2-1話N 第三駐屯基地1
今回からは「2」となります。深い意味はありません。後でパトロールするためだと思ってください……。そしてサブタイトルもつきます。
2021/11/5追記:パトロール修正。平原にあっさり出すぎていたので、展開を追加することにしました。というわけで、前回にも同時に追加しています。
2-1
広範囲を流れる少し強い風。波打つ平坦な地面。湿り気の無い、ふわふわした土と草。
マヤは今、森を脱出した。
[これが……]
両手を広げて風を感じる。森よりも少し荒いが……背中を押してくれているような、そんな風だ。
青い空に白い雲。地球で見たものと似ている。しかし、何故か全くの別物のように見えた。現実味が無さ過ぎるのだ。
[{すぅー……はー……}]
(空気がおいしいって、こんな感じだったんだ!
ちょっと冷たいけどその分ピュア?というか、僕が今まで吸っていた空気にどのぐらいの不純物があったのかがわかる。まさに、スッキリ!)
[すっごいなぁ]
マヤは山の空気よりも都会の鈍い空気を好む性格だが、異世界の空気は訳が違うようだ。一方、目を輝かせながら草原を見つめるマヤを見て、ミルとラルフは少し困惑する。
「マヤが森の中で生まれた少女、というのは本当なのかもな」
「やだラルフ、流石に信じてあげなさいよ……」
ミルは、少し呆れた様子でラルフに言う。掛け声やら一つ一つの動きからは『町で育った少年』特有のモノがみられるため、野生児とは思いにくいが……
『そういう性格』の可能性だってあるのだから、ミルは今のところマヤを信じているのだ。
「しかし、ベンベラントの住民は皆あんな感じじゃないか?」
「……そう聞くと…そうね。確かに竜族ともなると……
でも見なさいよ。あの表情。まるっきり子供よ?」
ミルはマヤの方向を手で軽く指した。実際に子供なので間違えではない。ラルフは悩んだ末に、
「まあ、そうだな。それに、今ここで考えるべきじゃなさそうだ。」
後で考えることに。
ミルは少しだけマヤの手を引くと、さっさと歩いて行ってしまった。ラルフも続いて歩く。
(今、なんか言ってたような……それにしても生物が少ない。)
きょろきょろと見渡す。視界は恐ろしく良いが、目立った生物は見えない。草と似た色をした虫等は居るが
[あっ]
黄緑色の大地に擬態している、綿毛のような……丸いウサギが群れで転がっているのが見えた。コロコロ。
(うわかわいいなんだあれ)
ジーッと見つめていると、ラルフが説明してくれた。
「あれはラビットの群れだ。余程のことが無ければ襲ってくることは無いから安心していいぞ。」
(名前そのまんまじゃん)
その後もしばらく淡々と歩いているだけだったが、平和な場所なのか、油断した様子でミルが話しかけてきた。
「そういえばマヤちゃんはなんでカエルの中に居たの?」
[あ~っと、それは……あの中が一番安全だったんデス]
(アハハハ流石におかしいけど、ホントにそうだったし)
ハハハー……すると、ミルは驚いた様子で
「えぇ!?じゃあ、やっぱり毒とか大丈夫なのね!」
[恐らくは……]
「トキシックトードの毒とはいえ、無効化と来たら快適そうだな~」
「キ ツいのよねぇ……。何か対策でもしてるの?」
マヤ自身に耐性があるのだろう。そのことを伝えると、二人は納得……しきれないようで、その理由やメカニズムを話し合い始めた。
段々とヒートアップしていくのを見たマヤは、まだ冷えている内にと会話に入り込む。
[あ、あの~]
「もしかしたら、魔族とトクスサラマンダーの間に出来た子供なのか?」
「そんなことないわよ!だって、世界樹の中よ?まだサラマンダーは確認されていないわ」
絞り出すような声では二人の会話が止まることは無い。この好奇心の高さ、冒険者になったのも頷ける。まあ、この世界での冒険者の定義はわからないけど。
(どういう職業なのかもわからないけどね)
「奥はまだ未知の領域だ。そこに生息していたって不思議じゃないだろう」
「サラマンダー…それも、トクスのレベルじゃ無理よ。」
{ビッ}
[ぅわわっ]
ついには足をも止めてしまった。急に止まったので、腕を引っ張られたかのような衝撃が。
「じゃあ新種が居るんだ。トキシックとかな。」
「そんな簡単に新種が居るわけ」
[あのっ!]
