序章
京都の街を疾走する1つの影。屈強な壁に行く手を阻まれながらも逃げ惑う。そんな抵抗も虚しく路地裏に追い込まれジリジリと距離を詰めたれてゆく。
「また雑魚共がわんさかと。。。」
追い詰められているはずの影の主は余裕の笑みを浮かべながら逃亡ルートを目だけで探している。
「いい加減ついて来てもらいますよ。」
物騒な見た目とは裏腹に優しい声色だ。それとも、怯えているのか。
怯える?そう、彼らは目の前の少女1人に恐怖を覚えている。それでも彼らがこんなことをしているのはクライアントがそれ以上に恐ろしいからに他ならない。だから男達は下がらない。
「お嬢様。もうてっぺん回ってるんです。ここいらで折れてくれませんかぁ?」
「旦那様も待っています。こうまでして連れて帰れないんじゃあこっちの首が持ちません!」
お嬢様と呼ばれた影の主はここぞとばかりに強気にでた。
「松下無しでどうやって私を連れて帰るつもりよ!あんた達だけじゃ、ぜぇぇぇったい無理なんだから!」
「お嬢様。お呼びでしょうか?」
総白髪をオールバックにした男が片膝をついて返事をする。
「なっ、何で松下がっ!」
予想を超えた人物の登場に少女は驚きを隠せない。
「私はあなたが睡眠剤を飲んで寝たのを確認した上でガムテでぐるぐる巻きにしたのよ!それなのに 、それなのに。。。」
「その程度で動けなくなるのではこの家で執事など到底できないため。お許しを。」
少女は舌打ちをし、周りの男達は改めてこの老人の恐ろしさを知った。
「あぁ、もう負け負け。私の負けよ。もう煮るなり焼くなり好きにしなさい。」
観念したかのように両手をひらひらさせ車に乗り込む少女。男達は安心して息をついている。
「それではお屋敷に戻りましょう、茶々様。旦那様がドレスルームで待っていらっしゃいます。」
「ねぇ、松下。私は本当にあの中のどれかを着ないといけないの?」
「私は制服でもいいと思うのですが。。。旦那様はドレスがいいと」
「なんなのおかしいでしょ!何で高校の入学式にドレスなんて着ないといけないの!」
「私に言われましても。。。」
自らの執事の無慈悲な言葉に茶々は絶叫するしか無かった。
「もう、バカァァーーーー!」
ー京都の夜に叫び声が谺響する。桜が見頃を迎え、新たな季節がやってくるー