2-4話 カード
2-4
二人についていく。すれ違う人は様々な格好をしていて、反射する光がまぶしい甲冑を着た騎士?やバンダナを巻いた船に乗ってそうな人、さらには露出の多いサキュバスのような恰好をしたロリも歩いている。
……ラルフは目を逸らした。よく見たらマヤも逸らしてた。
「ああいうの、興味あるの?」
それを見たミルがにやにやしながら聞いてくる。
[いや…べ、別に…]
って、この答え方って絶対に興味あるやつじゃん!失敗した~!
「ふ~ん」
そんな会話をしながら歩いていると、周囲から視線を感じた。やはり竜人は珍しいのだろう。……あ、サキュバスっぽいロリがこっち見た。向かってくる。
「ねぇねぇ!もしかして、アナタってドラゴンなの!?」
太陽光を跳ね返す金髪ロング、紫色にも見えるピンク色の瞳をした、マヤと同年代に見える女の子。よく見ると口紅を塗っているが違和感を感じない。その仕草もどこか、大人びている。しかしロリだ。よくわからない。
[ほぁっ!?]
ご……合法ロリ……!?
目の前で動いてしゃべる現実離れした存在。その魅惑のスタイルは、マヤの奥深くに眠るコミュニケーション障害をいとも容易く目覚めさせた。
[あぁっ…!えっと……ちょっと待って~!]
顔があつい。目を逸らせない~!
わずか数秒の行動だが、少女はそこに見えるマヤの弱点を見逃さない。残念なことに、この行動によって少女の興味を更に引いてしまったようだ。
「これは中々……ちょっと、どうなのよ~」
[ぅぅ……はい!そうですそうですぅ!]
「すごい……!初めて見たわ、ホンモノ!尻尾触ってもいーい?」
[ああもう、お構いなく]
頭の中で暴れる思考により、最早考えることなど出来なかった。それと、マヤはドラゴンではなく竜族だ。
「……すべすべだけど、ちょっとデコボコしてる」
尻尾を撫でられていたら、段々頭の中がぼぅっとしてきた。普通だったら眠くなるところだが、荒れた思考が落ち着いたことによってかえって冷静になった。
[あのっ]
「……あ、ごめんなさいね、急に。歩いてたらいきなりドラゴンが居るものだから、ついつい深入りしちゃった。」
マヤが声をかけると少女はその意図を汲んでくれたようで、ゆっくりと離れていった。
「また会ったら、次は遊ぼうねー!」
……。
あっぶね~、ていうかこの世界の治安大丈夫?いきなり触られたけど。
……ただ、周囲には「あら^~」とにこやかにほほ笑むミルやその他の女性、何かを拝む男性達が居たぐらいで特に問題はない。一安心し、小さなため息をつく。
気を取り直し、歩き出した。
見た感じゲームとは違って、本当に広い。城壁も凄い先まで続いているし、厚い……どころか中に部屋があるレベルだ。建てるのにはものすごい労力がかかりそう。魔法を使えば楽なのかもしれないけど。
さっきから太陽の光が当たっているが、強い風が吹いているのでそこまで熱くはない。海側には城壁がないので、そこから風が来ているのかも?
街は全体的に明るめの色合いをしている。道は少し暗めのベージュ色をしたレンガで出来ていて、歩きやすい。ただ日本の整ったレンガとは違い、ところどころに削られた痕のようなものが残っていたりちょっと盛り上がった所もある。転びそう。
建物は壁が薄茶色のものが多い。屋根の色は様々だ。エメラルド色のもあれば、道のレンガと同じ色のまで。ただ、今のところ人が住んでいるだけの家は見ていない。店ばかりだ。
[ここ、いいところだね~]
「ああ。嵐が来ると危ないが、それ以外はとてもいいところだ。あ~、……交易港って知ってるか?その、あれだ。最初は小さかったけど、長い年月をかけて大きい都市になった場所なんだ。……おいミル、合ってるよな?」
噴水がある広場に着くが、すぐに左へ曲がる。
王様は元冒険者とかなんだろうなぁ。
こういう場所で周囲をまとめる存在は、大体そうだよね。実はあの金髪ロリとかが王女様とかね。うわ、ありそう。
「着いたぞ。ここが冒険者ギルドだ。」
冒険者ギルドの屋根は薄い青色をした屋根だった。大きさも、普通のものより3倍はある。高さも、ちょっと高い。門は常に開かれている。
黒色の甲冑を装備した者が扉から出てきたあと、ラルフたちは入れ替わるように入った。
ドタドタドタ……
ザワザワガヤガヤ……
音がうるさい。中に入ると、様々な人の足音が響いている。外の人間の喧騒よりも、中のほうが響いていてうるさい。聞こえないよ~~!
