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旅立ちの日に

更に時は流れて5年。

この世界では15歳で成人を迎える。


俺、成人しました。


俺が生まれた村は子供の数がものすごく少ない、限界集落みたいな感じだったから学校という概念がないようで、各家庭ごとに勉強を教えている。


勉強と言っても、まぁ、ホント、小学校レベルのことだ。


学のある人間は都会に出ていく。そして研究者になったり、都会の街っ子たちに勉学を教えて給金を得て生活していく。

つまり村に残っている者はそれほど学があるわけではない、ということになる。


まぁ、俺は前世の記憶があるので学はあるんだがな。ははは。学生時代友達がほとんどいなかった俺にとっては勉強が親友的な感じだったんだ。悲しい?全然悲しくないぜ。

大学はともかくとして高校時代の友人なんてな、高校卒業したら成人式と同窓会くらいでしか会わないような希薄な関係性なのだよ。


むしろいい年して友達とばかりつるんでる奴は家庭を持たない寂しい奴らなのだよ。


ん?俺?独り身社畜だったよ。仕事が恋人みたいなもんだったからさぁ。悲しいよな、虚しいよな、俺が一番良く分かっている。


さて、そんな俺だがささやかな成人祝を両親からしてもらった。


これからどうするのか、という話に及んだ時、俺は以前から考えていたことを口にした。


「冒険者になって世界を見て回りたいんだ」


社畜だった俺は、会社と家の報復ばかり、というかほぼ会社にいることが多く給料をもらいお金は貯まっていくのに仕事が忙しくて旅行に行けなかった。


パリピってよく旅行行くじゃんか。

「何やってんだこいつら」と見下しつつも憧れている俺がいたのは否定できない。羨ましかった。好きな場所に行ける彼らが。しかし自分がそうなれない事はよくわかっていたので蔑むことしかできなかったのだ。


「冒険者か」

父さんが少し悩んだような声を出す。


だめだろうか。


俺、あんまりわがままは言ってこなかったんだが、村から出るのはだめだろうか。


「心配ね」


母さんは心配そうな顔をして父さんを見つめる。


母さん心配性だからな。


「うむ。だが、そうだな。ユーリ、やりたいことがあるのなら、親としてそれを応援したいと思う」


父さんは悩んだ末に結論を出した。


「いいの?」


もう少し説得に時間がかかると思っていた俺は戸惑いつつ聞き返す。


「村の若い世代は成人を迎えれば一度は外に出ていくんだ。父さんと母さんはそうはしなかったが、決して珍しいことではないからね」


父さんの言うとおり村の若い世代、といってもかなり少数なのだが、は成人を迎えると都会へと出ていく。こういうところは現代日本に似ているのかもしれない。村に残ったところでやれることはかなり限られている。


それならば自分の可能性を試すために外の世界に出ていこう、と思うのだろう。この村はとても平和だが、しかしあまりにも狭い世界だ。


「それに、ユーリには魔眼がある。」


魔眼。


社畜眼。


この魔眼はかなり強い。生身の相手であれば。


「それにユーリには剣も教えてきた。戦う術は身につけているだろう。だがな、冒険者はとても危険だ。それは分かるね?」


穏やかな父さんが真剣な顔をして問いかけてくる。


冒険者はいつ命を落としてもおかしくない危険な職業だ。


「うん。分かってるよ」


「ユーリ。成功しなくていい。ただ元気で生きてくれるだけでいいんだ」


「そうよ、父さんも母さんもあなたが生きていてくれるだけでいいんだからね。無理だけはしないでね」


母さんは泣きそうな顔だ。


「うん。わかってるよ。できるだけ安全な仕事を請け負うつもりだから。有名になりたいわけじゃないんだ。俺はー」


俺は生きる目的を見つけたいんだ。


その言葉は胸の中に留める。


社畜として過ごした俺は仕事のために生きてきた。


けどその生き方が正しかったのか。

俺は仕事のために生きた結果過労死で死んでしまった。

死ぬために俺は働いていたわけではない。生きるために働いていたはずなのだ。だから、結果から考えれば俺の前世での生き方は間違っていたのだろう。


だから今度は生きるための目的を見つける。


それが俺のこの世界での目標だ。それがどんなものかはまだわからない。わからないからこそ探したいんだ。


その夜は久しぶりに家族三人で眠った。


母さんは俺の子供の頃の話をたくさんしてくれた。


ユーリは覚えていないだろうけどね、と言いつつ。


しかし俺は覚えていた。赤ん坊の頃から自我があったんだから。


二人が俺を大切に育ててくれたことはよく分かる。


前世の両親も俺のことを大切に育ててくれた。


俺は仕事には恵まれなかったかもしれないが、前世でも現世でも両親にはとても恵まれていた。


たまには顔を見せに戻ってこよう。


そう胸に誓いながら俺は眠りについた。






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