サンバーグでの日々
村を出て四日目の昼間。
俺は都市サンバーグに到着した。
まず思ったことは人の多さ。
ニン村の何倍とか、そういうレベルじゃない。
例えるなら、うーん、新宿的な感じかな。
とにかく人が多い。酔いそう。
えーっと、まずは冒険者ギルドを目指そう。
そして冒険者登録をして、その後はしばらく滞在する宿を決める。
行動方針としてはこんなものだろう。
俺は通りゆく人々に冒険者ギルドの場所を教えてもらいつつなんとか目的の場所、冒険者ギルドへたどり着いた。
でかい。
ニン村には当然ギルドなんてものはなかったから俺がギルドを目にするのはこれが初めてだ。
大きさとしてはビル5階建てくらいだろうか。
ドキドキしながら扉を開けると中からは喧騒が聞こえてきた。
賑やかだ。宴会でもやってるのか?ってくらい。
テーブルとイスがところどころに配置されており、酒を飲んでいる男や紙が貼られたボードを真剣に見つめている集団がいる。
俺は受付へ行きここに来た趣旨を告げる。
対応してくれたのはメガネを掛けたきれいなお姉さんだった。
年齢は25歳くらいか。
冒険者登録は名前や出身地など簡単な情報だけで行うことができた。
冒険者はFランクからSランクまで存在し、登録した者は全員Fランクからのスタートとなる。
中央や北部地方を中心に高ランクの冒険者は活動をしているらしい。
高位のモンスターは危険な土地にいる。そういった高難易度の討伐系クエストが発注されるのは自ずと危険な土地のギルドになるからだろう。
さて、無事に冒険者になれた俺は本日の用は済んだのでギルドを後にしようとしたところ、酔っ払った男とぶつかった。
俺はきちんと前を見ていたが、横から突然男がぶつかってきた形だ。
「おい坊主、ちゃんと前を見ろってんだ」
怒鳴るように言ってきた男は俺よりもずっと背が高い。俺は現在160cm程度。15歳だからもう少し伸びるとは思うけれど、少し心配だ。せめて前世の俺の身長である170cmくらいには伸びてほしい。
「すみません」
下手に問題を起こしたくはないので俺はすぐに詫びの言葉を述べた。
悪いと思っていなくても謝罪する、これ、社会人の世渡り術の一つだからね。
本心とは違うことをポーカーフェイスで言えるようになることが大人の階段を登るってことだから覚えておこう。
「っは、なんだすぐに謝るなんて情けねぇな。ちんこついてんのか?えー?」
なんか面倒くさい絡み方をしてきた。
鬱陶しいな。まだ昼間とはいえ、宿を決めていないのでこんなところで時間を無駄にしたくはない。
「次からは気をつけますので。すみません」
更に謝罪の言葉を口にしたが相手はそれが気に食わなかったらしい。
「お前みたいな軟弱な野郎が冒険者なんてやっていけるかよ。やめときな。どうせその辺ですぐ野垂れ死にするんだからよ」
言葉や態度は横柄なものの、この男俺の心配をしてくれているのだろうか。
悪い人ではないのかもしれない。
「お金が必要なもので。それに僕には戦う以外に身に着けた技術がないんです」
残業耐性なら身につけているがな。
「っは、そうかよ。せいぜい難易度の低い採取系のクエストを受けるんだな」
そう言って男は立ち去っていった。
採取系クエストを進めて来るあたり、やっぱりいい人だったのかもしれない。俺の身を案じてくれていた。
昔読んでいたラノベではああいうタイプの冒険者は暴力行為を行ってくるのが定石だったと思うがそんなこともなかったし。
まぁ、かなり酔っ払ってはいたが酔っていないときな気のいい冒険者なのかもしれない。
しかしギルドを出たところでいきなり宿を自力で見つけるのは難しいような気がする。
こういうときは人に聞くのが一番だ。
俺は受付に戻り、眼鏡のお姉さんにおすすめの宿がないか聞いてみた。
すると駆け出し冒険者向けの安宿を教えてもらえたのでその日から数日その宿で過ごすことにした。
ギルドでの受注クエストは当初予定していた通り採取系をメインに請け負った。
時々迷子のペット探しなんかを請け負ったりもした。
討伐系は危険がいっぱいだし、俺は冒険者として名を馳せたいわけでもないのでコツコツ地道にお金を稼ぐのが一番だ。
そこそこのお金がたまったので受付のお姉さんから紹介してもらった安宿からほんの少しだけだがグレードの高い宿に移ることもできた。
ギルドでクエストを受注しては達成して、という生活を一月ほど過ごしたある日。
俺は運命の出会いをすることになった。
出会いはいつも突然だ。
その出会いが俺の人生に大きな影響を及ぼすことになることを俺はまだ知らなかった。