カウンターが2つと、ポストのようなものが3つ置いてある。白と黒と赤だ。壁には4種類のボード。クエストボードってやつかな。
「マヤちゃ……を握っててね。」
聞こえないよ~~!(二回目)
ミルが手をつないで、引っ張ってくれている。人が多くてぶつかりそうなので、翼をできるだけ折りたたみ、ついていく。尻尾も体に巻き付けておいた。
明るい色をした木の床を歩き奥のカウンターに着くと、若い男性とラルフが話しはじめる。若い男性は、マヤをちらっと見てから奥に行きなにか大きな箱を滑車に乗せて運んできた。
「では、どうぞ。」
何を!?
若い男性が、営業スマイルで言う。
てか、これ……めっちゃコピー機に似てるんだけど。
「マヤちゃん、ちょっといいか?」
洗濯機とは違って、あまりにも似ているため驚きを隠せないが、ラルフがマヤに確認を取る。
[? いいけど?…わっ]
ラルフはマヤを持ち上げ、コピー機に近づけた。上には、手のマークがついている。
(あーーーーーもうわかっちゃったよ。知ってた。うわ~~これやりたかったんだよこれ!)
[うおおっし!キター!]
心の中でガッツポーズ。どんどん異世界らしくなってきた。とりあえず手を置くが……マヤの手の大きさとマークの大きさが全然違う。2~3秒触っていると
「よし、もう大丈夫だ」
[え?ああ]
(ステータスがボンッ!って出て来るわけじゃないんだ。あ、コピー機ってことはそういう)
ヴィィィィ……
若い男性がすぐに紙とカードを取り、カウンターへ持っていった。ワクワクが止まらないぜ!1分もしないうちに戻ってくると、若い男性はマヤに淡い虹色の小さなカードを渡す。……折れない。頑丈だ。
[おお~~~!これ……が…?]
自分のステータスが確認できるかと思いきや、そこに書いてあったのは自身の名前と謎文字だけだった。不思議と名前は分かる。まあ、位置的にわかるだけだが。
[なぁにこれぇ]
裏には手のマークが。さっき手を置いたのはこのためだろう。
「これでマヤちゃんも冒険者よ。……まだ新米だけど、がんばってね」
「虹か……。初めて見たな ああ、ありがとう。」
ラルフが従業員に礼をすると、一礼した後そのまま別の冒険者の対応を始めた。だが、ミルとラルフに外へ向かう様子はない。二人とも、明後日の方向を見て小声で話しているように見える。
[どうしたの?]
「ああいや、気にしないで」
そういわれても、気になってしまう。
{ざわ…ざわ…}
(ん?)
ハッとして周囲を見渡すと、さっきよりも喧騒の音が小さくなっていることに気づいた。しかも、そのほとんどはこちらを見ている。
「あの竜人、只者じゃねえ」
「なあ、竜人ってのはああいう種族なのか?」
「知りませんね。僕も。本で見たことぐらいしかないのですがしかしあの古代竜クスクルは(早口)……」
めっちゃ見られてる。これはあれか。そういうあれか。もう察した。
しかし油断してはならない。どうせまた、自分の思い通りに行かないのだ。身構えていると、外から黒い甲冑の……先ほど外へ出て行った冒険者がこちらへ歩いてきた。
ジャキッ、ジャキッ、ゴトッゴトッゴトッ……
ただならぬ気配、注目すればするほど肌がしびれる感覚に襲われる。マヤはあくまでも一般人だった身なので殺気など感じることは出来ないが、それでも何となく只者ではないと感じることが出来た。
……いつでも逃げられるように。が、ラルフの口からは意外な一言。
「ギルドマスター、」
[ん]
「ああ。わかっている。君たち、私についてくるがいい。」
落ち着いた老人の声は、周囲の空気を和らげて元の空気を取り戻してくれた。ギルドマスターが来たからもう大丈夫。ギルドマスターが居るから手出しは出来ない。そんなイメージだ。
喧噪が少し遠のいた。間が開いた。
「…、はい!」
「マヤちゃん、行こう。」
漆黒鎧は奥の階段へ向かって歩いていく。鎧の中は見えないが……ちょっと暑そうだ。周囲を見渡してからコクリと頷き、ついていく。
クエストボードとは逆の位置にある階段を登っていき、2階の廊下を上がるころには喧騒は完全に戻る。珍しいものを見た、と得する者。事態を予測していたかのように目を細める者。出来事を急いでノートに書き記す者もいた。
マヤたちは、そんないつもとは一味違うであろう1階を後にし、ギルドマスターと呼ばれる男が入った部屋に、足を踏み入れた。
ギルドマスターについていくと、そこはギルドマスターの事務室?のような場所だった。最後に入ったマヤが扉を閉めると、一階の音が少し小さくなり、話しやすくなった。
「座るがいい。」
花瓶が置いてある黒茶色のローテーブルを挟む二つのソファー。奥側に黒い騎士は座っている。3人は言葉に甘えて、向かい合う形で座った。ちょっと狭い。
「ラルフ殿、この子こそが昨夜拾ったという子だろうか?」
「そうです。1層で、暗中での戦いの訓練を行っている途中に……」
ラルフが話している中、黒騎士は左手で制した。
「途中で済まない。その点については森近辺の第三駐屯基地から情報はもらっている。昨日、ラルフ殿が伝えていた通りだ。……さて、マヤと言ったか。」
甲冑の中にあると思われる目が見えない。若干不思議に思ったが、それはいったん置いといて元気よく返事をした。
[はい!]
