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復讐の神々  作者: ポルポル
2/4

アルの旅立ち

「お父さん、おはよう!お母さんはどこ?」


「おはようアル。お母さんは買い物に出かけているよ。」


ここはフェランシス王国のとある小さな村。

今年で5歳になる少年、ピース·アルバートは父と母と3人で仲良く、慎ましく生活していた。


「そっか、お父さん。山で遊んできてもいい?」


アルは村の外れにある小さな山で動物を観察したり、形のいい綺麗な石を見つけることが大好きだった。


「あぁ。言っておいで。お昼には戻るんだよ。」


父は快くアルを送り出した。


「わかった!行ってきます」


アルは元気よく外へ飛び出した。


山の奥から聞こえる山鳩の鳴き声。山の中に降り注ぐ木漏れ日。草木の匂い。

この村で生まれ育ったアルにとって、山は1番大好きで1番心が休まる場所だった。


「今日は何して遊ぼうかな」


山についたアルは周りを見渡す。

昨日はどんぐりを集めた。一昨日は木登りをして遊んだ。その前は秘密基地を作った。


「今日は綺麗な石を探そう」


アルはいつも綺麗な石を見つけると、父と母にそれを自慢し、自分の宝箱にしまう事が楽しみだった。


「この前はあっちを見たから、今日はあっちにしよう」


アルは山の上から湧き出る小川の傍で石拾いをする事に決めた。小川と言っても深さは子供のくるぶしほどもない、浅い小川だ。


アルが四つん這いで石を探していると、小川の中で「チカッ」と何かが光った。

普段は余り川の中まで入らないアルだが、服を汚してしまうことの罪悪感よりも好奇心が勝り、靴を脱いで小川の中に入っていった。


「確かこの辺で光ったように見えたんだけど........」


アルが水中を覗き込むと川の流れの中、石に引っかかったものを見つけた。


「ゆび…わ?」


光ったように見えたのは、赤い石のはめ込まれた綺麗な指輪だった。


「きれい…」


指輪などほとんど縁のないアルだったが、子供ながらに「宝物」を見つけたような気分になり、これを母親にプレゼントしたいと思った。


アルは指輪をズボンのポケットにしまい、靴を履いて急いで家まで走った。

すぐにでも母にこの指輪を見てほしい。


母の喜ぶ顔が頭に浮かび、アルも笑顔になった。


「ただいま!!お母さんは!?」


玄関を開けるや否や、アルはイスに座りお茶を飲む父に尋ねた。


「おかえり、随分早かったね。お母さんはまだ買い物だよ。きっとそろそろ帰ってくるんじゃないかな?」


「あのねお父さん!山のところでね!これ拾ったんだ!!」

アルは敢えて川で拾ったとは言わなかった。川で遊ぶ事を禁止されている訳では無いが、いつも危ない危ないと母に言われているので、少し後ろめたい気持ちがあったからだ。


アルはズボンのポケットから指輪を取り出し、父に見せた。


「拾ったって、、指輪?誰かが落としたんじゃないのか?こんな高価そうなもの」


「誰かって誰!?だって山だよ?この村の人以外に誰かあの山に入るの?それにこの村でこんな指輪してる人みたことないよ!」


アルはせっかく拾った指輪を、元の場所に戻してこいと言われるのを防ぐために父を必死で言いくるめた。


「お母さんにあげるんだ!お母さんにつけてあげたいの!!」


「わかったわかった。じゃぁアルからお母さんに渡しなさい。って、アル!!ズボンがびしょ濡れじゃないか!!さては、川で遊んだな!?」


「うっ」


