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抱き枕の侍女と意地悪な騎士  作者: ヴィルヘルミナ


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第三十話 黄金色の美少女

 食堂の入り口で一人の令嬢と出会った。この国では珍しい黄金色の波打つ髪に青い瞳。絵から出てきたような美少女は、ファニヴァ伯爵家の令嬢。


「ごきげんよう、ミキャエラ様」

 上位の侯爵家令嬢のお嬢様が挨拶をし、相手が返すはずなのに、令嬢は会釈だけで足早に去っていく。後ろに控えていた侍女が慌てた顔で深く礼をして、追いかけていった。


 階級社会で今の態度はあり得ない。そもそも下位の令嬢が道を開けるのが作法。

「いいのよ、メイ」

「でも……お嬢様……」

 馬鹿にされたと抗議を入れてもいいくらいで、小さなことだと看過できない。


「この程度で怒りを示しても、心が狭いと判じられるだけよ」

 もう審査は行われている。それならば相手の減点に付き合うことはない。というお嬢様の考えにも正しさはある。それでも、これが続くようならば侯爵家が軽んじられる結果を招いてしまう。


「そうね……次も同じような態度なら注意するわ。ありがとう、メイ」

 優しすぎるお嬢様の気持ちが相手の令嬢にも伝わればいいのにと、私はひそかに願った。


      ◆


「ここでは時間がありあまってしまうわね」

 昼食の後は、また散歩の時間。面倒は避けたいと裏庭を歩く。

「どうかゆっくり過ごして下さい。皆もそう思っていると思います」

 侯爵夫妻も家令も使用人たちも誰もがお嬢様の好きなことができればいいと考えている。この世界に来て三年間、お嬢様はずっとラザフォード侯爵家を立て直す為に身を粉にしてきた。


 貴族の令嬢といえば、他家に嫁ぐ為に必要な知識を学ぶ以外は、優雅な時間を過ごすものと聞いている。

「何かしていないと落ち着かないのよ。そういえば、そろそろ報告書が届くのではない?」

「ええ。そうですね」

 この古城にいる間も侯爵家が気になると言って、家令に報告書を送るようにとお願いしている。


「お嬢様、そんなに心配なさらなくても」

「だって……やっぱり心配よ?」

 侯爵夫妻の人が良すぎるのは、見ず知らずの私を拾い、空から落ちてきた異世界人のお嬢様を養女にしたことからもあきらか。侯爵家が傾いていたのも、お人好しの侯爵夫妻を騙す人間が多すぎたため。


『……メイ、下がって』

 そっと囁くお嬢様の言葉に従って一歩後ろに下がると、歩いてくるのはクレイグともう一人の騎士。こちらに気が付いた二人は立ち止まってお嬢様の為に道を開け、左胸に右手を当てて目を伏せる。

「ごきげんよう」

 お嬢様が会釈をすると、騎士は軽く頭を下げて直立姿勢に戻る。


 すれ違う際にちらりと視線を向けると、クレイグが片目を瞑った。慌てて下を向き、お嬢様の後を追う。

「メイ? どうしたの? 顔が赤いわ」

「だ、大丈夫です。さ、さあ、図書室へ行きましょう」

 胸のどきどきが止まらない。自分は抱き枕だと何度考えても、頬の熱さは鎮まらない。


 頬の赤さを誤魔化して、たどり着いた図書室から本と茶器を持ち出し、また中庭の東屋へと向かう。昼食を終えた令嬢たちが、東屋に座って談笑したり本を読んだり、刺繍をしたりと思い思いに過ごしている。


 十五歳から十八歳の令嬢たちが花の中で座っている光景は、遠くから見るととても優雅なのに、近づくとどこかとげとげしい空気を感じる。


 この中から王子妃候補が決まる。ぼんやりと見回すと、あちこちの侍女に睨みつけられていることに気が付いた。私と同年代か年上が多い。何かしただろうかと焦りながら、お嬢様と二人で足早になってしまう。


 先程座った東屋は無人だった。よほど人気がない場所なのだろう。誰も見ていないからと並んで座り、本を開く。


 落ち着いてみると、クレイグに何の挨拶も返していないことに気が付いた。何か返しておけばよかったと思う気持ちと、横に他の騎士がいたのだから、それはするべきではないという気持ちがせめぎ合う。


 そわそわとする気持ちを隠して、私は本の世界へと無理矢理意識を向けた。

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