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ある朝、刀が生えていた

作者: ぐっちょん

花粉症と肩こりがつらくてつい書いてしまいました。

「何だこれ?」


 ある朝、いつものように学校に行こうとアパートを出ると、地面に刀が刺さっていた。それも一本じゃない、そこら中に刺さっている。


「寝ぼけている?」


 たしかに昨日は深夜までゲームをして寝不足だった。最近は眼精疲労や肩こりだって酷い。


 目をこすりもう一度目を開いて見るが、やっぱり刀が刺さっている。変わった刀で(つば)がなかった。


 僕は不思議に思いつつも、なぜか興味を惹かれその刀の柄に触れた。


「……あれ?? 消えた……?」


 僕の手にはしっかりと握った感触があったのだが引き抜こうと思った時には何もなかった。


 そして、そこら中に刺さっていた刀もなくなっている。


「はぁ、重症だ……少しゲームを控えた方がいいかも……」


 僕は何事もなかったようにとぼとぼと歩き学校に向かった。


 ――――

 ――



 僕はこの春に入学したばかりの高校一年生。名前は山田 刀真(やまだ とうま)


 ゲームばかりしていたせいで近くの高校に落ちてしまった僕は滑り止めとして受けていた私立高校に入学した。


 決して高校受験なめていた訳ではないけど、ただ、将来やりたいことが見つからずヤル気がなかったんだ。今となっては少し悔やんでいる。


 それはなぜかというと、私立高校は家から遠く、自転車で通学すれば二時間以上かかる。


 ゲームばかりしている僕にこれからは毎朝二時間以上早く起きろ、と言われても起きる自信がない。といことで渋々アパートを借りることになった。


 寮? 寮は部活をする人から優先的に決まり、僕は定員オーバーで入れなかったんだ。


 それでその借りたアパートなのだが、一言で言うとボロい。しかもワンルームしかないアパートだった。


 そこで気持ちの萎えた僕は、一人暮らしなんて面倒だし「やっぱり通学にしようかな」と言えばうちの両親……


「早くから一人暮らしに慣れるのも悪くないぞ」


 と笑いながら次の日には勝手に契約してきた、そのボロっちいアパートの賃貸契約書を僕に見せた。


 まあ、理由は分かってる。僕の両親は仲がいいから夫婦水入らずでイチャイチャしたいだけなのだろう。


 そのうちに弟か妹ができるかもしれない。


 ――――

 ――



「うぅ、はぁぁ、眠い……朝から変なもの(地面に刺さった刀)見るし……一人暮らしって面倒だな……」


 とぼとぼ俯き下を向いて歩いていた僕は横断歩道で顔を上げた。


 あれ?? なんだ……


 横断歩道の向かい側に立つ人たちを見て違和感があった。よく見れば、その人たち肩に小さくて何やら蠢く異形なモノが見えた。


 その異形なモノには目が一つありギロリと僕に視線を向けた気がした。


 ひぃぃ……


 慌てて視線を逸らすも、その隣の会社員風の男性はもっと酷かった。

 その男性には両肩のほかに頭と両目に、その蠢くモノがついている。


 ひぃ、ひぃ……昨日までは何も見えなかったのに……なんだよあれ!?


 しかもそいつらは一つ目ではなかった。両肩と両目のヤツは三つ目、頭のヤツは四つ目だった。


 その男性は明らかに体調が悪そうにしている。


 な、なんで……なんで周りは何も思わないんだ……それとも気づいてない?


 そう思い、僕は隣で横断歩道の信号が変わるのを待っている会社員風の人や他の学生に目を向けた。


 ひぃ!?


 隣の人たちも同じく、頭や肩、目や口、他にも年を取ったおじいちゃんなんて両手、両足、腰に至るまでほぼ全身にその蠢く異形なヤツがついている。


 ギロリッ!!


 その異形なモノの目が一斉に僕を見る。


 うっ!?


 僕は思わず叫び出しそうになったが、慌てて口元を両手で押さえ信号待ちをしている人々から距離をとった。


 な、なんなんだ……みんなは本当に見えていないのか? それとも僕の目がおかしい?


