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私はその命令を守りました。
もともと夫の仕事用のものなど、なんの興味もありませんでしたが。
私はその鞄を開けてみました。
中にはよくわからない書類、見たことのない図面、手帳や筆記用具などがありました。
そしてそれらの下、鞄の奥底に、小さなデジタルカメラがあるのを見つけました。
家庭用のデジタルカメラはあるので、おそらく仕事用なのでしょう。
私はなにも考えずに、そこに収められている写真を液晶画面で順番に見ていきました。
最初の数枚は見たことのない何かの機械がいくつか写っていました。
しかし次の数十枚は、全く違っていました。
そこには行方不明になったまゆちゃんがいたのです。
どうみても隠し撮りにしか見えないそれらの写真に私はショックを受けましたが、最後の一枚はそれ以上の衝撃で私に身体を貫きました。
それは彼女が後ろ手に縛られ、口をガムテープでふさがれて、土の床に転がされている姿をとらえたものだったのですから。
彼女は大きな目をさらに見開き、涙をうかべてこちらを見ていました。
頭が真っ白になるという表現がありますが、その時の私はまさにその通りになってしまいました。
しかししばらくして、時の流れと言う偉大なものが私を呼び戻しました。
正気に戻った私は、デジタルカメラに記録されている写真を全て削除すると、何事もなかったかのようにそれを鞄の奥底にしまいこんだのです。
それが十年ほど前のことです。
まゆちゃんは未だに見つかっていません。
終