一時の隙。ラルフは「またやってしまった」と項垂れるが、直ぐに正気を取り戻した。その後、ミルがコホンと咳をして、
「ご、ごめんなさい。それで、どうしたの?」
[ボクをどこに連れて行くんですか?]
この好奇心。何をされるか分かったものではない。こんな異世界なら、奴隷もありそうだ。
(奴隷とか、解剖とか……だったらすぐに…)
この細腕に黒い力を全力で送り込む。
…その後、逃げられる保証はない。ど、どうしよう……。
しかし、答えは思ったものとは違った。
「大丈夫、悪いようにはしないから。安心できる場所に移動するだけよ。」
[そうですか…]
「あと、わざわざ敬語を使わなくてもいいわ。マヤちゃん、ちょっと無理しているでしょう?」
[そんなことは]
マヤがそんなことはないです、と言おうとするがラルフが手で制する。
「最初俺たちに出会った時は、空気が違ったじゃないか。もっとこう……わんぱくだったぞ?
それに、敬語で話しているがマヤちゃんの敬語はなんだか、普通の敬語の印象とは違う。
……無理する必要はないんだ。」
[うっ、わかったよ…]
この世界での敬語は恐らく、『本来の敬語』の意味を持っているのだろう。SNS等の現代社会で柔らかくなっていった敬語は、元の敬語からすると余りにも違和感があった。
マヤは実際そういうキャラに影響されているところもある。江戸っ子系敬語キャラかわいいじゃん。
(身内以外の誰かと喋る時って、なんか自分じゃなくなっちゃうよね)
「うん、いい子だ」
{ポンッ}
そしてなでなで。
ッ!?
この感覚は…………!?
[うわっ!……え…?…お…、おお~~……!?]
(すごっ!?なにこれ…!いやスゴい……うわぁ、うわぁ~~!)
撫でられる。
語彙力、崩壊。何故、犬猫は撫でられるとあんな顔をするのか、行動をとるのか。それがわかった。
温かい何かがあふれ出てくる。撫でる手から直接『落ち着き』が注入されているような感覚により、マヤの顔は自然と綻ぶ。
[…]
「いやぁっ!マヤちゃん、カっ!?……私にもやらせなさいよ!」
ラルフがぐしゃぐしゃと撫でまわすのに対し、ミルは髪の垂れている方向にブラシをかけるかのように撫でる。
一巡するごとに風の気持ちよさや環境音などの癒しが際立ち、マヤの頭が未知の感覚に困惑しても暴れることは決してなかった。
[……]
それでもなお、なんとか沈黙を貫き通す。『えへへ』などと声が出たら、堕ちてしまう気がした。
このまま撫でられ続ければ危ない。
[えh]
(!)
喉から息が漏れそうになった瞬間、マヤの危険信号が意識を呼び戻す!
[でいやああああああ]{バッ}
「えええっ!?マヤちゃん!?」
頭をぐいっと下に下げ、そのまま丘を転がっていく。
[ああぁぁあああぁああああぁ]
{コロコロコロ}
{トンッ}
[せりゃあああぁぁぁ…!…い…]
荒い呼吸をしながら頭を押さえる。
[危なかった……今のは…危なかった…]
未だに先ほどの感触が残っている。ジンジンと、カイロの熱のように。そのままじわじわと消えていく。
「た、立てる?」
心配そうにミルが手を伸ばした。マヤは「うう…」と手を握り、立ち上がる。
[撫でるのはちょっと……んしょっと、ヤメテ…くだしぁい]
「ええ~…」
残念そうにするミルだが、『今のところは』仕方なく承諾するのだった。
唐突なネタバレ:マヤは堕ちる
〇しばらく後
「見えてきたぞ」
[おおーっ!]
平原を歩き続けて、もう夕方となった。オレンジ色に照らされる平原はなんだかエモい。穏やかな風も相まって安心感がある。
徐々に暗くなっていく草原、その丘の上から見えたのは……
[あ村だ]
丸太と板で建てられた多数の家、四角い井戸?、際立つ一回り大きな家。一部の建物からは既に光が漏れていた。
近くまで歩いていくと、村を囲む柵は見たところ高さが約3m、三重も重なっていた。
入り口にはラルフよりも軽装の兵士が2人立っている。マヤたちが間を通ると、二人は「お疲れ様です。」と声をかけてくれた。
なのでマヤも[ごくろうさまです!]と言うと、二人は一瞬困惑したが少し嬉しそうに一礼。
「ここは第三駐屯地っていう場所なの。ほとんど村みたいな扱いを受けているけど、本当は村じゃないのよ」
[はぇ]
遠くから見たらそこまで広くなさそうに見えたが、いざ入ってみると大きな公園レベルの大きさだった。ランニングしてる人とかいても可笑しくないくらいだ。
「ここだ。」
ラルフは他の家と同じくらいの大きさのログハウスで足を止めた。
小さな階段を上り、入り口にある小さなレバーをガチャッと下げると家の中から温かい光が漏れ始める。
[電気!?]