 結局、すれ違う人、ほぼ全ての人たちにその異形なモノ(ヤツ)がついていた。


 僕はなるべくヤツを見ないように俯き下を向きながら学校に向かった。


 ――――

 ――


 そして、ヤツは学校中いた。クラスメイトの肩や目、頭に一つ目のヤツがいる。


 ……分かった。僕はきっと疲れているんだ……


 慣れない一人暮らしと寝不足が祟って幻覚が見えているに違いない。


 きっとそうだ。


 そう思ってからの行動は早い、僕は体調不良を先生に訴え、保健室で休むことにした。


「お前はたしか山田か。たしか一人暮らしを始めたばかりだったな。疲れでも出たか? 少し休んでよくなったら戻ってこいよ」


「はい」


 ちなみに僕の担任の先生は40代半ばの男の先生で川田先生という。

 気さくな先生で、口下手な僕でも話しかけやすいが、川田先生の肩にも三つ目のヤツがいた。


 ――――

 ――


「失礼します」


「あら一年生? もうすぐ授業が始まるけど、どうかしたの?」


 保健室先生は美人でスタイルがよかったはずなのに(一度だけ腹痛でお世話になった)この先生の頭、両肩、両目にもヤツがいた。二つ目と三つ目のヤツだ。


 ヤツのせいで先生の顔がはっきりと見えない。だんだんとヤツが憎らしくなってきた。


「はい、1年A組の山田です。少し、体調が悪くて……担任の先生にはちゃんと許可もらいました」


「そうなの……そうね……たしかに少し顔色が悪いわね」


 先生が僕の顔を覗き込み、右手を僕の額につける。先生の顔が近づき右手の柔らかさが伝わってくる。


 ……うれしいはずなのに、なんだかうれしくない。


「そうですか?」


「ええ。目に少し隈ができてるわね。夜更かしでもしたの」


 はい、その通りです。とは言えず顔を晒して保健室の鏡に目を向けた。


「え?」


 僕の目と肩に一つ目のヤツがいた。ヤツの一つ目が僕をギロリと見ている。


「な、なんでだよ!!」


 僕は思わずそう叫ぶと、鏡の前で立ち肩や目を両手で取り払おうとするが、ヤツはするりと通り抜け触れない。


「この、この! ……なんでヤツが僕にも」


 何度も何度もこすったり払ったりするがするりと通り抜ける。


「……くん」


「山田くん!」


「山田くん!!」


 ……!?


 気づけば保健の先生に後ろから抱きつかれていた。


「大丈夫。大丈夫だから……」


 僕はそのあと「少し寝た方がいいわ」と保健の先生に言われ少量の睡眠薬をもらい寝ることになった。


「はい」



 ――――

 ――


 ぐぅ〜。


 空腹のあまり目が覚めた。


 お腹が空いた。そういや朝ごはん食べてないや。


 僕は上体を起こし背筋を伸ばした。


 んん〜


 肩こりはまだ残っているが、寝不足は解消されていて目元がスッキリしていた。


「あれ、先生は?」


 時計はお昼を少し過ぎたくらいで保険の先生は昼食を取り行っているのだろうか、保険室には見当たらない。


「はぁ〜、失敗したな…….」


 ぜったい先生には精神異常者認定をされたと思う。


 まあ、ヤツが見える僕は本当に精神がおかしくなったのかもしれないが……


 ……はっ! そうだ。ヤツはっ!?


 先生に抱きつかれ渋々先生の言うことに従ったが、僕の目と肩にはヤツがいたはずだ。


 心のどこかでは見えなくなっていてほしいと願いつつ、僕は覚悟を決めて鏡を見た。


「あれ? いなくなって……ない」


 両目についていたヤツはいないが、両肩のヤツはいる。


「どういうことだ?」


 考えても分からないが、肩のヤツをどうにかしたい。


「なぜ、お前には触れないんだ!!」


 ヤツの目がギロリと僕を見る。


 ムカつくヤツだ、触れれたのなら切り取ってやるのに!


 僕がそう思った時だった。僕は右手に違和感を覚えた。


 何だ?


 違和感が気になり僕が右手を見ると――


「これは……」


 僕の右手には朝、地面に突き刺さっていた、あの鍔のない刀が握られていた。


 いよいよ僕の頭はおかしくなったようだ。


 はははっ、これで斬れってこと?


 自嘲の笑いを浮かべた僕は半分ヤケクソだった。


 いいさ、斬ってやるさ……


 そう思い刀でヤツを斬ろうとしたが、寸前のところで自分の肩まで斬りそうで怖くなり、結局はヤツを突き刺すことにした。


 プスッ!


 まるでゴムボールにでも突き刺したような感触があった。

 ヤツは空気が抜けていくみたいにしぼみやがて消えていった。


「消えた……マジで……!?」


 同じように反対の肩にいるヤツにも刀を突き刺した。


 プスッ!


