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抱き枕の侍女と意地悪な騎士  作者: ヴィルヘルミナ


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第二十二話 蝶が舞う料理店

 料理店は朝とは違う雰囲気に包まれていた。庭のあちこちに魔法灯が下げられていて、幻想的。

「……同じお店なのに、光が違うだけでこんなに印象が違うのですね」

「そうだな」

 店までの小道を歩く中、木々の合間で光が遊んでいるような景色を見ていて、石畳につまづいた。


「きゃ!」

 手には小瓶が入った袋を持っているから、手を地面に着けば割れてしまう。一瞬のためらいの直後、クレイグの腕が顔から転倒しそうだった私の腰をすくい上げた。

「大丈夫か?」

「は……はい。ありがとうございます」

 咄嗟に袋を優先してしまったことを注意されるかと思ったのに、クレイグは怪我が無くて良かったと笑うだけで優しい。


「仕方ないな。ほら」

「何ですか?」

 クレイグが差し出す手の意味がわからない。首をかしげると、右手を掴まれた。


「え?」

「これなら転びそうになっても、すぐに助けられる」

「こ、子供ではありませんよ」

「ほう? じゃあ、余所見してつまづくのは立派な大人の所業、と?」

 意地悪な笑顔をされても、抗弁する余地はない。羞恥が頬に集まっていく。


「行くぞ」

 仕方なく手を握ってから気が付いた。これでは親密な……恋人のよう。今度は別の意味での羞恥が頬を熱くしていく。


 店内に入ってもクレイグの手は離れない。夜の店内は薄暗く、ぼんやりとした明るさの魔法灯があちこちで柔らかく輝いている。


 朝とは違う個室に入ると大きな窓が額縁のように見えた。赤と緑の月が輝く夜空に白い小さな三日月。魔法灯が照らす庭には、花々が咲いていた。


 ひらひらと優雅に舞うのは白く輝く蝶。よくよく見れば、花と思っていた半分は蝶が枝に止まっている姿。

「この店の名物だ。夜になると蝶が庭に放される。ここは殆ど白い蝶だが、王城庭園には黄緑色の蝶もいるぞ。それから橙、赤もいる」

 白と黄色、黒い蝶は侯爵家の庭でも見かけたことはある。


「青はいないのですか?」

「それは見たことないな。青い蝶か。きっと綺麗なんだろう」

 青い蝶は皇帝陛下の正妃の象徴として尊ばれ、村では春を告げる蝶と言って愛でられていた。


「この白い蝶も美しいと思います」

 繋がれた手からクレイグの体温が伝わってくる。今日一日、まるで夢の中にいたような、ふわふわとした温かさが胸に宿っている。


 料理が運ばれてきて、クレイグが私を席に着かせた。手が離れてしまったことが寂しい。


「勝手に頼んだが、良かったのか?」

「ええ。こういったお店に来たことがなかったので、何を頼んでいいのかわかりません」

 テーブルの中央に置かれたのは楕円形の焼かれた粘土のような物体。どうやって食べるのか全くわからない。


「塩釜だ。中身は……」

 そばに置かれていた木づちで叩くと、ヒビが入って割れた。懐かしい川魚と香草の匂いが広がる。

「塩漬け魚ではないのですね!」

 取れたての魚を食べる習慣のないこの国で、魚料理といえば塩漬け魚か干し魚しかない。


「熱いぞ。気を付けろ」

 大きな魚をクレイグが切り分けてくれた。身は白くて、口に入れるとふわふわとした触感と旨味が広がる。塩漬けや干し魚では、この食感は得られない。


「美味しい!」

 私が食べる姿を見て、恐る恐るという雰囲気でクレイグが一口目を口に入れる。

「……確かに美味いな」

「もしかして、初めて食べたのですか?」


「本来は干し魚を酒で戻して焼く料理だそうだ」

「え? じゃあ、これは?」

「……新作料理だな」

「そうなんですね」

 塩漬け魚や干し魚も確かに美味しい。でも、生魚を調理したものはもっと美味しいと、この国の人々にも知って欲しい。


「この料理が流行するといいと思います」

「そうだな。美味いしな。他の料理もどうだ?」

 優しい笑顔のクレイグに勧められるまま、私は次の料理へと目を移した。

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