「? これは雷魔法じゃなくて、火魔法を使った照明よ?」
そういわれてみれば、壁の中にチューブにも見える大量の赤い粒子群が見える。ゆっくりと屋根への方向へ流れていくのがわかった。
中は土足で入る方式なのか、二人は靴を脱がずに入っていった。マヤも同じように入る。
[おおー、キレイだ]
しっかり端まで掃除が行き届いていた。床は石で出来ていて、壁は……明るい木の素材と見た。オレンジ色の照明が、安心させてくれる。
中央には小さなテーブル、左手に2つドア、奥にもう一つのドアが。
「ミル、マヤを頼めるか?」
「任せて頂戴!」
[? どゆこと?]
ラルフは苦笑いしながら答えた。
「マヤも知らない男と寝るのはイヤだろう。はは、心配するな。何も自分を卑下している訳では無いからな」
あ、これ死んだわ。この時ミルの顔は、ニコニコ通り過ぎてギンギンな笑顔となっていた。モザイク処理しよう。
その後、マヤはそこら辺にあった小さなイスに座り、その間に二人は鎧を脱いだり杖に何かをチャージしたり……まとめて言えば、装備の点検などをしているようだ。
暫くすると、シャツ姿のラルフが奥の扉に入っていった。
[むぅ]
やっぱり、魔法の出方がわからないなー。照明には明らかに魔力が集まっていっているけど、いくら手元に魔力を集めてもなにも起きないし。
適正とか、そういうのあったりして
テーブルに肘をつき、指先から黒い粒子を少し出す。これの扱いにも慣れなくては。
「マヤちゃん、何してるの?」
[!]
当たってます。この言葉だけで、今何が起きているかは分かるハズだ。でかい。やわらかい。やばい。
[、魔法の練習です]
言うの恥ずかし~!現実だったらこれもう、ヤバいやつのセリフだよ。
ミルの反応が心配だ。
「ふーん、マヤちゃんは魔法使いなんだねー。どれどれ?」
ミルは立てかけてあった杖を取りに行く。一方マヤは、異世界では普通の事で良かったと安堵していた。
私服であろう茶色いTシャツ姿で杖をかざす。
「ちょっと待って!スゴい良い線行ってない?一人で世界樹の森を生き延びるだけはあるわね」
[でも、魔法は放てないんだよ]
マヤ渾身の困り顔で感情を伝達。
「えっ、魔力は操作出来るんだよね?……もう出来てるわけだしね。後はそのまま撃つだけなんだけど…あっ!ここでは撃たないでね?」
{ザー…}
…と、魔法使いトークを繰り広げている途中で水の音が。水が立て続けに落ちる音……地球でいう、風呂の音に近い。
[あれ、シャワー?シャワーあるの!?]
「ここならあるわよ。なに?世界樹の森にもシャワーがあるわけ?村とか」
[ああいや、なんでもない!]
あぶねい、ついつい口が滑っちゃったぜぃ。そうだ、僕は今森の中から出てきた野生児なんだ。今まで何も気にせずにしゃべっちゃったんだけど……ヤバかったかな?
「マヤちゃあん、もったいぶらないでよ~。冒険者同士は助け合うものよ?」
[あれ?]
(なんで冒険者認定されてんの?)
[冒険者じゃないんだけど……いや、なりたいけどさ]
「あら、確かに森の中に窓口があるハズないわよね」
ミルもミルで、完全なる野生児との会話に慣れていないようだ。冒険者とは言っても流石に野生児と話すなんて経験は少ないのかな?
両方とも人間。アニメ視聴者の様なカンは持ち合わせている訳では無いのだ。二人が言葉に困っている間にシャワーの音は止み、数分おいて扉が開く。
ガチャッ
「空いたぞ、ミル」
キィィ……パタン
「よしっ」
ミルは立ち上がった。
次はミルの番でその後僕か。了解了解。
魔力の操作にもう一度移る。しかし、両手を机に置くよりも早く{バッ}
「シャワーの使い方を教えてあげるわ」
[あ]
終わっ
『次回、マヤ堕ちる、転生スタンバイ!』