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13話:パソコン用3.5インチFPD販売終了

 ソニーが作ったIT業界でもっとも有名な規格は3.5インチフロッピーディスクだ。ソニーが3.5インチFPDの販売を終了したのは2011年3月末。当時、既に多くの会社が販売を終了していたが開発会社の撤退には特別な意味を感じた人が多かった。3.5インチFDDを初めて見たのは1982年、ソニーSMC-70の製品の発表会会場であった。


 SMC-70は、8ビットCPU「Z80」を搭載したPCで当時としてはグラフィック機能に優れたソニーらしい製品であった。その後、ソニーはSMC-70の改良型普及機SMC-777を投入し、MSXパソコンとともにHitBitブランドを展開した。MSX-HitBitのイメージキャラクターは松田聖子で「私よりちょっと賢い」というコピーが使われた。


「松田聖子よりもちょっと賢いくらいじゃ、大したことないな」という軽口が叩かれたものである。SMC-70発売当時、私は大学生で発表会のあとも残ってエンジニアの方にいろいろ質問していたら、3.5インチFDを1枚くれた。このFDは後にSMC-777を買った後輩に上げてしまったのだが、今思えば残しておくべきだったと後悔している。


 SMC-70に採用された3.5インチFDはシャッターを開くための切り欠きとシャッターを自動的に閉じるためのスプリングがついていない。そのため、手で開いてからドライブに挿入する必要があった。SMC-777の頃にはシャッターの自動開閉機構が追加されスプリングとシャッターを固定する切り欠きが追加された。後輩はカッターナイフで削って切り欠きを作ったようだ。


 当時のFDは1枚千円ほどしたはずなので、学生にとっては大事な1枚だった。SONY、DSC、SMC-777以降のFDにはシャッターを自動的の閉じるスプリングとシャッターを開けたまま固定する切り欠きがある。SMC-777は内部にCP/M、1.4互換のOSを搭載していた、当時主流だった2.1とは互換性がなく、あまり大きな意味はなかった。一方、内蔵BASICは非常にユニークなものだった。


 たとえば、ユーザー定義関数に名前を付けて再帰呼出しを行うことができた。設計者はLispの心得があるようで、関数定義内での変数代入命令はSETQだった。SETQはLispの関数でQは直後の引数を評価しない「変数名として扱う」quоteの意味である。BASICでquоteには何の意味もないので「SETQのQって何やねん」と仲間内で笑い合っていた。私の勤務先はプロフェッショナル向けコンピュータ教育会社だ。


 3.5インチフロッピーディスクの用途は主に2つあった。1つはパソコンのセットアップ用だ。システム管理作業の演習を行なうため、講習会の前日には人数分のパソコンをセットアップする必要がある。MS-DOSとネットワーククライアントを組み込んだフロッピーディスクから起動することでサーバーからOSイメージをダウンロードしてインストールを行なった。


 その後、フロッピーディスクかフロッピーディスクイメージをネットワークに置き仮想フロッピーディスクから起動するシステムを構築した。フロッピーディスクイメージかの作成には仮想PCの仮想フロッピーディスクを使えるので物理フロッピーディスクを使う必要はない。ただし、ウインドウズ・ビスタ以降は16ビットDOSベースのセットアッププログラムが存在しない。


 そのため、フロッピーディスクからMSDOSを起動してセットアップすることはできない。セットアップにはウインドウズのサブセットであるウインドウズPEをDVDまたはCDあるいはネットワークから起動する必要がある。現在はウインドウズ・サーバー標準のWDS「Windows展開サービス」を利用し、ネットワークブートしたウインドウズPEからセットアップを自動的に行っている。


 もう1つは演習中に作成したファイルを持ち帰ってもらうためだ。演習とはいえ、講習会によってはかなり複雑なシステムを構築する。持ち帰って復習したいのは当然だろう。こちらの用途では、3.5インチ・フロッピーディスクほど安価なメディアは見つかってない。教室のパソコンはCD-Rが使えるが演習用OSによっては書き込み機能が備わっていない。


 一般的にはUSBメモリということになるのだろうがフロッピーディスクFDほど安価ではない。受講者が持ち込んだUSBメモリを使うことは可能だ。しかし、USBメモリの使用が会社で禁止されている場合もあるし都合良くUSBメモリを持ってない場合も多い。Webベースのストレージ機能や電子メールを使って自分に送るのが現実的なところであろう。幸い、一部の教育コースを除き、演習環境はインターネットに接続できる。

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