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抱き枕の侍女と意地悪な騎士  作者: ヴィルヘルミナ


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第二十七話 夜の女王の歌

 朝食後、お嬢様と並んで裏庭を散歩する。本来は先導するか、後ろに控えるのが侍女の役割だというのにお嬢様はどちらも望まれず、人目がない時にはなるべく横に並んで歩いて欲しいとお願いされている。


「メイも一緒に食事ができたらいいのに」

 お嬢様が溜息を吐く。部屋でなら一緒に食べることができても、そうすると遠い食堂から料理を運ぶことになり、何度も塔の階段を上り下りすることになってしまう。お嬢様は必ず手伝おうとするだろう。


「昨日、こっそりお願いしてみたのだけれど、それは無理だと謝罪されてしまったわ」

「貴族出身の侍女の方も同席は許されませんから、仕方ありません」

 数名の侍女は、自室に食事を持ち込んで食べていると聞いた。令嬢と自分の食事、二人分の運搬は女一人にとっては重労働。それでも使用人の食堂には絶対に行きたくないらしい。


「お嬢様、今日のご希望はありますか?」

「そうね……王子がいらっしゃるのは明日だったわね。特に準備もないし、今日も図書室かしら。読み切れないくらいに沢山の本があって良い場所だもの」


 異世界人のお嬢様は、どんな言語でも読む能力を持っている。お嬢様が本を読むことがお好きだと知ったのは古城に来てからだった。ラザフォード侯爵家の図書室は空だったし、朝から夜まで帳簿付けや金銭管理、説明されても全くわからない投資等々、お嬢様は寝る間も惜しみ使用人以上に働いていた。


 このまま、お嬢様が好きな本を読んでいられたら良いと思う。王子妃になって、この国を良い方向へ導いて欲しいとも願う。両立できない願いが、心の中でせめぎ合う。


「……お嬢様、昨日、昼食はお取りになりましたか?」

「……ごめんなさい。つい本に夢中になって……気が付いたのは夕方だったの……」

「やっぱり!」

 お嬢様の唯一と言ってもいい欠点はこれかもしれない。本に没頭すると食事を忘れて読みふける。


「今日は絶対に昼食を取って頂きます」

「でも……皆は朝と夜の二食なのでしょう? 私も二食で良いと思うの」

「貴族は三食以上と決まっています。軽食でも良いのでどうかお食べ下さい。これは領地の民の為でもあります」

 それは『貴族が三食以上食べなければ、その領地は不作になる』という古い伝説が元になっている。実際、ラザフォード侯爵夫妻が一日二食にした年、領地は酷い不作になった。


「この国には、不自由な決まりが沢山あるのね」

 私の説明を聞いて、困ったように微笑むお嬢様はどこまでも可愛らしい。


 裏庭から中庭へと入った時、女性の歌声が響き渡った。

「どなたかしら。とても美しい歌声ね」

「グラスプール公爵家の令嬢ではないでしょうか」

 声は美しくても、冷酷な夜の女王が『多くの死者を出したくなければ、我にひれ伏せ』と脅す怖ろしい歌。中庭であれだけの声量で歌えば、窓を開けた客室の殆どで聞こえるだろう。


「オリアーナ様ね。十八歳とは思えない素晴らしい歌声だわ」

 この国では三つの公爵家が絶大な富と権力を持っていて、王でさえ無視できないと庶民でも知っている。もしも他の令嬢が同じことをしようものなら、後々怖いことになるかもしれない。


「これは、何か劇の歌?」

「はい。五年に一度、大晦日と新年に演じられる劇の一つ『夜の女王と朝の女王』の歌です。大晦日に夜の女王が世界を制圧し、新年に朝の女王が世界を救うという内容です」


「あら……それなら、朝の女王の歌を聞いてみたいわね」

「人気があるのは夜の女王の歌です。朝の女王の歌の頃は、皆、半分眠りかけていますから」

 この国の年越しは、お祭り騒ぎで日が変わる夜中が最高潮。朝には疲れ果てていて、役者や歌手が歌っていても、誰も聞いていない。私も全く覚えていない。


「夜の女王がこれだけ素晴らしいのだから、きっと朝の女王も素敵よ」

「そうですね」

 お嬢様が仰ると、そんな気がしてくるから不思議。


 中庭を抜け図書室のある棟へとたどり着いても、夜の女王は周囲を圧するような歌声を響かせていた。

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