集結2
うらぶれた劇場があり、そこにはうらぶれた芸人がふきだまっている。潰れそうな劇場に集まっている芸人たちは一様に面白くない。しかし、なぜか経営的に成り立っているから、不思議だ。そして、今日も少ないながら客が入っている。
その一番後列の席に北川真央が腰を下ろして、退屈そうにしていた。彼女は出てくる芸人を確認しては眠そうに、目を瞑った。その姿は、どこか瞑想しているヴィーナスを思わせた。
殆どの芸人は真央の注意を引くことはなかっし、取り立てて笑う訳でも無かったので、一体この美しい大人びた中学生が、なぜ場末の劇場にいるのか、周りからは浮き上がって見えた。もっとも、ガラガラの客席に浮くも、浮かないもないのだか。
いつの間にか、幕間になると、一人の男性が真央の隣の席に腰を下ろした。彼は馴れ馴れしく彼女の方を向きながら、安っぽい態度で話しかけた。
「ねえ、君さあ、何でこんなとこにいるの?」
男はワザと自分の顔が見えるように、ポーズを取った。彼は最近、テレビに出始めた、イケメンの新進マジシャンだった。舞台袖から会場を覗き、可愛い子を見つけるとナンパをしては、遊びに連れ出していた。
「次に出てくるのは、俺の師匠なんだけど、とんでもない老いぼれでさ」
真央は冷然と男を無視した。
「そんなの見たってつまんないって、俺が保証するよ」
「でも、あなたの先生何でしょう」
真央が反応すると、イケメンマジシャンは脈ありと踏んで、さらに馴れ馴れしく、切り込んできた。
「先生っていっても、もう2年前に抜いたからなあ」
「それでは、鳳楽斉師匠、張り切ってお願いします。どうぞ」
投げ遣りな司会者が呼び込むと、年老いたマジシャンが登場した。彼は真央が考えていたより、遥かに高齢のように見えた。よろよろした足取りで出てきた鳳楽斉は、覚束ない手つきで花を出すと、観客席に放り投げた。しかし、観客席にいた数人の客は水を打ったように、静まったままだった。
「ね、あの手つき、指も震えてりゃ、マジシャンとしては致命的だ」
「そうかしら」
「そうさ、だからこんなもの最後まで、見てないで、どこか遊びに行こう」
舞台には大きな壁が運び込まれていた。
「あなたはあれが出来るの?」
壁の周りにはカーテンで隠され、鳳楽斉はカーテンの上に手を出している。そして、次の瞬間、何のためらいもなく、歩いて壁を通り抜けた。
カーテンが落ちた時、鳳楽斉は大して面白くないような顔をして、見得をきった。
「はっきり言うけど五流のマジシャンには用がないの。あなたにはあの壁抜けは絶対出来ない」
真央は立ち上がって、男を見下ろして、侮蔑した口調で言った。
「あなたはお呼びじゃないのよ。私が必要としてる」
真央は舞台上の鳳楽斉を指差して、言った。
「彼が日本を救うのよ」