 また、同じようにまるでゴムボールにでも突き刺したような感触があり、ヤツは空気が抜けていくみたいにしぼんでやがて消えていった。


「ふははは!! ……ざまあみろ」


 うれしさのあまり、つい高笑いをして口が悪くなってしまったが、するとどうだ、ゲームをやり始めた頃から慢性化していた肩こりがスーッと取れていた。


「おおお!!」


 だがしかし――


 ガラガラガラッ!!


 僕な喜びを噛みしめる間もなく保険の先生が両手に昼食を二つ持ち入ってきた。食堂からわざわざ運んできてくれたらしい。


「ドア開けてくれて、ありがとうね」


 誰か通りかかった生徒にドアを、開けてもらったらしい先生が廊下の方を向いてお礼を言っている。


 やばい。


 今の僕の姿は刀を手に持っている完全な異常者だ。僕は慌てて刀を、右手から離そうとするが……


 離れない。やばい。やばい。


 あたふたおろおろしている間に先生がこちらを向いた。


「山田くーん。起きてる?」


 先生が昼食を先生の机の上に置くと立っている僕を無視してベッドの方に向かった。


「あら、いないわね。そろそろ薬が切れる時間だと思って昼食買ってきてあげたのにな……トイレかしら?」


 保険の先生が首を傾げている。


「先生?」


 僕が恐る恐る先生を呼んでみたけど、聞こえている様子は見られない。またもや意味が分からなくなった。


 刀を触ってから、ヤツが見えた。でも周りのみんなには見えてない。

 しかも、ヤツは普通では触れなくて、切りたいと思ったら刀が現れた。

 その刀ならヤツに攻撃できて、ヤツを消滅させた。

 その刀を持っている今の僕は?


 ……見えてない?


 そうだとしたら原因はもしかしなくても刀……じゃあ、この刀を消したら……


 僕がそう思った時には、また右手に違和感を感じスーッと手に持っていた刀が消えていった。


「きゃ!! 山田くん、そこにいたの?」


「え、あ、すみません。と、トイレに行ってました」


「もう、心配したのよ。お腹空いたでしょ。先生買ってきたから一緒に食べましょう」


 そう言って先生が優しく笑みを浮かべた。美人なはずなのに、先生にはまだヤツがいるので残念で仕方ない。

 少し損した気分になったが……


「はい」


「うん。よろしい。おごりだからって遠慮したらダメよ。あら、山田くん。顔色良くなったわね」


「あははは、おかげさまで……」


 急に先生の目の前に現れた形になったようだけど、先生にはうまく誤魔化せたようだった。




「「ごちそうさまでした」」


 昼食後、状況が少しずつ理解でき余裕がでてきた僕は、授業に戻ることにした。


 保険の先生には心配されたが、寝すぎても夜に寝れなくなるし、また寝不足になったらヤツが現れそうで嫌だ。まあ、その時はヤツを斬ればいいんだけどね。


「ありがとうございました」


「無理しないのよ。具合が悪くなったらまたきなさい」


「はい」


 先生が優しく笑みを浮かべてくれたがヤツのせいでまたもや台無しだった。


 だからなのか。僕は、保険室を出ると周りに誰もいないのを確認し、刀を使いたいと思ってみた。


 するとすぐ右手に違和感があり、僕は刀を再び握っていた。


 保険の先生に気づかれないようにそろりそろりとドアを開けると、先生についてるヤツの目が一斉に僕を見る。


 さあ、覚悟しろよ!


 僕はゆっくり先生に近づきヤツを突き刺していく。


 プツンッ! プツンッ!


 一突きでヤツは三つ目が二つ目になった。


 さらに突くと二つ目が一つ目に、一つ目になった後にはしぼんで消滅した。


 変なヤツだ。


 先生についていたヤツを消滅させると先生の整った美人な顔がしっかりと見えた。


「あら? 急に肩が軽くなったわ。ええ? なんで? 目の疲れも偏頭痛も……治ってるわ」


 先生の困惑した顔もやっぱり美人さんだった。


 よし!


 僕はその結果に満足し、保険室を後にし刀を消したのだが、すぐに気落ちした。


 この刀、手に持って普通に歩いていたけど、僕の右足を普通にすり抜けていた。


 ほとほと僕は注意力に欠けるようだ。


 これすり抜けてなかったら僕の右足はいまごろ……うぅ〜、怖い怖い。



 こうして、僕の終わりの見えない戦いが始まる? のであった。



お気づきでしょうが、ヤツの正体は病魔らしき者です……

武器は執刀するという意味から刀にしました。^ ^

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