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エピソード 5

 怪我は順調に回復したようで、翌日には通常通りの生活を送る事が出来るようになっていた。夜遅くまでどこで何をしていたんだ、と母さんにこっぴどく叱られてしまったが、それはご愛嬌と云う事で。何度も頭を床に擦り付けたお陰で、どうにか許してもらえた。しかし晩ご飯は抜きになったので、コンビニの弁当でどうにか間に合わせた。


 それから、僕の所へ封筒が届けられた。中身はクリスティーナさんからの手紙だ。綺麗な筆跡に相反するように片言の日本語で書かれた文章を要約すると以下の内容になる。

 食人鬼退治と云う世界の裏にまつわる事情に僕を巻き込んでしまった事、それから大怪我を負わせてしまった事への謝罪。そのお詫びとして幾許かのお金を同封したと云う旨。確かに封筒の中には少額とは思えないほどの日本円の現金が入っていた。

 それから、食人鬼の存在は秘匿されるべきとの意向から、件の一日については内密にしてほしいとの指示が。まぁ、誰かに話したところで信じてくれるとは思ってないので特に問題は無かった。

 そして、僕の起こした行動について。僕がセルシアさんを庇ったのがどのような気持ちから為した行動かは窺い知る事は出来ないが、自分の命を軽んじるような行為は今後控えた方が良いと云う助言を貰った。文面の裏から滲み出る罪悪感と共に貰ったその助言を、僕は有り難く受け取る事にした。冷静に考えてみれば、僕の仕出かした行動は愚行にも等しかった。あの場では他に出来た事があったかもしれない。それを為せなかったのは僕が未熟だったからだろう。


 そうした内容の手紙を受け取った僕は、とりあえず貰ったお金をどうしようかと悩んでいた。怪我はもう治癒したようなものだし他の使い道に充てようか、でも厚意で貰ったお金で無駄遣いは出来ないよな。


 そんなこんなで通学路を歩く朝。天候は清々しいほどに晴れ模様だ。その空の下、僕は未だにクリスティーナさんからのお金の使い道を考えあぐねていた。せっかく治療費として貰ったんだし、風邪薬とか頭痛薬とか買おうかなと思い至った時、アイツに出くわした。先日の喧嘩で気まずくなっていた件の友達。癖混じりの黒い短髪に、第一ボタンまで外した学ラン。何より鋭い吊り目がアイツである事を決定付けている。

 僕がしっかりと視認した為に、向こうも僕に気づいたようだ。お互いに黙ったままその場で硬直する。こうやって通学路で遭遇する事は分かっていたはずなのに。心の準備とか全く出来ていなかった。どうしたものかと迷っていると、それが僕の手に触れた。目線を遣ると、そこには青い太眉の熊が居た。セルシアさんからプレゼントしてもらったキーホルダー。それを見て、僕は勇気を出す決心が着いた。一つ深呼吸をして、最初の出だしからしっかりするぞと決意を固めて、言葉を放つ。


「「あ、あの……」」


 二人の言葉がこだまするように重なった。

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