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鳴動3―2

 車を降りると、三人はあっという間に夥しい警官に囲まれた。彼らは揃って重装備である。

「まるで、軍隊を相手にしているようだな」

 三浦は真剣さの欠片もなく呟いた。しかし、それだけお偉いさんには脅威なんだろう。何せ、内臓がそっくりなくなってしまったのだから。味も素っ気もなく。

「現場指揮官はどこだ?」

 三浦はいかにも面倒臭そうに言った。その言葉を聞くと、三浦への反感が波紋のように警官隊全員に広がった。

「私ですが」

 40を半ば過ぎたくらいであろうか、精悍な面構えをした男が言った。

「撤収させろ」

 現場指揮官は一瞬、キョトンとした表情になって、三浦を見た。

「どういうことですか」

「言葉の通り、撤収。てっ・しゅ・う」

 指揮官は頭から湯気が上がりそうなほど、真っ赤になった。

「命令ですか?」

 三浦は心底ウンザリして、棚橋を見た。面倒臭いことを棚橋に押しつけるつもりだったが、棚橋はそっぽを向いて知らん顔をしていた。

「どうもこうもない。聞いているだろう。俺が内閣情報室の三浦だ。俺が現場を仕切る。とにかく町中で軍隊ごっこはやめてくれ」

 確かに現場は住宅街にあるワンルームマンションの前だ。物々し過ぎる。

「何のために報道管制しいてるんだか、わかんねえよ」

「しかし、我々は凶悪なテロリストがいると聞いて、ここに・・・」

「とりあえず鑑識だけ置いて、戻れ」

 三浦は戸惑う警官隊を尻目に何の警戒もせずワンルームマンションの入り口に大股で近付いていった。棚橋と和美はそのまま、三浦の後を追った。棚橋は三浦の背に思わず言った。

「おい、大丈夫なのか?」

「ん、ああ、凶悪犯のことか?そいつはやばいな」

 和美は息を呑んだ。

「だがな、ここにいる奴は犯人ではない。利用されただけだ」

 そう言うと三浦はタフに笑った。

「そんな簡単に捕まる間抜けな奴が相手だったら、苦労しねえで澄むな」

 三浦は、まだ警官が警戒している間を抜けて、無造作に扉を開いた。驚いている警官たちを置き去りにして中に入る。

「見ろ、死んでるだろ」

 棚橋は部屋を覆う異様な臭気に鼻を塞いだ。和美は入った瞬間に、血の気を失って真っ青になった。

 その部屋の主は、ロープ1本で宙にぶら下がっていた。しかし、その奇妙さは足元のバケツにある。和美はそのバケツを恐る恐る覗いた。そこにはいっぱいまで満たされた血液に、あらゆる臓器が浮かんでいた。

 和美は既に胃の中のもの全てを吐き出している。

「やってくれるな。棚橋、見ろ」

 三浦は初めて厳しい顔をして棚橋に顎をしゃくった。壁には巨大な文字が血で書き殴られていた。


『ごくろうさま』


 三浦は忌々しそうな顔を引っ込め、無理矢理歯を剥き出して笑った。

「挑戦状か、やってくれる」

 血の臭いの充満する部屋で棚橋は自分がとんでもないことに巻き込まれていることを、初めて自覚した。

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