萌芽4―2
洋子が入った部屋は少し小さめな会議室といった感じだった。新設された施設らしく、隅々まで埃なく清掃されているが、そこに死という絶対的なものの入る余地があるのだろうかと、洋子は震える足を踏ん張らせて考えた。
そして、机を隔てた目の前に座っている男に目を止めた。死刑囚137号。姓名を平田勇吉。57歳。18年前に連続殺人で7人を強姦の上に殺害。10年前に死刑判決を受け確定。以後未だ死刑執行は停止されたまま。
洋子は予備知識として渡された資料を最後まで熟読出来なかった。凄惨な現場の写真も封入されていたからだ。しかし、その資料にある犯人像とはかけ離れた老人が、パイプ椅子にちんまり座っていた。こんなところで座っていなければ、公園で穏やかな笑みを浮かべ、日向ぼっこでもしていそうな、そんな老人だった。一瞬洋子は部屋を間違えたのかと思った。その時、穏やかな声で平田は洋子に話しかけた。
「どうも、ようこそいらっしゃいました。こんな場所で、こんな挨拶は無理がありますよね」
と言って静かに笑った。
「どうぞおかけ下さい」
洋子は慌て椅子を引いた。不気味な音が部屋に小さく響く。洋子が面と向かって、平田を見ると、洋子が感じていた違和感の原因が分かった。平田は拘束服で椅子に縛り付けられていた。
「あまり時間がないので単刀直入に聞かせて頂きたいんですが、どうして私なんでしょうか?」
平田は洋子を見つめると更に消え入りそうな声で言った。
「あなたに重要な情報をお渡しするのは贖罪の気持ちからなんです」
洋子は意味が分からず平田の次の言葉を待ち受けた。
「実は私、あなたの両親を殺しているんです」