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4話:マイコンと成宮賢のソニー入社

 それから遅れること1年、1976年8月に日本初のパソコンのトレーニングキットとして、TK80を発売した。日本電気・NECはTK-80 ・トレーニングキット μCOM80 とは、日本電気 ・NEC の半導体事業部・現在のルネサス・エレクトロニクスが1976年8月3日に発売した、マイクロコンピューターシステム開発のためのトレーニングキットである。


 高価な端末装置を必要としないという点が当時のアマチュアの目に留まり、TK-80は本来の意図とは異なり相当数がコンピュータマニアに購入された。もう少し、開発の経緯を解説すると、1976年2月、NECは半導体事業部にマイクロコンピュータ販売部を設立し、マイクロプロセッサの販売のために開発環境の供給を開始した。しかし、顧客の元へ訪れて説明しても、なかなかマイクロプロセッサを理解してもらえない状況にあった。


 同じ頃、NECは日本電信電話公社横須賀通信研究所のある研究室から新人教育用のマイクロ

コンピュータ製品の開発を受注することになった。同部門の後藤富雄は部長の渡辺和也に教育用キットの開発を提案した。後藤はTK-80の主要部分を設計し加藤明が詳細設計を行った。後藤はKIM-1の写真からアイデアを取り入れた。KIM-1はソフトウェアで現在のアドレスを表示するようになっていたが、CPUがハング「暴走する」とディスプレイが消えてしまう。


 TK-80は555タイマーICを使ってCPUに割り込みをかけるダイナミックディスプレイを採用した事で、常に現在のアドレスを表示できるようになった。それに加え、TK-80はCMOS

バッテリ機構を搭載していた。後藤はオープンアーキテクチャであったPDP-8の影響を受けて、TK-80のマニュアルに回路図やデバッグ・モニタのアセンブリコードを掲載することにした。


 TK-80は1976年8月3日に発売された。当時の技術者の課長が決済できる88500円の価格が設定された。NECは1976年9月13日に秋葉原ラジオ会館にてサポートセンター「ビット・イン」を開設した。すると、多くのTK-80が電気技術者だけでなく経営者、マニアや学生などにも売れていることが判明した。成宮賢もマニアの1人として、秋葉原ラジオ会館の「ビット・イン」に入り浸って情報収集していた。


 TK-80は月2百台の販売予測に反して月二千台を販売した。この成功を受けて、すぐに他の日本のマイクロプロセッサメーカーはそれぞれのマイクロプロセッサ用に評価キットを開発した。サードパーティからは電源や周辺機器などが登場した。TK80について、成宮賢が所属する東大のコンピューター研究会の仲間達も秋葉原のビット・インに入り浸るようになりパーソナルコンピューターの未来について語り合うようになった。


 当時、日本ではAltair8800は1975年に販売されたが輸入仲介手数料が高かったため売れなかった。Appl℮-IIやPET2001も同様であり高嶺の花だった。その時にNECの研究者から近いうちに日本でもトレーニングキットでなく本物のマイクロコンピューターが発売されると、内緒で教えてもらっていた。


 この同じ年1976年にアップルコンピュータを設立したスティーブ・ジョブズが、ガレージで製造したワンボードマイコンのAppl℮-Ⅰ、スティーブ・ウォズニアックによる設計を販売し少数販売したが、翌年1977年に発売したAppl℮-IIは大成功を収め、同社の基礎を作るとともにパーソナルコンピュータの普及を促した。


 これは整数型BASICインタプリタをROMで搭載しキーボードを一体化、カラービデオディスプレイ出力機能を内蔵したもので、今日のパーソナルコンピュータの基本的な構成を満たしている。Apple IIはオープンアーキテクチャであったため多くの互換機をも生み出すこととなり、同時にシェアも奪われることにつながった。後に互換機メーカーへの警告や提訴を行ったが互換機メーカーが無くなることはなかった。


 これによりコンピューターの巨人、米国IBMと、異端の天才と呼ばれたスティーブ・ジョブズのアップル、日本では日本電気・NECがマイクロコンピューターの開発競争の火ぶたを切った。1977年3月、成宮賢は、東京大学工学部電子工学科を卒業して、祖父の成宮時達の務めるソニーに鳴り物入りで入社した。その時に日本では、1979年に本格的マイクロコンピューターPC-8001が新登場し好評を博した。

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