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集結3−2

「無残だ」

 急報に駆けつけてきたニュースキャスターの私邸は、肉屋の作業場のような惨状だった。

 棚橋はついこの間見た無惨な死体のことを思い出した。犯人の身代わりに犯行声明に指紋を残し、三浦と棚橋が辿り着いた時には内蔵が分離していたあの死体だ。少なくとも、あの死体の足元にあったバケツの中には死骸を人間と判別出来るだけのものが残っていたのだが・・・

「狼か熊か、巨大生物の仕業か」

 へらへらと薄ら笑いを浮かべた、三浦の後ろに渋い顔をした男性と女性が控えていた。

「さあ、次木先生お願いします」

 棚橋は次木が明らかに迷惑そうに、そして、当惑した表情で言う表情を一瞥した。

「この状況で何か出来るとでも思うのか?」

 彼の隣にいた横田藍も、反抗的な視線を惨状と三浦に向けていた。棚橋は藍が胃の中の物をぶちまけないかと、心配だったが、彼女は意外と気丈に振る舞っていた。か弱そうに見えて、度胸が座っている。棚橋は感心した。和美はまだ、洗面所で戻していることだろう。見た目は気が強そうでも、血や死体にはそして、無数に散らばった肉片は次木を待って、そのままの状態で放置されていた。血の臭いが鋭く鼻を突く。

「こんなバラバラになったものを再生できる訳ないでしょう」

 藍は三浦を睨みつけたまま、一歩近付いた。三浦は慌てて飛び退くと、さらにへらへら笑いながら言った。

「おっと、怪力のお嬢さん。暴力は無しで行きましょうや」

 棚橋は横田藍とは初対面だったが、彼女に怪力があるとは到底信じられなかった。それぐらいに、彼女は華奢で小柄だ。それこそ、人は見かけに寄らないということか。藍は真っ赤になって、三浦に食ってかかろうとしたが、次木に窘められた。

「藍君、落ち着きなさい。三浦君には何を言っても無駄だろうからな」

 三浦は藍を見ながら、胸を撫で下ろす仕草をした。

「まあいい、やるだけやってみよう」

 次木は膝を曲げると血だまりの中に腰を下ろした。

「ズボンは弁償してくれるだろうな」

「ああ、あんたが一生履けないような凄いやつをプレゼントしよう」

 三浦は笑いながら一歩下がった。藍に対する警戒心は解いてないようだ。

 そこに、和美がげっそりした顔で入って来た。が、場の雰囲気を察したのか、扉の横に青い顔をして立っていた。

 次木は手に力を入れて、肉片に翳した。10秒、20秒、30秒。じりじりと時間は過ぎたが何も起こらなかった。

「いや、もういい、十分だ。ありがとう」

「先生!」

 次木は汗だくの顔を向けながら、昏倒した。駆け寄る藍よりも早く、血の海の中に倒れ込んだ。

「こりゃ、ズボンだけじゃすまなくなったな」

 藍はきっと三浦を睨みつけたが、何も言わなかった。

「そっちのソファーで休ませてやれ」

 和美が青い顔のまま、手伝おうと、近寄って来たが、藍はそれを無言で制すると、軽々と次木の体を抱えてソファーへと運んだ。棚橋と和美は呆気にとられて藍を見つめた。

「これでいい。何もないよりはましだ」

 三浦は無造作に肉片を掴んだ。

「次木のおっさんは、すげえなあ、棚橋。死んでいた細胞が生き返った」

 棚橋は三浦の能力を思い出した。彼が持つ力は生きている細胞から記憶を引きずり出す能力だ。そいつのおかげで、とばっちりを喰った棚橋は自分のキャリアを棒に振る羽目に陥ったのだ。しかし、三浦の能力は圧倒的に捜査には役に立つ。彼が出世している一つの要因ではあるのだ。

「まずいな」

「何か分かったのか?」

 棚橋は三浦が何を知ったのか、聞いてみた。その肉片が何を物語るというのだろうか。

「何がまずい?」

「いや」

 三浦は真剣な表情になった。

「ニュースキャスターは死んじゃいない」

「彼女は失踪したのでしょうか?」

 和美は青い顔をして、三浦に言った。三浦はうなだれたように首を振った。

「それでは、彼女は誘拐されたのですか?」

「いや、違う。彼女は覚醒しちまった」

 三浦は憤怒の形相になった。

「こいつはヤバい。最悪の状況だ。犯人は俺たちを完全に出し抜いて、ジョーカーを手に入れたようだ」

 棚橋は目まぐるしく表情を変える三浦を珍しいものでも見るように眺めていた。しかし、彼の思考の大半を占めていたものは、

「俺は横田藍とどこかで会っている」

 という事件とは全く関係のない、不確かな記憶のことにあった。

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