうかを見抜く目はない。


「まずは、今日連行されて行った男が赤きケルベロスの頭目として連れて行かれたのかどうかを確認する。そして、赤きケルベロスの頭目として連れて行かれたのだとしたら、その頭目の特徴を調べ、直に会ったときにその特徴と一致するかどうかを確認する」


「別の盗賊の頭目だったとしたら?その場合は赤きケルベロスの頭目の特徴とは一致しない。けど、別の盗賊の頭目の可能性は否定しきれないでしょ」


「それは明日の聞き込みの結果で考えよう」


「まぁ、そうね。あらゆる可能性を考えるのも大事だけれど、考えすぎて身動きに支障が出るのも考えものよね。なら、今日は早めに休んで明日は早い段階から行動しましょ」


「悪いな、なんだか巻き込んでしまって」


「今更よ。それにパーティーは一蓮托生よ。貴方が行くなら私も行く、それだけよ」


そうして俺たちはそれぞれのベッドに横になった。

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