「元気でよろしい。どうやら一般常識が欠けているらしいが……冒険者カードについての説明はもう聞いたのか?」
[聞いてません]
流石に敬語で返したが、特に何も言われなかった。ギルドマスター……ギルマスは、腰の小さなポーチからカードを取り出す。
「冒険者カードはギルドカードとも呼ばれている。本当は冒険者カードが正式名称だ。覚えておけ。
これが、通常。あとこれが、腕が立つ戦士のもの。もう一枚……これは魔法使いの平均的なステータスだ。」
3枚のカードを取り出す。マヤのものと同じ大きさで、どれも車の免許よりも一回り大きい。通常と言われるそのカードは、赤い。一部の文字が塗りつぶされていた。
[はぇ~……]
「冒険者カードの色はその者のうちに眠る力の意味を示している。赤の場合は、力や火。もちろんそれ以外の意味もあるかもしれない。」
かもしれない?わかっていないのか
「次に、腕の立つ戦士――――」
またもや名前は塗りつぶされている、ピンク色の文字で書いてある。見にくい。ラルフとミルも見ているが、本当によくある物なのか特に驚いてはいない。
「上から、依頼を受けた回数、依頼を完遂した回数、犯罪回数。が、文字の色も重要となる。黒は特に特徴はないが他の色よりも特化している。それ以外は細かい特徴を持つ。」
カードを持ち、マヤに近づける。触ってもいいようだ。
「桃色の場合、ステータス内の文字がもうすぐで変わるのだ。つまり、その者は成長し続けているという事になる。」
裏返しても、白紙で何も書かれていない。カードを黒騎士に渡し、最後に魔法使いのカードも見る。
薄い青色で、文字は黄色……文字の色に関しては、マヤの色と同じだ。裏を見ると、何やら紋章がついている。それを見た二人は、おおっ!と声を上げた。
「院卒だ~……いいなぁ」
[?]
うらやましがるミル。……え?学校とかあるの?
「マヤ殿と同じ、黄色の文字を持ったカード。黄色の意味は、本人はまだ目覚めていない特殊な力があるという事だ。……今は目覚めていると見た。
マヤ殿。一見、竜人と見える。すまないが、先ほどカードを預からせてもらった。」
[えっ?……あれ!?うわぁ!すごっ!]
驚いて素がでてしまった。なんと、大事に持っていたたハズの冒険者カードは黒騎士の手の中にあったのだ。
「種族は、『不明』ではなく『謎の種族』。普通ならば『不明』とでる。……そして、『謎の特技』。本人の力の説明が無い。もちろん、『回復力』なども存在する。が、マヤ殿は色が不自然で文章もおかしい。さらに、竜人でもないようだが……」
待って待って待って!情報過多!え?何?特技って何?種族も不明?そんなん書いてあるの?
[ちょっと待ってください]
「む?」
驚いて、ついつい話を遮ってしまった。ラルフ達も不思議そうにこちらを見ている。
[字、]
「「じ??」」
[読めないです]
……。
「「「えっ?」」」
[読めないんだよー!]
なんかすごい残念な感じの空気になった。なんこれ。
カードの中身がイメージしにくいので表すと、こんな感じです。
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(謎文字) (謎文字)
(謎文字) (謎文字)
(謎文字):0
(謎文字):0
(謎文字):0
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