5.学校
「よ、小暮」
「おはよう、大和」
杉原大和。新学期になって知り合ったけど、すぐに仲良くなれた友人だ。
「今日は少し遅いな。何かあったのか?」
「特になにも」
「そうか」
口封じとか言ってたし、言わないほうがいいだろう。
新学期が始まり、一月も経っていないがそれなりにやっていけてると思う。
友人もいて、浮いてるわけでもない。
クラスも荒れてなく、完璧でもない。
でも、もう少し特徴が欲しい。
毎日が楽しめるような何かが欲しい。
この日常が変わって欲しい。
「席に着け。授業を始めるぞ」
こうして、いつもと変わらない一日が始まる。
と思っていると、勝手にペンが動き始めた。
声に出して驚きそうになったが、それをこらえてペンが書く文字を見る。
『儂じゃ』
ルシファーらしい。
『透明化しておるから、誰にも見えておらん』
透明化とかもできるのか。
他のペンをとり、ノートに書く。
『どうしてここに?』
『シーナによると、ミナトが出ていった瞬間に魔力が隠せなくなったらしくての。ミナトの近くなら隠せるのじゃが』
それで今朝呼び止められたのか。
隠せる範囲が決まっているのか?
でも、起きたときのほうが家を出るときより遠くにいたよな……
同じ建物ならセーフってことか?
『シーナの話では、多分この世界にいることがばれたらしいの』
『それって不味くない?』
『ミナトの近くにいる間なら大丈夫じゃ。見た目は普通の人間と変わらぬしな』
『そういえば何で日本語が読み書き出来るの?』
『翻訳魔法があるからじゃ』
便利だなその魔法。
『他に聞きたいことはあるか?』
聞きたいことか……
そういえば、ずっと聞いてみたいことがあった。
『ルシファーの本名って何?』
ルシファーが称号のようなものなら、別の名前があるはずだ。
『持っておらん。そもそも名前を持っているのがシーナのような位が高いものだけじゃ。それに比べて儂は、大罪であること以外は普通の魔族じゃからの』
ないのか……
でもルシファーって呼びにくいしな……
だったら。
『クロエだ』
『何がじゃ?』
『ルシファーの名前。今日からクロエだ。全体的に黒っぽいし』
『安直じゃの……しかし、嬉しいぞ』
『気に入ってもらえたならよかった』
こうして、俺の日常は、少し変わったのだった。