「まったく…お母さんに怒られるから、早く着替えてきな!」


「…はあい。指輪無くすの嫌だからここに置いておくね。」


アルは家の裏にある井戸に、ズボンを洗いに行った。


アルの父はそんなアルを見て、微笑んだ。


「いい子だなアルは。ふふっ。俺には全然似てない。」


そう言ってお茶を啜った。


するとそこに買い物を終えたアルの母が帰宅した。

両手いっぱいに荷物を抱えていた。


「ただいまあなた。今日はトマトと卵が多く入ったみたいで、おまけして貰えたわ。」


「あぁ、おかえり。お茶が入ってる。一緒に飲もう。」


「ありがとう。ところでアルは?」


「あぁ、アルなら裏じゃないかな?遊んで少し汚れたみたいだ。服でも洗ってるんだろう。」


「また川にでも行ったのかしら?まったく…あら?この指輪はなあに?」


アルの母はアルが置いていった指輪に気づき尋ねた。


「あぁ、山でアルが拾ったらしい。誰かが落としたのか、高価そうだろう。アルは君にプレゼントするつもりらしい。」


「山で?それは嬉しいけどあたしにはちょっと派手すぎないかしら?」


「派手というか、うぅん。本当に何故こんなものが山に落ちてたんだろうか。」


アルの父は指輪の内側に文字が彫ってあることに気づき、指輪を手に取った。


「内側に名前が彫ってあるぞ。一体誰のものだろう…ガウ…ナ…ヴ」



名前を読み終えたその時、アルの父は意識を失い倒れた。


「あなた!?あなた!?どうしたの!?あなた!!!」


アルの母は、夫の体を強く揺らし大きな声で呼びかけた。


「あなた!!起きて!!あなた!!」


「……」


「あなた!気がついたのね?どうしたの一体…」


アルの父は目を覚まし、自分の手を見つめ、アルの母を見つめ、周りを見渡し、口を開いた。


「何千…何万年だろうか。ククク…フハハハハハァ!!」


アルの父は狂ったかのように笑いだした。


「あ…なた?どうしたの?様子が…」

とアルの母はが言いかけた瞬間、アルの父はアルの母の首を掴んだ。


「人間。これは復讐だ。我々神を裏切った、愚かな貴様らへの、だ。」


「他の奴らは目覚めてるんだろうか?まぁいい。久方ぶりの肉体だ。ゆっくり探そう。」


アルの母は豹変した夫の姿に、理解が追いついていなかった。

なぜ夫がこの様な行動に出たか、違う、この人間は夫では無い。

朦朧とする意識の中でアルの母は問いかけた。


「あ…な…た…誰………」


父は不敵に笑いながら、答えた。


「神だよ」



その時、家の裏で汚れを拭き終えたアルが部屋に戻ってきた。

変わり果てた形相で母の首に手をかける父。

まさに目を疑う光景だった。


「お…父さん?」

恐る恐るアルは父の姿のそれに声をかけた。

「お母さん苦しそうだよ?ね、ねぇ?やめてよお父さん…」自体を理解できずとも、母が苦しんでいることは理解出来たアルは、恐怖を押し殺し父へ言葉をかけた。


「なんだガキ…お前か。ありがとよ…お前が運んできたおかげで「体」が戻った。お前でも良かったんだがな、まぁガキよりは大人の方がまだマシだ。」

「お前のおかげだ。お前のおかげで俺は体を手に入れて、こうして人間共を殺すことが出来る…」


「なに…?怖いよ…お父さん…嘘でしょ?冗談でしょ?やめてよ…」


父の姿のそれからでた言葉をアルには理解出来なかった。

アルが恐怖で身体が硬直しているのに気づいたのか、母はアルに向けて言った。


「ッ…アルッ…………!逃げ…なさい…!!誰か…人を……」


