時は過ぎ
俺が赤ん坊として異世界で生まれ変わって10年の月日が流れた。
今では俺は好きなように歩いて回れるし、好きな言葉を発することができる。
至って健康体。
やっぱり健康が一番だよな。
前世の俺は過労死したのだろう。
最期を誰にも看取ってもらえなかった寂しさはある。
けれどこの世界の父親と母親は俺のことを本当にかわいがってくれる。
二人にとっては本当の息子なんだから当たり前のことなんだけどさ。
父親の名前はバーラ。
母親の名前はベル。
そして俺の名前はユーリ。
この世界は日本で言うところの中世ヨーロッパ時代的な感じだ。
科学が発達していない代わりに魔法が発達している。
魔法。
これはすごい。
呪文を唱えれば火が出たり水が出たり。
中には呪文を唱えずに魔法を発動させる事ができる人もいる、らしい。
俺はまだお目にかかったことがない。
魔法は才能に依るところが大きく、例えば長年魔法の修練を積んだベテランの魔法使いが5歳の子供に負けることだってある。
ちなみに俺は魔法の才能には恵まれなかった。
悲しい。
やはり元が日本人だからだろうか。
炎の龍を相手に向かって飛ばしたりとか、ちょっと憧れてたんだけどね。まぁ、出来ないものは仕方がない。
それに魔法が全く使えないわけではないし。ただ才能がなかった、というだけの話だ。ちなみに父さんも母さんも魔法の才能には恵まれていなかった。
二人は現在30歳前半だが、若い頃凄腕の冒険者だった、とかそんな設定はなく、ごく普通の生活を送ってきた一般ピープルだ。
ただ一つ。
俺には特殊なものが与えられた。
「魔眼」
響き超かっこいいよな。
発現したのは5歳の頃。
父さんと剣の訓練をしていた時だ。
父さんの目の動きから次の動きを予想しようと必死に父さんの目を見ていた。
その時、父さんが
「うっ」と呻いたかと思えば足がふらつき始め、次の瞬間には前のめりに地面に倒れ伏していた。
何が起きたのか全くわからなかった俺は棒立ち。
そして慌てて父さんに駆け寄った。
父さんは意識を失っていた。
俺は急いで母さんを呼びに行き、二人で父さんを医者の元へと連れて行った。
医者は言った。
「過労です」と。
疲れが溜まりまくっていて栄養失調も起こしているし、熱もある。
どれだけ無理をされたのですか、と。
父は昼間は農業を営んでいるが、儲けようとやっているわけではなく自給自足の範囲内でやっているだけなので過労と呼べるほどは働いていなかった。合間合間に稽古と称した俺の遊び相手を務めてくれる程度には時間的に余裕があった。全く社畜時代の俺からしたら羨ましい話である。
母さんは栄養に気を配って料理を振る舞ってくれるし、栄養失調になるはずない。コンビニの牛丼ばかり食っていた前世の俺とは違う。
治療を施された父さんはしばらくして目を覚ました。
そして言った。
ユーリ、お前、魔眼を発動したぞ、と。
俺の魔眼。
それは魔眼発動時に見つめられた相手の体調を著しく悪化させる能力のようだ。
医者から聞いた父さんの状態は過労死する直前の俺みたいな感じだったことから、俺はとりあえずこの魔眼を
「社畜眼」と名付けることにしたよ。
町の魔法に詳しい人に聞いてみたけど、俺の魔眼の能力は聞いたことがないそうで、非常に珍しい魔法、「特殊系統魔法」だろう、とのことだった。
ちなみに魔眼は眼を媒体として魔法を発動させるものだ。
ポピュラーなものとしては
・相手の魔力総量が見える。
・相手の次の動きが見える。
・相手の考えていることが分かる。
といったもの。
ただし、魔眼自体が非常に珍しく、どんな能力であれ魔眼保有者は重宝されるそうだ。
ふむ。
俺は別に偉くなりたいわけではないし、下手に目立って軍事利用なんてされるようになっては社畜時代に逆戻りになりかねないので目立たないためにもこの魔眼はあまり使わないようにしようと思う。