表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
花に滴る本の世界より。  作者: リヴ
1/4

1.フェリシア·アル·ネメシス

 そこは、見たことのない天井だった。

 


「どこ、ここ。」



 声も、知らない声だ。自分が発したものなのだろうか。

 私は起き上がり、あたりを見渡す。

 そこは、ヨーロッパのような、洋風の部屋で、どこもかしこも繊細でゴージャスなデザインの物ばかりだ。そして、あらゆる色と大きさの本だけが無数に散らばっている。椅子の上も机の上も、ベッドの足元付近までも本で塞がっている。

 私はなぜか、床に仰向けで寝ていたらしい。

 死んだ、と考えるにしても、呼吸や、手に触れている床の冷たさは生々しい。

 それに、もし本当に死んだとしても、その瞬間の記憶が、ない。

 

 確か、私は幸上璃都希という名前で、日本に住んでいる大学1年生だ。

 ここに来る前の最後の記憶は、、


 ズキッーー。 


 頭が、痛い。

 記憶を思い出そうとすると、頭痛がしてしまうのだろうか。なら、やめておこう。痛いのは、嫌いだ。

 仕方がない。思い出せないなら、今の状況を受け入れて、理解しよう。

 肩から滑り落ちる長い髪は、くすみ、輝きの無い灰色だ。


ーーこれは、別の人の身体?


 私は、その場で立ち上がった。

 見渡す限り、鏡もない。これじゃ、今の自分の姿さえ確認できない。

 更に辺りを見回すと、壁側の机の上に本が置いてあるのを見つけた。まるで、読んでくれと言っているように、その机には一冊だけある。

 私は、どうにか歩き出し、机の前の椅子に座り、本と向き合う。

 それにしても、やけに落ち着いている。

 他人の身体だというのに、違和感がない。そんな自分が少し、怖くなってくる。

 とりあえず、目の前の情報を得なくては。


 本は、紺色の、厚くも薄くもない厚さで、辞書と同じ様な大きさだった。

 開いてみると、1ページ目に短く書いてあった。


『私とあなたの名前は、フェリシア·アル·ネメシス。』


 私の、この身体の名前のようだ。

 やはり別の人間であり、日本人ではようだ。フェリシア、が名前なのだろうか。綺麗な名前だ。

 それに、「私」は、前にしっかりと別の人格があったということなのだろう。

 そして、次のページには、謝罪の言葉があった。


『ごめんなさい。あなたを、こんな世界に呼んでしまって。そして、どうか許してください。あなたをここに呼んだのは、私です。』


 どういう意味だろうか。

 “ここに呼んだ”それは、私をこの身体に入れたことだろうか。なら、もともと入っていたはずのこの本の“私”は、どこに行ってしまったのだろう。

 更にページをめくる。


『私は、もうこの世界にはいません。あなたに全てを託したいのです。勝手なことだとは理解しています。ですが、あなたにしか出来ないことなのです。』


 私にしか出来ないこと?

 妙に引っかかる。


『まずは私についてお話しましょう。』


 その後には、私がフェリシアの身体に入るまでの出来事や、フェリシア自身のこと、それを取り巻く環境や人々のこと、今の状況などを細かく、丁寧に記してあった。

 そして、最後のページに、彼女の本当の目的であろう言葉があった。

 それは、あまりにも簡単で、ありきたりな言葉だった。



『『どうか、この世界を救ってください。』』



 これが、本来のフェリシア·アル·ネメシスの遺言であり、願いだ。

 

 そして、これから私がすべき事、呼ばれた理由だ。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