「おいおい!人を呼ぶって?そいつは困るな、まだ体が「馴染ん」でねぇんだ。今はまだ困るぜ?」


父の姿をした何者かは、アルに向けて言った。


「いいぜ、てめぇは見逃してやる。体運んでくれた「礼」だ。」


アルは理解した。この人はもう父ではない事、そして最愛の母の命を奪おうとしてる事。


「嫌だ!!や、やめろ、!母さんを離せ!!離せ!!!出てけ!!家から出ていけ!!」


アルはその男に立ち向かい、拳を握りしめ足元を殴りつけた。

しかし、5歳の子供のアルが大人に抗える訳もなく、軽く足蹴にされ、頭部を踏みつけられた。


「拾った命大切にしろよ?どうせ先短いんだ。」


そう言うと男はアルの母親の首を片手で閉めたまま宙吊りにし、もう片手で母の胸を貫いたのだった。


血が滴り、地べたに這いつくばったあるの目の前に血溜まりが出来た。


「やめろ!!!やめろぉぉおお!!!!やめてぇえええええ!!!!」


アルの必死の叫びも虚しく、アルの母親の命はすでに風前の灯だった。

男はアルの母の体から腕を抜き、まるで興味が失せたかのようにアルの母の喉から手を離し、アルの母は床に転がり落ちた。


「嫌だ…嘘だ……お母さん…!!お母さん!!」


「…………アル……」


「お母さん!嫌だよ!死んじゃ嫌だ!!」


「…逃げて。絶対………生きて……」


「嫌だ!!嘘だ!お母さん!?お母さん!?」


あるの目の前で母はアルに微笑むと、そのまま息絶えた。


家の外ではアルの叫び声を聞きつけた村人たちが集まってきた様子だった。


「ピースさん?どうしたんですか?アルくんの声がウチまで聞こえましたけど、なにかあったんですか?」


ドアの外側から村人たちの、心配そうな声が聞こえた。


「チッ。人が集まってきたか。面倒だ。今のままじゃぁ不味いかもな。」


「おいガキ。お前は特別に殺さないでおいてやる。しかし忘れるなよ、俺たちは必ずお前ら人間を絶滅させる。」


「何年、何百年、何千年かかろうが必ずだ。」


「貴様ら人間にはその罪があり、俺たち神にはその大義がある。」


「周りに伝えろ、そして恐怖しろ。神が蘇り復讐の狼煙をあげた、と。」


「覚えておけ、俺の名は【ガウナヴ⠀】死を司る神だ」


「またなガキ」


母は亡くし、呆然としているアルにガウナヴはそう声をかけると、黒い煙に身を包み、忽然と姿を消してしまった。


それと同時に村人たちがドアを開ければ家の中になだれ込んで来た。


「一体どうしたんですピースさん」

そう声を出すや否や、目の前の惨状に一同言葉を詰まらせた。


「これは…一体……ひどい」


「アルくん!こっちへおいで!見ちゃダメだ!」

胸に穴を開け息絶える母の血の海にしゃがみこみ、呆然と母を見つめていたアルに村人は声をかけ、母の遺体から遠ざけた。


「一体どうして…こんな…」

村人たちも理解が出来ずにいた。


「アルくん、お父さんはどうしたんだい?」

村人はアルに尋ねた。


「お父さん…変わっちゃった……」


「変だった……お母さん…を……っうう」


「……ああああああああぁぁぁ!!」

糸が切れたかのようにアルは感情をあらわにした。


「落ち着いて!アルくん!大丈夫だから、もう大丈夫、怖くないからね」

村人はそうアルに言い聞かせアルを抱き寄せた。


アルはそのまま村の教会に預けられ、村人たちは隣町の屯所にいる役人と憲兵に事の顛末を伝え、アルの供述と、畑で仕事をしていた村人が血まみれの服を着たアルの父親に良く似た人物を事件後遠くで見かけたと言う証言から、アルの父親は殺人犯として手配されることとなった。


アルは身寄りをなくし、行く宛も無かったことを不憫に思った協会の神父が身元を引き受け、教会で暮らすこととなった。



目の前で父親が母親を殺害した光景はアルの心に大きく傷をつけた。

アルは教会に引き取られた後も、誰とも関わりたがらず、ずっと1人で協会の本を読みふけっていた。


それから6年ほど経ち、アルは11歳になっていた。

村人たちはその生い立ちからアルに心底同情し、村人みんながアルを我が子のように可愛がり、神父もまた厳しくしつつも愛を持ってアルを育てた。


アルも人前で笑うようになりはしたが、協会で本を読みふけるのは相変わらずだった。


「神父様、おはようございます。」


「えぇおはようございます。」


教会に尋ねてきた村人は他愛のない挨拶を交わし、神父に尋ねた。


「アルくんはまた書物庫ですか?」


「えぇ、いつも本ばかりです。この6年で私でも読まないような難しい本まで読んでしまいまして。」


「それは将来が楽しみですな。」


「しかし、あの様子は何かを学んでいる、と言う訳でもなさそうなんです。学ぶと言うより、何かを、ずっと、探しているような。」


村人と神父が話をしているさなかも、アルは本を読みふけっていた。


「神の言葉…これも違う。近年の創作だ。」


「この本は…生物の進化…違う」



「あるはずなんだ。アイツが自分で言ったんだ。」


アルはずっと探していたのだ。

母を殺めた男が名乗った「ガウナヴ」という名前を。


記憶が曖昧だったせいか、他のことは全て忘れてしまったが、この名前だけは覚えていた。

アルはこの名前だけを頼りに、この6年間本でその名前を探していたのだ。


「無い。この棚も読み終えちゃった。」


深く溜息をつき、アルは山積みになった本を本棚へ戻していた。

手が届かない上の段に本を戻すため、アルは台へと足を掛けた、が持っていた本の重みでよろめき本棚ごと倒れてしまった。


「っい…てててててて…」


アルは自身に倒れてきた本棚を退かし、散らばってしまった本を集め直した。


すると、先程まで本棚があった壁際に1冊の本が落ちている事に気づいた。


「これは…」


随分古い本だった。

ところどころほつれ、破けていた。


表題には「禁忌」とだけ記されていた。


禁忌。


アルはたくさんの書物を読んだため、年齢以上の知識は身につけていたが、禁忌と言う言葉には触れたことがなく、その意味もアルは知らなかった。


アルはその本に手を伸ばした。


禁忌、とは一体何なんだろうか。

一体何が記されているのだろうか。


今までにない期待を胸にアルはページを開いた。


書物に最初の頁にはこう書かれていた。


「ここに残すのは我々人間が犯した過ちであり、その記録である。」


「我々人間は己の欲望、嫉妬を抑えきれぬ愚かな生き物だ。」


「あろう事か我々人間は、生みの親とでも形容すべき、いやまさに生みの親と言えよう神に嫉妬し、裏切り、そしてその命を奪ったのだ。」


「人間は神を陥れた。殺してその力を奪うために。」



この書物にも知りたい情報は無さそうだ、とアルはページをはらりと捲った。


そこには忌々しくも数年間求め続けた「あの名」が記されていたのだ。



「ガウナヴ 死を司り、人間に寿命をもたらし、冥界へと誘う神。」


アルは震えが止まらなかった。数年間求め続けた答え、そして自分の中に眠る記憶が呼び覚まされたのだ。


「あいつ…言っていた…復讐だって…」


「体が…も…戻った…って」


「僕の……………お陰だっ…………て」


アルは本の情報と、自分の記憶を繋ぎ合わせ、1つの結論を導き出した。


「指輪だ……僕が拾った指輪…あの指輪にガウナヴは「入って」たんだ…ずっと待ってたんだ…体を手に入れるために……」


アルが本に視線を戻すと、ガウナヴの他にも数十名の名がそこに刻まれていた。


「戦の神……アテナ………炎の神…アグニ…風の神…書物の神…強奪…平和…天候…大地…まだまだいる…」


アルは理解した。


人間がかつて神を裏切り滅ぼしてしまったこと。

そしてその事実を人間は歴史から消し、他言することを禁忌とした事。


そして神は滅んだ訳ではなく、体を失った今も尚ガウナヴのようにどこかで「復讐」の時を待ち続けているであろう事を。

そして、なにより自分の軽率な行いが父と母を奪ってしまった事。



その日の夜、部屋から出てこないアルを不思議に思った神父はアルの部屋を尋ねた。


アルの姿はそこにはなく、一枚の手紙が残されていた。


「今までお世話になりました。父と母の仇を打ちます。探さないでください」


と。神父はすぐに近隣の町や村を探したが、アルのことを見つけるには至らなかった。


そして、6年ほどの月日が流れた。




事件はフィランシス王国のとある町で起こった。

この町の住民の生活は、1年ほど前現れた一人の男の力により一変してしまった。

男はたった一人で町の駐在兵を制圧し、町民に月一度の献上金を求め、見返りとして命を保証していた。

払えなければ殺す、逃げても殺す、逆らっても殺す。集めた町民たちの前で不思議な力を使い町長を勤めていた男の首を素手でねじ切りながら住民たちにそれを強要した。


男の名はガストンと言った。

ガストンはその辺のゴロツキを自らの部下としてまとめあげ、町の真ん中に屋敷を構え、史上最悪の町長として君臨し、駐在兵をも買収し、町は陸の孤島と化していた。


町民たちは献上金のせいでろくな生活も出来ぬまま、ただ自らの命を買うために働き、絶望していた。


日も落ち、静まり返った町の中でガストンの屋敷だけは大いに賑わっていた。


「ははぁ、今日も酒がうめぇ。」


「肉もうめぇ。これで後は女でもいれば最高なんだがなぁ」

下品な声で笑いながらガストンは晩酌を楽しんでいた。


「町の女でも連れてきましょうか?お頭。」

部下であろう男がガストンに問いかけた。


「町の女なぁ…この町の女はどうもしみったれた顔をしてやがるからな…どいつもこいつも…まるで不幸って顔をしやがる…女ってのは愛想が良くなきゃならねぇからなぁ。それにやせ細ってて抱いてもつまらねえ。」

自分のせいであると言う自覚は一切無いのであろう様子でガストンは言い放った。


「ならその辺の他所の町にでも行って攫ってきましょうか?2人でも3人でも…」


と他の部下がガストンに提案した。


「バカが。他所で人が消えりゃあこの町まで探しに来るかもしれねぇだろうが、この町のことは知られねえのが1番なんだ、だから見張りも立ててんだ。面倒ごとはゴメンだぜ。」

ガストンは葡萄酒を飲み干すと、にやけたような顔で部下に言った。


「確かにそうですね…でもお頭のその「力」がありゃあこの町どころか軍そのものを壊滅出来るのでは?」


「まぁな、出来ねぇこともねぇだろうが、別にそこまでして得るものとここで安全に支配しながら得る生活、俺ァそんなに差があるようにも思わねぇし、このままでいいんだ。このままこの町をしゃぶり尽くしてやるさ。」


ガストンと部下が笑い転げているところに、1つの知らせがガストンの元へ知らされた。


息を切らしながらガストンの部下が宴を開いている部屋に現れた。

「この町に侵入者だ!お頭!見張りの交換に行ったら見張りしていた2人がやられてる!!」


「やられてる?死んだのか?」


「いやっ…息はあります。気絶しているだけのようで。」


「そうか。なら殺しておけ。見張れない見張りなんかいらねぇ。」


「…わっわかりました」


「さて、侵入者か。わざわざ見張りを「やっちまう」ってことはただの迷い人って訳でもねぇだろう。」


「確実に俺を狙ってやがるな」


ガストンは不敵に笑った。


「お頭、俺達も下見てきやす。なんだか騒がしいような…」

そう部下が言いかけたところで、ガストンの部屋のドアが開いた。


ギィィっと音を立てて開かれた扉の向こうには、ニット帽を深く被り、深緑色のコートを羽織った少年が立っていた。


「お前…誰だ!?下のやつらはどうした!?」

ガストンの部下はナイフを少年に向け声を上げた。


「全員生きてるよ。大丈夫。殺してないから安心して。」

少年は優しく答えた。


「ふっ、侵入者だと騒いで、蓋を開けてみればただのガキじゃねぇか。おいガキ。俺が誰で、てめぇ自分が何をしてるか、理解出来てんのか?子供の遊びじゃすまねぇんだぞあぁ!?」

ガストンは少年に怒鳴りつけた。


「分かってないのはお前だよ。見張りも含め、あんたの部下全員ぶっ飛ばして来た僕が「ただのガキ」だと思ってるのかい?」

少年は続けて話し始めた。


「とある噂を聞きつけたんだ。」


「ある町が周りの町と関わりを絶って、内情が全く外に漏れないようになってる。って。」


「すぐピーンと来たよ、たぶんどっかのバカが「力」手に入れて調子に乗っちゃったんだろうってね」


少年はガストンを睨みつけた。


「こいつ…お頭の「力」の事を知っている!?」


「バカな奴だ!お頭は神の啓示を受け神の力を生まれ持って与えられた超越者だぞ!殺されちまえっはははっぁ!!」


「ふうん。そういう事にしてるんだね。」

「まぁそうだよね。奪われて寝首かかれちゃたまらないもんね」


ガストンは苛立ちを隠せないようだ。

「何が言いたいテメェ…一体何が目的だぁ!?!?」


ガストンの怒鳴り声が部屋中に響いた。


「教えてやりなよ。力は生まれ持ったもんじゃないって。神様から「借りてる」だけだって」


少年は淡々と続けた。


「過去に人間たちに滅ぼされた神は、力を人間には渡すまいと身につけていた物に力を封じ込めた。己の魂と共にね。」


「それは【神具】(ハーツ)と言い、身につけた人間は試されるんだ。素質がなければ体をたちまち神に奪われてしまう…が素質があれば借りることが出来るんだよ。」


少年は右手を突き出した。

その右手の中指には指輪がはめられていた。


ガストンは叫んだ。

「まさかッ!!テメェも!!ははぁ!!おもしれぇ!俺も「持ってる」やつとやるのは初めてなんだ!すぐにおっ死ぬんじゃねぇぞ!!」

ガストンの身につけていたネックレスに付いた宝石のようなものが輝き始め、ガストンの体は光に包まれた。


「進化させろォ!!バルドル!!」


そう叫ぶと光の中から腕は4本に増え硬質化し、その手の爪は猛獣のそれのように鋭く尖り、異形のものと化していた。


「バルドル…確か進化を司る神だったか」


少年はガストンの姿を注意深く観察した。


ガストンの体は文字通り「進化」していた。

握力も腕力も通常の時とは比にならず、大砲すら殴り飛ばす反射神経をも得ていた。

ガストンはこの力を使い町を支配していたのだ。


「ガキ!テメェは何を「持ってる」んだ!?俺は攻撃を受けてもすぐに「進化」するッ!!テメェに勝ち目はねぇぜ!!」


ガストンは少年に向かって突進して行った。

脚部も進化しているのであろう、人間には考えられない瞬発力だった。


「僕の名前はアルバート。ピース·アルバート。」


少年はアルだった。

村を飛び出し6年もの間行方が分からないでいたアルがガストンの前に立ちはだかっていた。


「進化の神…大したスピードだ…でも」


アルの手にはめられた指輪が眩く輝き出した。


「歌え…アネモイ!!!」


アルがそう叫ぶと、屋敷の中であるにも関わらず部屋中に突風が吹き荒れ始めた。


「まさかテメェのソレは!?12神の1柱…風神アネモイ!?」


ガストンは突如吹き荒れ始めた突風により壁に叩きつけられた。


「風よ歌え…」


アルがそう呟くと吹き荒れていた風が止み、当たりは静まり返った。


「おもしれぇ!風の神!テメェぶっ殺してそれも手に入れりゃ俺は最強だ!!4つの硬質化された腕の攻撃を風で防げるか!?」

ガストンがアルに向かって拳を振り上げた瞬間、アルの姿はガストンの眼前から消え、アルはいつの間にかガストンの後ろにたっていた。


風神曲(ダンテ)…!」


アルは風を手元に集め作り上げた風の刃でガストンの体を切り裂いていた。


「か…風の刃……だと!?」


「致命傷は避けてるよ。別に殺すことが目的じゃない。」


アルは攻撃を受け倒れたガストンに近寄り、ガストンの身につけていた「神具」を取り外した。


「なっ!?テメェ…返しやがれ…ふざけやがって…はぁはぁ…」


「僕は神具を全て、回収する。」


「これは今の世の中「あってはいけないもの」なんだ。君みたいなやつも出てくるし、なにより何個かは復活してしまってる。」


アルはコートのポケットに神具をしまいながら話し始めた。


「きっと何人かは人間に復讐するために動いてるかもしれない」


「僕の目的はね、全ての神具を集めて破壊することだ。」


「バカが…そんな事……何個あると思ってやがる……」


「関係ない。それをしなきゃいずれ本当に「終わっちゃう」からね」


「今すぐ町から出ていけ、子分も全員連れて今すぐだ。金も食べ物も全部置いていけ。どうせこの町から奪ったものだろう」


アルはガストンに強く訴えかけた。


ガストンは諦めたように笑いながら、アルへ尋ねた。


「ふ…わかったよ……殺されねぇだけありがたく思うぜ。最後に聞かせろ…なんでわざわざそんな面倒な事をする?テメェも神具使えば楽して暮らせるだろうが…」


「僕は昔、神具を父親に渡したおかげで父と母を失った。」


「父さんの体を奪ったアイツは父さんの体で今この瞬間にも人を殺しているかもしれない」


「目覚めさせてしまったのは僕なんだ。それが僕なりのケジメってわけさ。」


アルはあの日から毎日自分を責め続けていた。

父を、母を、自分のせいで失ってしまったと。


「なるほどな…そんなモンだとは知らずに使ってたぜ……わかった。今すぐ出てく。ったく、最低な一日だ。」

ガストンはボヤきながら部下に肩を貸すように言いつけた。


「この町の人は全員お前が町に来た時そう思ったろうね」

アルは部下の手を借り担がれるガストンに向かい言った。

ガストンは特に何も答えなかった。


翌日町中に金品がばらまかれ、町の真ん中にあったガストンの屋敷はアルによって破壊された。


金品が戻り、ガストンが消えたことを悟った町の人々からは涙が消え、大いに笑った。


名前も名乗らずガストンを退治し、町民に金品を返す義賊のような人間が町を救ってくれたと、人々はその名前も知らぬ少年のことをこう呼んだ。


Tear bandit(涙を盗むもの)と。

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